王城襲撃作戦 4
私は一拍おいて話を切り出した。
「とりあえず4つ提示出来る策があるけど、何番目に面白い策を聞きたい?」
「面白くない方から聞こう、流石に逆から聞くと後で後悔する気がする」
ちっ逃げたな。王様が日和った。
「一番面白くない策は、王家所有の際の奴隷の分割購入だね。最初に2、3割くらいお金を持ち主に渡して残りを何年かで払うんだ。そうすれば初年度の資金は一括より少なくて済むし、ある程度お金が手にはいるので比較的持ち主の不満も少ない」
「一括で支払う必要は確かに無いな。比率は計算しないといけないが十分検討に値するだろう。確かに普通の策だ」
面白くない策だけど、この王様だと強権で奴隷を取り上げて反発したら弾圧しそうで怖い。反発を招いてもやる価値があることを知ってしまっているからね……
「次は王家所有にする際に『奴隷を隠した者への厳罰』だね。結構な数が隠すと思うから、それを取り締まれば無料で奴隷を手に入れられて、尚且つ罰金も手にはいるよ。これは王家所有後の暴力行為にも当てはまるね」
「あー、それは相当数あるだろうな……しかも継続して取れるのか。それに王家を通さずに奴隷を新規取得した場合にも適用出来るようにしないとな」
王様が珍しく良いことを言った。奴隷解放が目的なのに新しく増えたら意味無いからね。
「うん法令関係は何故隠していたのか、暴力を振るったのかなどによっても罰を細かく決める必要があるよ。決めないと時間がたったらザル法になる」
ちゃんと決めることが現場を守ることにもなるんだよ。さっきのカカシのせいで現場の人間が何人も処分される事になるから同じ事になっては困る。
「3つ目はこの国の国防費だね。戦争しなくなるなら殆ど要らなくなるはずだよ」
「流石にそれは頷けないな。国土防衛の為には常に訓練と装備の更新が必要だ。戦争を仕掛けなくても相手から仕掛けられたら守るしかない。戦争をしてはいけないからこそ抑止の為の準備が必要なのだ」
うん、すっごい重要だよね。
「心外だね、私が対策を考えてないとでも?私はどや顔でそう言った」
心の声が漏れた。
「そうか3番目だったな……いったいどんな策が出てくるのやら……」
何が出るかな?
「正解は私が防衛用兵器を作ります」
「は?」
「正解は私が防衛用兵器を作ります」
理解してないようなので言い直しました。
「お手上げだ、流石に訳が分からん」
王様は両手をあげた。
「流石に分かる訳がないよ」
知らない事を知っている訳がない。私は勿体ぶらずに1本の剣を王様の前に置く。
「この剣は?」
「ただの鉄の剣だよ。安物の剣を私が叩き直したんだ」
「これが防衛用兵器?」
「そうだよ」
因みにこの剣は防御特化のエンチャと攻撃力三倍くらいの性能に生まれ変わっています。オプションに暴徒鎮圧用の電撃も付いていますが、防御特化にしたため電圧が低く人間以下にしか効きません。
「王様、剣を鞘のまま持って貰って良いかな?」
「持ったぞ」
「今からリーシャちゃんにこの棒で叩いて貰うから動かないでね」
「え!?」
リーシャちゃんに鉄パイプを渡す。かなりびっくりしているようだ。
「王様、剣を理解して貰うためだから構わないよね?」
「まぁそれなりに鍛えているしな。ここには余人も居ないしアイ殿が言うのだから構わない」
まずは体を軽くで良いからね、と言ってリーシャちゃんを送り出した。
リーシャちゃんは叩くのを戸惑っているが、王様が気にしなくて良いと言って頭を撫でると肩の当たりを『ぽこっ』と叩いた。
「ん……?リーシャ殿もう少し強く叩いて貰って良いかな?」
その声をきいて同じ場所を少し強く『ぽこっ』と叩いた。
「……すまない、全力でお腹を叩いて貰っても良いかな。腹筋に力を入れておくから問題ないよ」
リーシャちゃんも意を決してフルスイングする。今度は『ぽこんっ!』と少し大きい音がした。リーシャちゃんも違和感に気が付いたようだ。
「持っているだけで効果のある防御特化剣だよ。刃が無いタイプも作れるから使い分けられるね」
「……耐久度はどれくらいなのだ……?」
かなり耐えるが限度を知らないのでファレンを見る。
「……バリスタの直撃すらそよ風と思えば良いよ?」
これが本当の超『弩』級の防御力だね。
「何と言う事だ……」
王様は言葉を失ってしまった。私は効果音に誰も突っ込んでくれない事に失望したよ。
「つまり例えば全ての武器を叩き直せば、勝ち目ないから相手は攻めてこない。オプションで暴徒鎮圧用雷魔法も付いてるから、もし攻めてきた馬鹿から大量に身代金も取れるオマケ付き」
「この武器1本で暗殺し放題な気がするし……反乱起きたら止められないぞ?」
そりゃそうだよね。
「まず武器に『国内限定』という使用制限は必ずかける。この国にはウェスタの力が広がってるからその範囲を出ると効果無くなるようにするよ」
その為に侵略の放棄が必要だったんだ。
「後私はこの国の軍の現状を知らないから、あくまでこの武器はデモンストレーション用だからね。武器の性能は上下できるし制限を調整する事も出来るから、頑張って考えてね」
「この剣は神の力とは違うのか……?」
「だって私は神じゃないもん。時間をかけて技術が進歩すれば到達できる高みだよ。でもこの武器の性能を知ったら最高の抑止力になるよね?更に奴隷解放した国には『防衛用兵器』を一定数作る予定だから、軍事面で見ても奴隷解放が進むね!」
つまりこの国は実験台なのだ。
「……確かに経済面でも軍事面でも必須となったら死ぬ気で策を考えるだろうな……しかし、とてつもないごり押しだな……」
「今さらだな」
「今さらだね」
「今さらですね」
ウェスタ、ファレン、フェズさんが言ってくる。まぁ私もそう思う。
「王様まだ最後の策が残ってるよ、忘れてない?」
返事を待たずに王様の目の前にあのインゴットを置く。
「持ってみて」
持った瞬間に王様の顔に驚愕が走る。王様は宰相さんにも持たせるが宰相さんは疑問を持たなかったようだ。フェズさんの勝利だ。
「王様それで作った護身用のレイピアとか欲しくない?」
「……さらっと言うなよ。愚王なら国を傾けても欲しがるぞ」
「アイさ、殿。その金属は何なのか教えて貰っても良いですか?」
「アイサって誰?」
「アイ殿です」
宰相さんを苛めてもいけないので教えてあげる。
「みんな大好きオリハルコンだよ」
「なるほど、それなら王も欲しがりますよね」
あれ、反応が微妙だ。
「宰相さん驚かないの?」
「今さらオリハルコンでは驚きませんよ……ってえええええええ!?実在したんですか!」
ああ、騙そうとしていると思ったのか。多分王の目を見て気が付いたんだろうね。
「比重が重すぎる。金より重く安定している物質だと言うことだ。ただの金属な訳がないだろう」
宰相さんに王様が言う。
「今後戦争と奴隷を無くした平和の象徴として、神から送られるかも知れないよ?代が変わっても目の前に餌があったらなかなか反古には出来ないよね。よってかなり長期間の安定が見込めると思う」
「アイ殿、見事に逃げ場を潰したなぁ。現時点では反論出来る余地は無いようだ」
細かい問題は山ほどあるけど、後はごり押しじゃなくても何とかなるはず。
「いや、これだけやっても奴隷の撲滅も戦争の根絶も無理なんだよ。今より大分マシになるのは間違いないけどね。でも私に出来るお膳立てはこの程度かな、後は各国の王が調整するべきだと思うし。それにここまでお膳立てされまくって国内の調整すら出来ない王は必要ないよね」
「同じ王として反論できないのが辛いな……」
まあこれで大体の道筋は立てられたはずだ。
「じゃあリーシャちゃんはここまでで良いから、フェズさんの家で待っててね。ファレン送ってあげて」
「わかったよ、リーシャ行こう」
自分の席に戻っていたリーシャちゃんとファレンに言う。リーシャちゃんは王様に一礼するとファレンと一緒に帰っていった。そしてすぐにファレンが戻って来る。
「なにやら嫌な予感がするな……」
「ええ。私もです」
王様と宰相が言うが逃がさない。
私は二人に高らかに告げた。
「さて、今からは個人的な制裁の時間だよ!覚悟は良い?」
返事は無かった。




