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城砦建築の召喚術師  作者: 狸鈴
第二章 奴隷解放編
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王城襲撃作戦 1

 翌朝は快晴で計画の決行日和としては完璧だった。全奴隷達に私が雇用主になる事を伝え、今日はフェズさんの店の清掃をお願いする事にしている。フェズさんも忙しそうだがフェズさんには別の仕事を用意しているのだ。


「フェズさん、リーシャちゃんちょっとこっちに来て」


「はい、なんですか?」


「アイ様、どこかに行くのですか?」


 フェズさんとリーシャちゃんが思い思いの台詞を述べる。フェズさんはリーシャちゃんの言葉を聞いて、何かに気が付いたのか眉をひそめていた。


 多分私達が三人揃って居たので何か感づいたのだろう。


 今日の為に事前にリーシャちゃんには黒と白のコントラストが映えるボンボン付のポンチョと、ミスリルの繊維を織り込んだ普段着を作って渡してある。ファレンもリーシャちゃんを気に入っているので、普段着はファレンの服に似せて作った。


 もちろんフェズさんの服は作っていない。


「今日の予定を発表します」


「私には奴隷を販売した事についての書類仕事があるのですが……」


「徹夜すれば良いよ」


「そんなー」


 フェズさんが逃げようとするが逃がさない。大分フェズさんも諦めるのが早くなってきたね。


「実は今から王様に会いに行きます」


「は……?」


「王様達もう待ってるだろうから早く行こうね」


「もう諦めましたから、私の役割を教えて下さい……」


 私の言葉に中々良い返事を返してくる。話が早くて良い。


「フェズさんは聞かれたら事実だけ言ってくれれば良いよ。後は私が何とかするから」


「アイ様、私は何をすれば良いのですか?」


 フェズさんに言った後、リーシャちゃんが役割を聞いてくる。


「リーシャちゃんは……とても大事な仕事があるんだけど、ただ居てくれれば良いよ」


 リーシャちゃんは何も知らない方が良い。リーシャちゃんはあくまでも奥の手なのだ。


「じゃあウェスタ、転移陣をお願いするね」


「心得た。出てすぐに案内人がいるはずだから注意を怠らないようにな。入る順番は私、アイ、ファレン、フェズ、リーシャだ」


 皆頷いて順番に陣に入って行った。





「ようこそお出でくださいました、火の神よ。王は隣の部屋でお待しております。お客人もお通しするように仰せつかっておりますのでご一緒下さい」


「ご苦労」


 初老の執事さんっぽい人の挨拶にウェスタが鷹揚に返事を返す。執事さんが扉を開けてくれたので中が見える。相手側もどうやら五人で待ち構えていたようだ、真ん中に座っている人物が王冠を頭に乗せているので王様なのだろう。


 こちらは王達の対面側に座り、真ん中が私で左右がウェスタとファレン、端がフェズさんとリーシャちゃんになった。一方王側は王の対面が私だという事に不快そうに眉を潜め、視線を私に飛ばしてくる。


「火の神を押し退けて王の対面に座るとは何事か!貴様、王と神を愚弄するとは死にたいらしいな!」


 左端の小肥りの男性が声を荒げ机を叩く。リーシャちゃんには安全のため音を小さくしてお届けしております。


「王よ、この部屋に居るのは『王が信用する者』だけのはずだ。この者もそうだという理解で構わないか?」


 ウェスタが真ん中の人物に語りかける。私も無視しているので左端の人物は顔がゆでダコのようだ。


「勿論その認識で構わない。この者も『私が信用する者』だ」


「分かった。では本題に入る前にこちらの紹介をしておこう。真ん中に座ったのが我々の盟友であるアイだ。その隣が魔の神、左端が商人のフェズ、右端がアイの奴隷のリーシャだ」


 ウェスタが私達の名前を紹介するが、ファレンより先に私の名前を紹介したことに王側はざわめいている。


「書面にも今回の議題は書いていたが、私は非常に立腹している。不用意に私の名前呼ばない事をお薦めするよ」


 更にざわめきがあったが王は眉をしかめただけだ。事前に状況は理解していたのだろう。王側がざわめくのも無理はない、下手をすると王家の正統性の象徴たる神の守護を失いかねない状況だと気が付いたのだから。


「ウェスタ有り難う、この先は引き継がせて貰う。では私から無礼は承知で言わせてもらう。そちら側の挨拶は今は不要だ。先にこちらの要望であった奴隷の解放についてそちら側の解答を聞かせてもらおう」


 更に王側を虚仮にする台詞を吐きながら、私はウェスタの名前を呼んだ。王以外はかなり憤慨しているようだが、流石に王だけあって中々のポーカーフェイスだと評価を上げる。


「ではこちらの解答を伝えさせて頂こう。我々の解答は『不可』だ」


 ですよねー。ウェスタが立ち上がろうとするが手で制止する。


「理由を聞かせていただいても?」


 ここからが楽しい戦いの始まりなのだ。


「我々王族は民を守らねば為らないからだ。もし奴隷が解放されれば金銭的な被害だけでなく、元奴隷達が生きていくための犯罪も増えるだろう。何十万と言う奴隷を取り締まるのは物理的に不可能なので、国は荒廃し滅びる事になるだろうな」


「まぁその通りでしょう。では『我々』が何故奴隷を解放するように伝えたのか考えて下さいましたか?」


 交渉とは両者の要望の擦り合わせだ。その為には相手の事を理解しないといけない。


「思い当たる報告は上がってきている。奴隷に対してかなり酷い仕打ちが行われているそうだな。自らが守護する国でその様な事を放置する訳には行かないというのも勿論理解している。しかし今までも改善するように担当者には伝えて居たのだが、如何せん数が多すぎて対応ができていない状態なのだ」


「例えばどのような?」


 盛り上がって参りました。


「詳しい話をさせるために担当者を同席させている。デール、詳しく説明しろ」


「……はっ」


 やっぱり開幕やらかした馬鹿だったか。


「我々は全奴隷商人と奴隷の所有者に必要以上の罰や暴力の禁止にを通達している。いままでに何人も逮捕しており確実に成果は出ている。人員を増やす事ができれば効果はもっと増すだろう」


 それだけしかやってないのか……せめて衣食住のどれかだけでも支援してあげようよ。


「必要以上とは例えばどのような事例ですか?」


「……事例は多岐に渡っているので一概には答えられない。現場での判断を重視している」


 現場での判断は大事だよね。上司がちゃんと監督しないと汚職の温床になるけど。


「つまり奴隷商人が必要性を主張して、現場の人間が認めたら問題ないと言う事になる訳ですね」


「……勿論問題になる場合は刑に服してもらうがな」


 ザル法すぎた。このゆるゆる法案では現場で賄賂が飛び交った事だろう。


「では重ねて質問します。必要以上の罰とは例えば何ですか?現実の事例でなくて構いません、貴方の感覚で許容出来るギリギリの事例を答えてください」


「そうだな、鞭撃ちくらいまでか」


 は?それ普通に死ぬよね。王も頭が痛いのか額を押さえている。


「フェズ、王の御前ですが私が許可します。言いたい事を言って良いですよ」


 私はフェズさんにお鉢を回す。


「王よ。実は私は奴隷商人でして多数の奴隷を扱っておりますが、奴隷を鞭撃ちしたことなど御座いません。そんなことをすれば奴隷が死んでしまいます。つまりデール卿の感覚では奴隷の生き死など問題では無いのでしょう」


 フェズさんがため息を吐く。奴隷に鞭を撃つというのは他の奴隷に対しての見せしめなのだから、実際には必要な事として行われているのは分かる。が、それは一人を半殺しにして他の奴隷に言う事を聞かせるという行為だ。


 この貴族は王に奴隷の待遇を改善しろと言われたのに、実は何もしていなかったという事が開幕10分位で露見してしまったのだ。王もかなり渋い顔をしている。


「王よ貴方にも任命責任があると思うが如何か?先ほど王命は現状の改善であったと聞いたが、未だ現状の把握すら出来ていないと言うのは王命に逆らっていると言う事だぞ?」


 王命に逆らえば死罪と言うのは伝統である。特に貴族が逆らったらどんな理由があれ死罪は免れないのは確認済みなのでもう試合終了だろう。


「な、なんだと!い、いえ王よ。その様な事実は一切ありません!」


「黙れ!痴れ者が!近衛兵、こやつを牢に放り込んでおけ!」


 前の王様いきなり叫んだので耳が痛い。凄い音量だった。


『ハッ』


 近衛兵がモブキャラAを連行しようとするが、抵抗したため猿轡をされて二人掛りで運ばれていった。それを私は心の中でドナドナを歌いながら見送っていた。 




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