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城砦建築の召喚術師  作者: 狸鈴
前章 レガシー編
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大魔王たぬき事件 6

3/9改稿しました

 商人視点


 「ふむ、騎士は失敗したようだ。一つのアイテムも奪えなかったと元ギルドマスターから連絡が入った」


 「ククク……奴はPK四天王の中でも最弱……、所詮は我らの面汚しよ」


 「まあ確かにな」


 PKer……その台詞は負けフラグだ。騎士は指揮官として有能ではあるのだが、権謀術数が得意ではない。元ギルドマスターも含めて所謂脳筋だ。


 「すでに作戦を第二段階に移行しているはずだ。まだ連絡が無いという事は交渉に手間取っているのだろう」



 初戦で戦闘になった上で何の成果も得られない場合は、作戦の二段階目として『ツヴァイ』の砲撃作戦を行う予定になっていた。と言っても本当に砲撃するわけではない。相手が『ツヴァイ』を見捨てるか見捨てないかを知る必要があったのだ。


 もちろん『ツヴァイ』には一般のプレイヤーが一杯居るので、砲撃すると全プレイヤーから目の敵にされるのは当たり前だ。そんな所に攻撃を仕掛けるつもりは毛頭ない。


 相手が見捨てなければそれなりの譲歩を引き出せる。仲間のプレイヤーからは顰蹙を買うが、何も戦果が無かった場合の『策』であり攻撃するつもりは無かったと言えば納得するだろう。相手が見捨ててももちろん攻撃しないが、相手のモラルを扱き下ろす事でこちらの求心力の増加が見込める。あくまでも初回を収穫なしで終わらせる訳には行かなかったからという策なのだ。


 元ギルドマスターにしか知らせていないのも失敗しないためだ。こういうブラフは知っている存在が多いとばれる事が多い。ここまでやったのだ、次の戦いの為にも早く結果を知りたいものだ。



 ……物音がする。誰か戻ってきたのだろうか。





 『出て来ぉぉーーい!くそったれ!チキショウ!』

 『野郎ォオブックラッシャー!』

 『出て来やがれ、ツラァ見せろ!チェーンガン(上級土魔法)が待ってるぜ!』

 『……畜生ぉっ!眉間なんか撃ってやるもんか!ボールを吹っ飛ばしてやる!』


 聞き覚えのあるスラングが聞こえる……どうやら複数人がこの屋敷に侵入したようだ、一体警備は何をしているんだ。避難したほうが良いかと考え席を立つとドアが勢い良く開かれる。


 「いたぞぉ!いたぞぉぉーーーーー!!」


 一体どういう理由でこの暴漢達が侵入してきたのかは分からないが、目当ては私のようだ。PKerは視線が届かない所に隠れている。可能性として有るのはアイン城砦側からの刺客か。私を脅した所でもう止められないのにご苦労な事だ。


 一人の男が室内に入ってくる。この男は見覚えがあるな。


 「失礼する」


 男が喋る。本当にその通りだ。


 「ふむ……君には見覚えがあるが、今回はどういう用件なのかな?余りに紳士的とは言えない訪問の仕方のようだが」


 「そうだな、積もる話もあるがまず言う事がある。そこの男、隠れてないで出て来い。ミンチにされたく無ければな」


 出てこないのか。警戒しているようだな。


 『ドカンッ』


 「次は当てる、できればお前にも話を聞きたい」


 流石に出てくるか……この部屋に居る確信を持っていたようだ。これは少し手強そうだ。


 「今君達は大人数で我々に魔法と剣を向けている。何故その様な事をする必要があるのか聞かせて貰えるかな?」


 商人であるからには表情を読む事に長けている。今、この男達から読み取れる感情は怒りだ。しかもこの男は解放軍の隊長の一人だったはずだ。何故そのような感情を向けられないといけないのかが分からない。


 「そうだな、では商人であるお前と、悪名高きPKerが何故同じ部屋にいるのかを聞こうか」


 ここは嘘を付くところではない。正直に答える。


 「こいつはリアルでの知り合いだ。知り合いと話してはいけないという法は無いはずだが?」


 「そうか、なら隠れていた事は問わん。こちらは挨拶もしなかったのだからな」


 変な問答をするほど暇ではないのだ。やり取りにイラッとする。


 「それでは用件は?それだけならお帰り願いたいのだが」


 「そう急くな。……そうだな、300トンくらいのガレオン船がアイン城砦側に拿捕された事は知っているか?」


 「なん……だと?」


 初耳すぎた。一体奴らは何をやっているんだ!落される前に連絡すらできないのか!事実であっても無くても、あれは今回の作戦ではそれほど重要な役割ではないとすぐに平静を取り戻す。


 「初耳だ。あれ諸君らの援護、アイン城砦が篭城した場合の切り札だ。その切り札が無くなってしまったのは痛いな」


 「そうだな、だが今回は使う必要がなかったはずだ。なのに拿捕された船の船長がおかしな供述をしていてな?命令があれば『ツヴァイ』を砲撃する準備をしていたと言うんだよ。遠距離型のプレイヤーを乗せている船でな。ちなみに同一の証言をプレイヤー達もしている」


 そうか、そちらか。こちらも下手に隠し立てしないほうがいいな。


 「それは作戦の第二段階だな。もちろん攻撃するつもりは無かった。その『命令』を出すのは元ギルドマスターだ。彼にはもし今回何の収穫も得られない場合は、『ツヴァイ』を一旦人質に見せて今後の為に反応をうかがう様に言っていた。誰も知らなかったのはブラフは知る人が多いと失敗するからだ。誤爆を防ぐためにも本人以外の命令は聞かないようにと全員に言い渡してあっただろう?」


 「つまり元ギルドマスターが攻撃命令を出せば、『ツヴァイ』は攻撃されていたという事は認めるんだな?」


 重箱の隅をつつくような事をする奴だ。間違いではないから認めるしかない。


 「前提として命令を出すものに『出さない命令』を出していたという事は主張するが、確かに命令を出せば即攻撃される状態になっていた」


 まさか……押したのか?『ツヴァイ』に居る人員からは問題があったという連絡は無い。が、先に聞いておくべきだろう。


 「まさか、あやつは『アレ』を押したのか?」


 「ああ、押した。船を拿捕したとアイン城砦側から言われた後だったがな。売り言葉に買い言葉で押したのだ!ブラフでの回答であったら街は火の海だったんだ!船長に確認させたから間違いない」


 なんということだ。これでは言い訳のしようが無いではないか……。


 「まあそちらについては、元ギルドマスターと『話し合い』をして奴の独断専行であった可能性が高い事は理解している。だが、その罪は逃れられるものではない!しかし、奴はもっと面白い話をしていてな?我々はそちらの方を詳しく聞きたいわけだ」


 これ以上何があるというんだ。奴らを攻撃して装備を奪って終わりでいいじゃないか。


 「装備を奪った後もちろん分配があるわけだが、その装備の分配で良い物を自分たちの勢力に留めようとしていたな?」


 そのあたりを喋ったのか。少し譲歩するしかないか。


 「いや、もちろんある程度公平にする予定はしていた。確かにその分ける方法は信じられるものではなかったかもしれない。そうだな、今回は我々の失態が大きすぎる。装備の分配の権利を君達に譲ろう。もちろん公平であるかどうかは我々も査定させてもらうが、無茶を言うつもりは無い」


 「そこもまあ重要な話ではあったんだが、もっと重要な話があったんだ。あんたは元々そこのPKの男にアイテム等を流していた。普通なら咎めるのはお門違いかもしれないが今回は違う!今回『アイン城砦』で出た装備をPKerに流した上で、俺達をPKして回収しようとしていただろう!誰がどのアイテムを持っているのかお前は分かるんだ!さぞかしお前の財布は潤う事になっただろうな!この件について皆の前で説明して貰う!来い!」


 「待て!そんな事は計画していな……」


 まだその『計画』は誰にも言っていないのに何故このような状況になっているのだ!



 引っ立てられるその瞬間だというのに、何故か見た事の無い少女の目が笑っていたのが怖くて……とても印象に残ってしまった。






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