奴隷商人襲撃作戦 6
私はバーベキュー会場の見渡しながらおっちょこちょいなリーシャちゃんを見送る。リーシャちゃんが自分の名前を皆に伝えると皆喜んでいたが、一部喜びすぎた奴隷のお姉さん達に物理的に振り回されたりもしていた。
が、私はリーシャちゃん達を見ていて一つ疑問が浮かんでいた。あれ、足取りが軽いを超えて速すぎじゃない?と。彼女は数時間前まで歩く事が出来ておらず、現に先ほどまで撫でられただけでフラフラしていたのだ。それに暗くて良く見えなかったけど、なんか皆すっごいツヤツヤして力強い感じがある。
『メーデーメーデーこちらアイ、ファレン応答どうぞー』
『はいはーいファレンだよ。どうしたの?』
困った時のファレン先生だ。
『勘違いだったら良いんだけど、みんなやけにツヤツヤしてない?リーシャちゃんも凄い勢いで走っていったし、絶対何かおかしいよ。さっき尻尾肉食べたんだけど胃に入ったとたん何かが体に広がっていく感じがしたんだけど、もしかしてあの肉は何か変な効果ついてない?』
『まぁ魔物肉だしね……どれどれ……おおーぅ……』
『ファレン……?』
あら、ファレンが言い澱むとは珍しい。
『実は尻尾肉の黒龍はあの巣のボスだったんだよね。通常強い魔物の肉を食べたらその分魔力が上がるからその分みんなの魔力が強くなれば良いなーって思ってたけど……』
『思ってたけど?』
『こういうレア肉だと効果が大体5倍~10倍は変わる。黒龍なら10倍以上だろうね。そんな神話級なお肉をお腹一杯食べたら虚弱体質くらい一発で直ると思うよ』
『つまり食べ続けたら人類最強になれる?』
ファレンから説明があったが、つまり凄い肉だったわけか。リーシャちゃん改造計画が始まるかもしれない!
『アイには誤差だしアイ並みにもなれないけど……人類という範疇ならかなり上位になれるかも?まあ皆高レベルの魔物肉を食べたら魔力が上がるって言うのは知ってるから、どういう肉かを言わなければ問題ないと思う』
私は人類から強制ログアウトさせられていたらしい。
『でも皆フェズさんの奴隷なんだから、ちゃんとフェズさんには説明しておいたほうが良くない?良い就職先を見つける事ができるかもしれないし、今後について有利になればそればそれで嬉しいよ』
『あーそうか、それも良いかもしれないね。じゃあ一緒に説明しに行くからそこで待っててね』
『はーい』
少しするとファレンが来たが、肉を切り続けなければいけない事を忘れていた。急遽近くに居た奴隷ちゃんにフェズさんを呼びに行って貰う事になった。さっきの奴隷ちゃんには後で何か作ってあげよう。
さらに少しするとフェズさんとウェスタが一緒に来た。
「アイ様、呼ばれましたかな?」
「次様をつけたらぶち転がすよ?」
「ええ!?」
びっくりしているフェズさんを横目にウェスタが笑っている。何かを吹き込んだのだろう。
「リーシャちゃんに呼ばれるならまだしも、フェズさんに呼ばれても全く嬉しくない。さん以外は認めません」
「フフッ、アイが対等な扱いを希望してるんだから良いじゃないか。確かにアイはこの世界には信仰するものがいないのだから神ではない。その点ではただの力が強い人間と言える。威厳を無理をして持たせる必要もないだろう?」
「そう言われましても……」
ウェスタがフェズさんを諭す。今度様付けで言ったらくすぐり地獄の刑だと決めた。
「アイはまだ知らないと思うが神の名前には特別な意味があってな、神自身が認めた者にしか名を教えないんだ。神の名と知って故意に資格のないものがその名を呼ぶと大変な事になる。だから畏怖も含めて誰も神の名をつけたりしないんだよ」
ふむふむ、光の神の名前を教えて貰えなかったのはそういう理由があったのか。
「更に神の間では下位の者が上位の者の名前を呼ぶのも礼儀上良くないとされている。なので私と名前を呼び合っているアイは何も知らない者からしたら私と少なくとも同格の神、もしくは私が認めた者な訳だ。でもファレンには『ウェスタ姉ぇ』と呼んで欲しいと言ってるんだが呼んでくれないんだよなぁ」
「ウェスタ姉ぇ、礼儀は大事」
そうなのか。ファレンも少しは呼んであげようよ……あれ?
「殆ど同格だろうに……まぁそんな感じな者に『様』を着けないのは私に対して不敬にならないかとフェズが気にしてたんだよ。だから私がアイを様付けして呼べば分かるんじゃないかと言ったわけだ」
あれ?無反応?ファレンは明後日の方向を向いている。
「……様付けされると距離を感じるから駄目。フェズさんにリーシャちゃん位の溢れ出る親愛のオーラが出てたらその距離を埋められるけど、それはそれで気持ち悪いしね」
うん、聞かなかった事にしよう。フェズさんにも視線を送る。
「ええ、私もツッコミませんよ。分かりました、ではこれからはアイさんと呼ばせて頂きます」
「一件落着だね。で、来て貰った理由なんだけどあの魔物肉の件なんだ」
強引に終わらせた。これからが本題だ。
「あれは凄く美味しい肉でしたねぇ。かなりランクの高い魔物の肉だったようで、私の体にも力がみなぎっているのが分かりますよ。皆の分も含めて御礼礼を言わせていただきます」
「ここまで美味い肉は私もなかなか味わった記憶が無い。良い経験になったな」
フェズさんから礼を言われるが礼を言うにはまだ早い。ウェスタが肉の感想を漏らすがやっぱりこのレベルの肉は早々無いのかと納得する。
ファレンが私を見てくる。どうやらここからはファレンが説明するらしいので先を促した。
「実は私もさっきまで知らなかったんだけど、あの肉は所謂レア肉特級の祝福された肉だったんだ。しかも元の肉が黒龍最高齢のエンシェントドラゴン黒龍王の尻尾肉。つまりこの世界のだれも食べたことの無いくらい魔力の詰まった肉をフェズ達は食べてたんだよ」
とファレンが説明する。フェズさんは固まったけど大丈夫だろうか。
「ああ、お金とかお礼とかは気にしてなくていいよ。成り行きで手に入っただけだから」
私は一応フェズさんをフォローしておく。
「フェズはかなりいっぱいあの肉食べていたよね。その分魔力が上がっているからそりゃ力もみなぎるよ」
「ああ、だから皆魔力が桁外れに上がっているのか。黒龍王の肉だとしても上がりすぎだと思ったんだ」
ファレンとウェスタが中々面白いことを言っている。
「ウェスタ聞くのが楽しみなんだけど、フェズさんはどれくらい強くなったの?」
「フェズはこの国の宮廷魔術師並みだな。他の奴隷の子達も普通の兵士相手なら楽に撃ち勝てる位には魔力があるぞ」
あ、フェズさんも明後日を向いて現実逃避した。一食だけで同数の軍隊に勝てるのか……黒龍王が知ったらノイローゼになるかもしれないなぁ。
「奴隷達も普通の雇い先に行くと大問題だから便宜上アイの奴隷になってもらう。奴隷達の維持管理要員が必要なのでフェズは神様権限でアイの揮下に就職決定ね。ここの奴隷達はアイの街の初期人員として皆に来て貰う予定だったから、話が早くなって助かったよ」
皆良い就職先が決まって良かったね、とファレンがトドメを刺した。ああ、何故説明にファレンが着いてきたがったのか少し疑問だったけどそういう事か。この状況を利用して逃げ場を無くしたんだね。でもファレンのこういう行動は珍しい気がするなぁ。
「ちなみにまだまだ肉はあるから安心してね。多分残量もトン単位であるし、無くなったら貰いに行けばいいからね。皆もっと強くなれるよ」
ファレンの言葉に私もフェズさんに応援の言葉をかける。
フラッ バタッ
とうとうフェズさんが倒れました。
衛生兵!衛生兵ーー!あ、私だ。
『完全復元』
フェズさんは目を覚ました。
「なんだ……夢か……なんて都合が良い事はありませんか?」
「フェズさん……胃に穴が開いても、ストレスで脳の血管が切れても私が直してあげるから大丈夫だよ!一緒に頑張ろう!」
「大丈夫とは一体どういう意味だったのか、もう忘れてしまいましたよ……」
「ドンマイ」
私はフェズさんが健やかに生きられる様に神様に祈ってあげた。




