奴隷商人襲撃作戦 5
と言うわけで、バーベキューのメイン素材である肉を取りに行くことになった。そこで『この世界の最高に美味しい肉はなにか』とウェスタに聞くと、ドラゴンの肉のその中でも龍種の物が非常に美味だと返答があった。
どこかに手ごろな龍が居る場所は無いかと質問すると、ファレンが守護する地域である魔族領の奥地に存在する高レベルダンジョン『龍の巣』がちょうど良いという事だった。
私もさっき作ったオリハルコン防具『ペンギンアーマー』にオリハルコン製『しろくまソード』、背中にはもちろんオリハルコン製『タヌキの盾』を装備して、ウェスタとファレンと一緒に採取に行った。ネックレス無しの戦闘力も把握しておく必要があったので、ちょっと戦闘をさせてもらう必要があったのだ。
ちなみにしろくまソードは鹿児島名産のしろくまアイスがモチーフとなっている。獣のほうのホッキョクグマとは一切関係ないので注意が必要だ。
時間が無いため龍の巣の中腹に転移陣で出たが、進もうとした瞬間多数の龍っぽい声がして索敵魔法の範囲から反応が離れていった。逃げられたのかな?でも奥にはまだまだ居るっぽいので大丈夫だろうとそのまま歩みを進める事にした。
肉のついでと言ってはなんだけど、鉄鉱石やミスリル鉱石やダマスカス鉱石まで普通に露出していたので即採取した。鉄板の材料を町で買う予定だったという事もあり、ミスリル鉱石よりも鉄が嬉しいという不思議状態に皆で笑いながらのハイキングになってしまった。だって買いに行くのめんどくさいからね。
そして山をくり貫いたような空も大きく見える広間に出ると、ようやく一体の黒いドラゴンがいた。
『来たか……侵入者共め。たとえ如何なる力強きもの達と言えども、我がこの命に賭けてこの先には行かせん!我は我らが子らを守……』
ヒュッ
ドッゴォォォォォンッ!
しろくまの剣で首の根元を峰打ちしてみたら、ふっ飛んで壁に激突したので首に剣を突きつけて一言。
「首か尻尾か選べ?」
『くっ殺…………ん?……尻尾で』
交渉成立しました。
口上が長いのはよくないと思います。
「アイは本当にごり押し好きだよね」
ファレンのあきれ声を聞きながら、再生魔法と同時に尻尾を輪切りにする。ちゃんとお礼に全身の古傷も治した。
『あなたは……魔の神か!何故この様な所に……』
「久しぶりだね黒龍。じつはちょっとお肉が欲しかったんだ。一応交渉する予定だったんだけどね、交渉する前に終わっちゃったよ」
とファレンが黒龍に話す。
えっ、ちゃんと交渉したよね?肉体言語の。
『……ん?それは我の尻尾だよな?でも我の尻尾無くなってないよな?あれ?』
龍が首をかしげてもあまり可愛くなかった。
「ちゃんと切る前に再生魔法使ったから即生えたんだよ。お礼として他の傷とかもろもろも治したから許してね」
アフターフォローも万全です。例えぶった切られても全身が健康になります。訳が分かりません。
『え、あ、本当だ、翼も治っている……これでまた空を飛べるのか……?』
「魔の神様に感謝しなきゃ駄目だよ?私には尻尾で十分だから」
「流石にこれじゃあんまりだから、私は少し残って他の龍の治療していくよ。奥にまだ怪我してる子達いるよね?」
『は、はい!怪我と病気の幼龍が6体に、病気に掛かっている老龍も2体おります!』
流石ファレンは優しいなぁ。
「じゃあ私達は戻って準備をしておくね。ウェスタ戻ろっか」
「出番はなかったがこういうのも楽しいな。また来よう」
と、良い感じに龍の巣を後にしました。良い事をした後は気分がとても良かったです。
「ただいまー!」
「お、お帰りなさい!」
応接室にポータルで帰るとタヌキ少女が駆け寄ってお辞儀してくる。可愛いなぁ、なでなでしてあげよう!と言うと二人で撫でまくってあげた。が、やり過ぎたのかふらふらしていたので、ばれないように後ろからヒールを掛けておいた。
そしてバーベキューの準備として龍の巣で手に入れた鉄鉱石を色々順序をすっとばして鉄に加工し、更に順序を飛ばして6mm厚の黒皮鉄板に加工、その後耐熱性能にすぐれているオリハルコンで鉄板の周囲を囲み、焚火台もオリハルコン製という無駄仕様!もとい、火と鉄板を触らない限り火傷をしないと言う安全設計で5台ほど作りました。
奴隷の皆さんが季節の野菜や豚肉ソーセージ、鶏肉などもいっぱい買ってきてくれていたようで山盛りあります!後は焼くだけです!
……と思ったらメインの尻尾肉が予想を超えた物になってたんだよね。インベントリに入れた時は名前みてなかったんだけど、アイテム名が『祝福された黒龍王の尻尾肉』で、アイテム説明が『黒龍王が感謝の念を持って自ら分け与えた尻尾肉。非常に美味だ』だった。
うん……ごめんよ。多分尻尾が目的と分かって、自分の命と奥に居た龍達が助かった事に感謝してたんだよね……。傷を治したのを知ったのは尻尾を輪切りにした後だから多分違うと思うんだ。今度貰いにいくときはちゃんと全身治すかわりに尻尾肉貰うと言おうと思います。あのくっ殺龍も名前に王が付いてるくらいだから、本当は結構強いんだろうなぁ。
尻尾肉を切り分けて皆に渡したんだけど、あれ見た目も普通の肉じゃなかった。常温でほど走る肉汁!っていう感じで光っていた。……それにしても皆、野菜食べてるのかな……?切っても切っても御代わりの注文が入って食べられないんだけど……。この尻尾肉は料理スキルとオリハルコンの包丁がないと切れないから必然的に私かウェスタしか扱えないんだ。当然ウェスタは焼くのだから切るのは私になる。そしてウェスタは時々味見をしている。泣きたい。
「アイ様、火の神様が焼いたお肉と野菜を持ってきました」
とか考えてたら、タヌキ少女がお皿を抱えて近づいてきた。
「ありがとう!凄くお腹が減ってたんだ。手を離せないから食べさせて貰っても良いかな?」
「はい、あーんして下さい」
「あーん」
口に入ったとたんまず感じたのは濃厚な肉汁の津波だった。次は肉を噛んだ時の爆発するようなで爽やかな後味の脂身の味、そして完璧な焼き加減の肉感。無くなった後は濃い肉の味が口の中に残りつつも、肉はもう残っていないという矛盾が存在していた。胃の中に入った後も体中に肉汁が広がっているような感覚がある。うまいという言葉だけでは表せない感覚過ぎた。
「ううーーーまああぁぁぁぁい!!」
結局うまいという言葉で表してしまった。
その後は肉とピーマン玉ねぎ等を食べさせて貰って、一息ついてからタヌキ少女に切り出した。
「あーそうだごめん、色々あって名前を聞いていなかったんだけど教えて貰って良いかな?」
「あー……そうですね、私も色々な事に驚きすぎて名前を伝えるのを忘れていました。私はリーシャといいます、よろしくお願いします。……あ!そういえば、私の名前をまだ誰にも伝えてなかった……ちょっとお世話になった人達に伝えてきますね!」
「いってらっしゃい~」
私は走っていくおっちょこちょいなリーシャちゃんを肉を切りながら見送った。




