表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/200

第二十話「嫉妬に嗤い狂う妖艶なる夢魔」・3

※ちょっとグロいです。

 あくる日、わたしは親友の彼女に事情を説明した。それもそうだろう、元気のないわたし、やつれた顔、泣き腫らして充血した目を見れば何があったかなど容易に想像がつく。


《そう、そんな事があったのね。でもあなたは可愛いし、きっとまたいい出会いが見つかると思うわ。きっとすぐ近くにいると思う……あなたが気づいていないだけで》


《そんな男どこにいるっていうのよ。確かにわたしに近づいてくる男はたくさんいたわ。だけど、どいつもわたしには釣り合わないやつばかり。そんなのと一緒になるなんて嫌よ》


《……そうかなぁ、あたしには分かんないや、贅沢な悩みなのかもね。でも、あたしは応援してるわ! 頑張ってね?》


《ええ、ありがとう》

 

 気づけばわたしは彼女に慰められ、次の恋の応援をされていた。

 だが、わたしはまだ諦めていなかった。円満に別れた訳ではない。夢にまで現れた男なのだ、ただの恋愛関係にまで発展した男の一人では片づけられない。無論納得のいかなかったわたしは、徹底的に彼の動向を探り続けた。ストーカー同然のように彼の身辺に付きまとい、時には彼の友人に手を出して情報を獲得し、時には彼の部屋に侵入して彼の様々な私物を物色した。

 そうしてわたしは、ようやく彼が別れ話を切り出してきた理由を目の当たりにして、絶望のあまり絶句した。

 ショックのあまり言葉を失うとは、まさにこのことかもしれない。


《なぁ、本当にいいのか?》


《気にする必要ないわ。それに、あの子とは今まで何度もしてきたんでしょう? だったらあたしともしてよ……》


 わたしの目の前に広がっていたのは、わたしの大親友である彼女と元彼が情事に励む姿だった。

 これは幻覚か? 思わずそう思ってしまいたくなる程、俄かには信じられない光景。だって今目の前にいる彼女は、数時間前に一緒に過ごして会話をしていたのだ。そんな彼女が、あの時の声よりワントーン上擦った声で、男を悦ばせるような声で啼いているのだ。

 完全に裏切られた気持ちだった。

 幼き頃から幾度も一緒に語らった親友が、わたしが失恋した原因。わたしから夢の王子様を寝取った悪女だったのだ。

 酷く胸が痛んだ。ぽっかり想い出が抜け落ちていったようなそんな感覚。それと同時、その穴を無理矢理埋めるように彼女の胸に闇が渦巻いた。両目から涙を流し、その悲しみがやがて憤怒と憎悪へと変貌していく。歯軋りし、負の念を抱いたわたしは、強く拳を握ってその場を急ぎ後にしたのだった。




 生前のレイラが姿を消してしばらく。

 ショートヘアの金髪の青年が、呼吸を乱しながら上に跨っている少女を恐ろし気に見据えた。


《はぁ、はぁ、恐ろしい女だよ、君は。彼女を独りにするために、わざわざこんな手まで使って……》


《んっ、はぁ……なんで? あの子はあたしの物なの……小さい頃からあの子を見てきた。恋する彼女の姿は、それはそれは可愛らしかったわ。それなのに、あんたが現れてそれは変わってしまった。恋を成就させて、満足そうに幸せそうな顔を浮かべる彼女。それじゃあダメなのよ。あたしが一番好きなのは恋をしている時の彼女であって、愛し合っている彼女はどうでもいい……だから、あんたにあの子と一緒になってもらっちゃ困るの》


 レイラと近しい薄桃色の髪の毛をお下げに結った少女は、舌舐めずりしてそう口にした。


《だ、だからって何も僕にこんな事をする必要はないだろう!?》


《……手遅れだったんだもの。これで彼女を散々愛したんでしょう? あの子はあんたしか見えてないの。あたしに見せてくれるのは、恋をしている時か愛し合っている時の彼女の姿だけ……でも、話を聞いているうち、それだけじゃ満足出来なくなっちゃったのよ。だってそうでしょ? 好きな子が激しく乱れる姿を想像して、それを毎度毎度聞かされて、悶々として毎夜毎夜自身を慰めてあげたことか……》


《君は、そこまで彼女の事を……》


《だからあんたで間接的に彼女を感じる事にしたの。この口だって彼女の口を感じるため……》


 ピンク色の双眸を妖しく光り輝かせ、少女は青年の唇に宛がった人差し指を自身の唇に触れさせた。


《……狂ってるよ、君》


《あはは、かもね……だけど、あんたもそんな狂ったあたしで愉しんでるじゃない》


《僕だって、好きでこうしてる訳じゃない。親に言われたんだ。彼女とは身分の差がありすぎる。到底認められないってね……》


《知ってるわ。あなた達が隠れて恋愛してたのは》


《バレるはずがない。使用人達にも強く口止めしていたんだ。それなのに、どうして……》


 理解出来ないといわんばかりに首を激しく振った青年の反応に、愉快そうに少女が笑って口を開く。


《そりゃああたしが話したらバレるわよね?》


《なっ!? き、君が全て仕組んだのか!?》


 よもや目の前の少女が犯人だとは思わず、青年はびっくり仰天して目を見開いた。


《んふっ♪ あぁでもしないとあなた達を破局させるのは難しいと思ってね。でも、まさかあそこまで激高するとは思ってもみなかったけどね》


 青年の親に話した時の出来事を思い返し、思い出し笑いをする少女。

 一方で、青年は悔しそうに歯噛みしてあの時の別れ話の件を悔いていた。


《……彼女を想えばこそだった。身を引くしかない……そう思った》


《王族と民族じゃ、身分の差があるものね。でもまさか、本当にあの子が夢見ていた王子様が、本物の王子様だったなんてね》


《いつまでこんな事を続けるつもりだ? いつかは彼女にバレるぞ?》


 忠告するように青年が少女に言う。


《あたしの計画はまだ終わってない。言ったでしょう? あの子はあたしの物なの……近づいてくる男皆、絶対にあたしが食ってやる……そうして誰もあの子に近づかないようにすれば、永遠に彼女が恋焦がれる姿を見ていられるわ! ふふふ、あはははははは》


《くっ、……何もできない僕は、あまりにも無力だ》


 目の前の狂気に包まれた女を止める事が出来ない。そんな資格もない事を思い知らされている青年は、ただただ後悔の念に苛まれた。


《あら、そんな事ないわ。少なくともあたしに彼女を感じさせる事が出来るという点ではね?》


 そう言って少女は再び眼下の青年と情事を再会したのだった。




 翌日、わたしは親友の彼女を呼び出した。勿論、怪しまれぬようにいつものノリで。

 すると、彼女はわたしをずっと騙し通せると思っているのか、何の躊躇いもなくまんまと呼び出しに応じた。


《もうすぐね……》


 わたしは親友の足音が近づいてくるのを耳にして、急ぎ傍の物陰に身を潜めた。

 すると、扉が開いて親友が入ってきた。


《ごめーん、お待たせ! あなたに会えると思って張り切って準備してたら時間かかっちゃって――え?》


 部屋の中に入ってきた親友は、拘束されて口に猿轡を嵌められているある人物を見つけ、言葉を失った。


《ど、どうしてあんたがここに……》


 そう、彼女を呼び出す前にわたしが呼び出し、隙だらけの彼を拘束していたのだ。驚愕だっただろう、まさか親友と会うはずが拘束された彼氏と遭遇するとは思ってもみないだろうから。


《……まさか――》


 と、何かに気づいたのか、背後に近づいていたわたしの方に振り返る親友。だが、もう遅い。構うものかとわたしは金属バッドで彼女を殴り倒し気絶させた。勿論殺しはしない……ここで終わらせては勿体ないもの、加減は忘れないようにしないとね。




《いった……ここは……え? な、何これ!?》


 先ほどの部屋に横たわっていた親友の少女が目を醒ました。横たわった状態で体を拘束され、衣服をひん剥かれた状態で。近くには椅子に座らされた状態で柱に後ろ手に拘束された王族の青年もいる。


《ど、どうなってるの? あ、あの子はどこ!?》


 お下げの少女が叫ぶが、残念ながら青年は猿轡を噛まされているため、くぐもった声をあげることしか出来ない。そこに、準備を終えたわたしが歩み寄って声をかける。


《あら、お目覚めかしら?》


《ちょっと、これ外してよ!》


《うるさいっ!》


 そう言ってわたしは、立ち上がろうとする親友を突き飛ばし、その体の上に馬乗りになると、その胸を鷲掴みにした。


《ひゃあっ!? い、いきなり何を……!?》


 親友は、唐突にわたしに胸を揉まれ、悲鳴をあげてしどろもどろになった。


《どうせなら、好きな男の目の前で辱めてから殺してあげようと思ってね……》


《な、何を言って……や、やめて!?》


 わたしの暴走は計算外だったのか、少女は涙目で必死に制止の声をあげた。だが、わたしは止まらない。彼女の鼻を摘まみ、強引に口を開かせると、一気に舌をねじこんでキスをした。


《んむぅ~っ!?》


 だが、それだけでは終わらない。拘束していた親友の手に自身の指を絡ませると、そのまま一気に人差し指から小指の四本の指をあらぬ方向へ折り曲げ、へし折った。小気味の良い骨の音が狭い部屋に鳴り響き、直後親友の少女が堪らず大絶叫をあげる。しかし、その口は塞がれているためにくぐもった声に留まってしまう。

 目の前で繰り広げられる悲劇に、青年も思わず目を瞑り顔を背ける。

 親友は大粒の涙を流して足をじたばたさせてもがき苦しんだ。絶望に彩られたような表情で、目の前でとんでもない暴挙を行っているわたしを、信じられないという目で見てくる親友に、わたしは不思議に思って眼を丸くして口を開いた。


《なんであなたの方がそんな悲しそうな顔をしているの? 全部知ってるわよ? わたしの彼氏を奪ったのは、あなたなんでしょう?》


 その問いに、親友の少女は激しく首を振って涙を流しながら吐露した。


《違う! こんなはずじゃなかった! ……わたしは、あんな男好きでもなんでもないっ! だって、だってあたしが本当に好きなのは――》


《嘘つかないでっ! わたしは見たの! あの日、あの場所で、あなたは彼と愛し合っていたじゃないっ!》


《――っ!? そ、それは……》


 最後まで言い切る前に話を遮られた親友の少女は、思わず言い淀んでしまい、俯いた。まさか見られていたとは思ってもみなかったのだろう。


《弁明出来ないでしょうね……だって、事実なのだから。あなたもいい出会いを求めてたのは知ってた。だけどまさか、親友の彼氏を寝取ってまで恋人を得るとは思わなかったわ》


《……違うの、本当にあたしが欲しかったのは――》


《言い訳なんか聞きたくないわ。親友のわたしを騙して、そうまでして彼氏が欲しかったなんてね、完全に裏切られた……見損なったわよ》


《そんな……お願い、聞いて! あたしが本当に好きなのは……あなたなのっ!》


 それを聞いて、一瞬わたしは動きを止めた。この女は何を今更世迷言を……わたしが……好き? ふん、どうせこの場凌ぎの口から出まかせに決まっている……そう思った。

 だからわたしは彼女を強引に四つん這いにさせると、服従のポーズを取らせたまま思う存分辱めてやった。泣き叫ぼうが何をしようが無駄だ。もう、わたしには届かない……。

 疲労に喘ぐ彼女を休ませるつもりは毛頭ない。

 わたしは彼女のお下げに結った髪の毛のゴムを外し髪の毛を下ろすと、その毛束を引っ掴み、激痛に再び叫ぶ悲鳴を聞きながら髪の毛を引き千切った。

 だが、そこでわたしの復讐の炎が消える事はなかった。


《あの王子にもその綺麗な顔で誑かしたんでしょ!?》


《いや、いやぁ! 違う、違うの! お願い、やめてっ! なんで、こんな事……わたしは、ただ、あなたを想って……あたしの目を見てよっ!》


 元親友の彼女の声に、わたしは不服ながらもその目を見た。そして、ハッとなる。彼女は何者かによる夢属性の夢幻にかかっていた。

 一体いつ……まさか、ずっと?

 わたしは彼女との記憶を可能な限り遡った。そして、彼女との出会いを思い出した。

 彼女と初めて会った時、友達になりたくて……わたしは、彼女に夢属性の力を……。そ、それじゃあ、もしかして彼女が親友になってくれたのは……全てわたしの力によるもの? それじゃあ、ずっと力にかかっていたせいで、わたしへの想いが変化して……いや、違う! そんなはず、そんなはずないっ!

 だ、だって、そ、それを認めてしまったら……わたしは、わたしは――っ!


《訳が分からない……今度はわたしまで惑わそうというの!? ふざけるなっ!!》


 手の自由を奪われた状態でわたしにしがみついてきて、必死に説得を試みようとしてくる彼女。

 そんな彼女の態度にたまらなく苛立ちを覚えたわたしは、叫び声をあげると同時、彼女の左目諸共顔面を切り裂いた。

 瞬間、わたしの耳をつんざかんばかりの絶叫が木霊す。無理もない、わたしの怒りを買い、顔面を鋭い刃物で切り付けられたのだ。無論、眼球を切断されて失明しない訳がない。隻眼となった彼女は、片目を失った事でわたしがかけていた夢幻の力から解放されたらしい。

 そんな事になれば、彼女がわたしをどう認識するかなんて……そんなの、認めないっ!!


《ミリ――》


《うわぁああああああああああっ!!》


 彼女が誰かの名前を口にしようとするのを遮り、わたしは彼女に飛びかかっていた。

 何かを口走ろうとする彼女を無理矢理口封じするように、両手で彼女のか細い首を絞めあげていく。


《ぐ、ぁ、や、め……ミ、……ァ》


《うるさいっ! だまれ! 黙れ黙れっ!!》


《……ぁ、ぃ……て、る……》


 必死に大声をあげて黙らせようとするわたしに対して、彼女は蚊の鳴くような声で何かを絞り出すように呟くと、とうとう力尽きて息を引き取った。


《……入って》


 わたしはある気配を察知してその場に立ち上がると、顔を俯かせて一言そう呟いた。

 すると、扉が開いてこの場に数人の大柄な男達が姿を現した。

 彼らは目の前に広がる惨状を見て信じられない反面、興奮した様子で呼吸を荒げて口を開いた。


《へ、へへ、ま、まさかまじで殺してくれるなんてなぁ。こいつ、俺らを散々利用した挙句、騙しやがってよ。し、死んでくれたらす、好き放題出来るよなぁ? お、おい念のため確認しとくが、ほ、本当に俺らの好きにしていいんだよな?》


《……いいわ、そういう契約だったから。契約違反はわたしが犠牲になるし》


 この男達とはこの計画を実行するにおいて後始末のために用意しておいた駒だった。彼らを用意した時点で、わたしは引き下がるに引き下がれない状態になっていたのだ。もし計画を中止すれば、彼女の代わりにわたしが犠牲になる。

 彼女の真実を知ってしまった今、わたしは過ちを認めざるを得ない。だけど、彼らに体を許すのだけは無理……そんな我が身可愛さの自己防錆で、大切な偽りの親友を手にかけてしまった。謝っても謝り切れない事をしてしまったのだ。


《え、へへ……元々俺らはお前を狙ってたんだぜ? それなのに、その女が邪魔しやがって……あたしで我慢しろだとよ。それなのに――》


《もういいっ! 早く引き取って……》


 聞けば聞くほど彼女がどれほどわたしの事を好いていてくれていたのかが分かってしまう。それがとても辛かったわたしは、突っぱねるように声を荒げて彼女の死体を男達に引き取らせた。


《へ、へへ……おい、お前ら持ってくぞ》


 男達は口の端から汚らしい涎を滴らせながら、舌なめずりして死体を回収していった。

 こうしてこの場にはわたしと元カレである夢の王子様の二人きりになった。

 わたしは一部始終をずっと見ていた王子の猿轡を外し、拘束を解いた。


《どういうつもりだい?》


《……わたし、間違っていたの?》


《君だけじゃない。僕も、そして彼女も……みんな、やり方を間違っていたのかもしれない。あるいは互いにもう少し相手の話を聞いてあげるべきだったかもしれない。そうすれば、こんな悲しいすれ違いは起きなかったのかもしれない。だけど、全ては過ぎた事だ……何もかも、手遅れだった》


 王子は、悲し気にそう言ってわたしの頭を優しく撫でてくれた。


《わたしは……こんなことのためにあの子に力を使ったわけじゃ……》


 そもそもあの力は無意識下によるものだった。かけた事自体、今の今まで気づかなかったのだ。いや、どこかで気づいていたのかもしれない。その上で認めなかったのかもしれない。

 でも、それなら、どうすればよかったのだろう。

 と、わたしが改善策を脳内で試行錯誤していると、王子がゆっくり口を開けた。


《君達は似た者同士だったのかもしれないよ。これは話すべきじゃなかったかもしれない。だけど、彼女の事を想えば、話しておくべきだろう》


 疑問符を浮かべるわたしに、王子は続ける。


《……あの子もまた、君と同じ夢属性を持っていたんだ。彼女もまた君と同じ夢属性の力で周囲の人間を術中にはめて色々と情報を集めていたようだよ。ただ、君程強い力ではなかったようでね、それでさっきの男達のように恨みを買っていたらしい》


《そう、だったの……》


《でもわかってあげてほしい、全ては愛する君のため……君を傷つけようとする男達から、君を守るために彼女は体を張っていたんだ》


《……あなた以外の男がてんで近づいてこない理由が分かったわ。わたしは、ずっとあなたの王族という立場のおかげだと思っていた。でも、違ったのね……本当はあの子が守ってくれていた。わたしの影でずっと支えてくれていたのはあの子だったんだ……ぐす、ずずっ、そんな……それ、じゃ……わた、わたしは……》


 本当の真実を知ったわたしは、絶望のあまり体を震わせて膝から崩折れた。あの子は偽りの親友などではない。夢属性を持っているのならば、同じ夢属性の力にかかる事はないからだ。つまり、あの子は本当に真からわたしを親友と認識し、真からわたしに恋心を抱いていたのだ。

 わたしは嗚咽を上げて泣きじゃくり、必死に親友へ謝罪した。もうどこにもいない彼女へと。

 と、その時だった。

 突如窓から飛んできた槍が、わたしと彼氏を刺し貫いて壁に突き刺さった。


《ぐふぅッ!?》


《ぐあっ!? ど、どうして……っ!》


 槍は見事に背中からわたしの胸の中心を貫き、そのまま彼の腹部を貫いていた。


《し、刺客か……ッ! ご、ごめんよ……こうなる前にもっと早く伝えておくべきだった》


 聞けば、しばらく前から彼の親からわたしと別れなければ刺客を送って始末すると言われていたらしい。そこまでして身分の差を重んじるなんて……今時古い考えだと、わたしは憤ったが、これも全て手遅れでしかない。

 

《すまない……ミリーア》


 消えゆく意識の中、微かに聞こえたわたしの名を呼ぶ愛する彼の声音。そしてそれは、ずっと拒絶していた親友の彼女が呼び掛けていたものと同じものだと気づいた直後、わたしの意識は完全に目覚める事のない深淵の常闇へと消えたのだった……。




――▽▲▽――




【はぁ、はぁ……どう? 無様でしょう? 好意を寄せていた相手にも、信頼していた親友にも裏切られ、かと思えば親友や彼に手をかけたら、本当は二人ともわたしの事が好きで、本当の裏切者は他でもないわたしだったなんて……ぐっ、滑稽にも程があるわよね。……何もかも遅すぎたのよ。だからそれ以降わたしは美人の女を信用しないことにしたの。まるで昔のわたしを見ているようだから……。それはいつしか妬みになった……わたしはあんな目に遭ったのに、他のやつらは上手くいく? ごほっ、そんなの変じゃない……あなた達二人を見てるとほんと、イライラさせられたわ。本当に純粋にただひたすらにお互いを信じあってるんだもの……そんなの、はぁ、はぁ、勝てっこない……じゃ、ない……】


 息も絶え絶えで最後の最期に七海と渚に視線を向けながら鼻で笑うと、レイラは全てを話し終えたかのようにそのまま息絶えた。


「……レイラ、あなたも苦労したのね。でもだからって、死後もこんなことしてたら、あの世で親友が悲しむわよ。今度はちゃんとあの世でお互いを信じて分かり合えるといいわね」


「ふふ、そうねぇ~。ところで、血相変えて来てくれたみたいだけど~、そんなにわたしの事が心配だったの~?」


「なっ!? ち、違うわよっ! つ、都合よく解釈しないでくれる!?」


「ふぅ~ん、それじゃあそういう事にしとくわね~」


「くっ、釈然としないわね……」


 レイラを倒した渚と七海の二人は、大浴場を後にしながらそんなやり取りを繰り広げて霙の下へと向かうのだった……。

というわけで、七海VSレイラ戦が終わりました。これで、刻暗や風浮達の敵討ちが終了です。今回でレイラの伏線も回収しきった形となります。また、Ⅳの時にあまり見せられなかった夢属性の力も少し見せられたかと。七海VSレイラ戦ではありますが、レイラの戦い方が他人を利用してのものでもあったため、若干七海VS霙みたいになってるとこもあります。

次回予告、二階のある場所で一対一のバトルです。

さて、次は誰と誰になるのか……。

次回更新予定は、年末年始に出来る予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ