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第九話「襲撃!伝説の戦士(後編)」・3

「どうかしたの、お父さん?」


 こっちまで眠くなるような甘ったるい声が聞こえた。その声の正体にいち早く気づいた慧は、すぐさま後ろを振り返り、慌てた様子でその場に駆けつける。


「星流! 寝てたんじゃ――」


「大きな音が、きこえたから……」


 寝ぼけ眼を擦りながら、十歳にも満たない子供がふわぁと小さくあくびをする。どことなく、慧の面影を残すその顔立ちにローラはすぐに察した。


【なるほど……その子供が】


踵を返したローラが剣を二人に向けてくる。


「お父さん、このひとだぁれ?」


「くっ、頼む! 星流には、星流には手を出さないでくれッ!!」


【ふんっ、無理な相談だ。忘れたか? 伝説の戦士及び、その関係者は皆殺し……ましてやその子供など、真っ先に標的になってもおかしくはない】


 情など皆無というように、実に淡々とした口調でローラは言う。


「絶対に、この子だけには……手は出させないッ!!」


【口だけならば何とでも言える。まぁ、あなたに私を倒せるというのであれば、やってみるといい……無理だろうがな】


 完全に馬鹿にしきっている。ローラは、完全に油断しており悠然とその場に立っている。だが、それだけでも慧にはじゅうぶんな気迫がぶつけられていた。タラリとこめかみから汗が垂れ、顎から滴り地面に落ちる。


「お、とう……さん?」


 その只ならぬ雰囲気に、まだまだ幼い星流でも感じる物があったのだろう。


「……ごめんよ、星流。お前にこんな……重荷を負わせる事になるなんて」


 恐怖の表情に彩られた息子を見て、慧は下唇を噛み締め謝罪した。その真意が何なのかは、無論星流には理解出来ない。


「だから、……せめてこのくらいの侘びは……させてくれ」


 言い終わると同時、慧が胸にぶら下げていた何かを手に掴み、口元へと運んだ。


【……その笛、まさか……っ!?】


「へぇ、知ってるのかい? なら、尚更早くしないとね」


【くっ、させるか――】


 ローラが開口と同時に攻撃を仕掛ける。が、慧の方が数秒早かった。

しかし、笛からは何も音色など聞こえない。その異常事態には、思わずローラも動きを止めて唖然としてしまう。

そして――。


【ふっ……あっはははははははは! こいつは傑作だ! こんなに笑ったのは死んでから初めてだ!! ぷふぅ、くく……】


 張り詰めたこの場の空気が途切れてしまうくらい、ローラは腹を抱えて笑い出した。


「よかったよ、君がこの笛の事を深く知っていなくて」


【……なに?】


 さっきまで声をあげて笑っていたローラは、急に笑うのをやめて冷静な口調で慧を見やる。

と、その時である。

暗がりのこの一室が、一気に明るくなった。それは、照明が点いたというよりは、何かがこの部屋を照らしている感じだ。

一体、何がこの部屋を照らしているのだろうと、ローラは頭を上げる。

が、その眩しすぎるくらいの光量に、ローラは仮面越しでも腕で顔を覆ってでないと正体を確認出来なかった。


【……天、使……】


 その青い相貌で捉えたのは、後光に煌々と照らされし純白の翼を持った天使だった。一見ただの宙に浮かぶ人間だ。が、その背中から生えた二つの羽と頭上の輪っか、人間とは思えぬ程の神々しさと美しさ。

それらが目の前の人物を天使と思わせた。


【うふっ……お呼びですか、慧様】


「はは、相変わらずの敬語だねベル。……悪いんだけど、今回ばかりはゆっくりしてられないんだ」


【……どうやら、そのようですね】


 一瞬首を傾げる金髪の天使。だが、すぐに殺気を察知して今この場に置かれた状況を理解する。

先程慧が使用した笛。それは、現界に天使を半ば強制的に降臨させるのに使用する、許可された者にのみ与えられる特別な神具だ。音は鳴らないが、天使にはその音が聞こえるらしい(天使談)。

 そして、今この場に光臨した一人の少女天使。腰くらいまで伸ばした金髪に碧眼の双眸を持つ彼女の名前は、ヴィリアエル=フィリルといい、ベルという愛称で呼ばれている。

天界には階級制度が存在し、全部で九階級ある。彼女は、その九階級に分類された各天使を取りまとめるトップ――天使九階級の天使(エンジェル)に、属している。


【それにしても、随分大きくなられましたね、慧様】


 まるで、大きく成長した我が子に感動する母親のような、優しい笑みを浮かべるベル。


「そりゃあ、もう十六年にもなるんだし……」


【私、もう成人の儀を済ませていますので、見た目が変わらないんですよね】


「それで……昔と変わらないんだね。ところで、今何歳なの?」


 なるほどと、納得の顔をする慧。と、そこで慧は不意にそんな質問を投げかけてしまう。


【こら! そんなデリカシーのない質問はやめてください! 乙女の年齢は秘密なんです!】


 案の定お叱りを受けてしまった。

ベルは小さくため息をつくと、口を開いた。


【それより、あの方はどなたですか? この状況で私をお呼びになったという事は……】


「ああ、でも君には戦ってもらうつもりはないよ」


【え? ひ、拍子抜けです……てっきりそのつもりかと】


 てっきり戦うものと思っていたベルは、構えかけていた得物を下ろしてきょとんとなる。


「ベル、君には星流の面倒を見てもらいたいんだ」


【えぇ!?】


「え?」


 慧の言葉に、ベルはもちろんさっきから驚きの連続で呆けていた星流も驚愕の声をあげた。


【何をごちゃごちゃと……!】


 どうやら、さっきまでベルの降臨の際に起きた発光現象で目をやられていた様子のローラが、少しよたつきながら声を荒げる。


「悪いけど、まだ君の相手は出来ないッ!!」


 そう言うと、再び慧は笛を鳴らした。


【ちょっと、慧様! そんな何度も笛を吹かれては――】


 と、ベルが慌てた様子で止めにかかるが、もう遅い。


【呼ばれて飛び出てなんとやら、ネメエル=T(トゥリヴィア)=フォルーズ参上!

 って、ちょっとけー! 何連続で天使を呼んでくれてんのよ! それも、あんたが持ってるそれはセイラ様が直々に与えて下さった特別製なんだから、私達天使九階級が直で呼ばれるのよ!? その事分かってるんでしょうね!】


 なにやら珍妙な掛け声で名乗りをあげたかと思うと、いきなりぷりぷり怒り出すネメエルという天使。


「もちろん分かってるさ、だからこそ使ったんだよ。それに、今は緊急事態なんだ。これを見れば、分かるだろ?」


【……ふぅん、まぁ確かにそうみたいね】


 慧に言われてチラリと目の前の敵を一瞥するネメエル。

が、すぐに視線を慧に戻して話を続ける。


【でも、こっちだっていろいろ大変なのよ! ドーナカイ教会が破壊されて、その際に発生した火の鎮火に追われてるし、あちこちで大量の殺戮が起きてるんだから!!】


「な、何だって!?」


【あんた、どんだけここに引きこもってんのよ……情報知らなさすぎ】


 やれやれといわんばかりに額に手をやり、首を左右に振るネメエル。


【ベルもなんとか言いなさいよね】


【いえ、私は……】


【はぁ、ったく……とにかく用件はちゃっちゃと済ませてよね。

あたしだって仕事に追われ――】


 ズガンッ!!


あまりにも唐突だった。いきなりネメエルに向かってローラが攻撃を仕掛けてきたのである。瞬時に顕現させたネメエルの神罰『崇高なる玉座サブリミティ・エンペラズ』でどうにかギリギリ防御出来たものの、後一秒でも反応が遅れていれば、ブスリである。

ネメエルのすぐ目の前に迫る得物の鋭さに、彼女は思わず息を呑んだ。


【ちょ、ちょちょちょちょっと! けー! 何であたしを呼んだのよ! どうせなら、アレイやマリアみたいな攻撃タイプの神罰使うやつ呼びなさいよ! 何でよりにもよって使えな――防御系の神罰を持つあたしを呼んだのよー!! 危うく死ぬ所だったじゃないっ!!】


 自身の命の危機に、ネメエルは声を荒げて叫んだ。


「言い方は悪いかもしれないけど、ネルも成人の儀は迎えてるでしょ? だったら、不死身のはずだよね?」


【うぐっ、本当に最悪の言い方ね。確かにそりゃそうだけど……死なないって言っても、痛みはあるんだからね!?】


【わーわーうるさいやつだ。しかし、死なぬ体か……くふ、さすがは神族……だが、それは私とて同じ事だ。さぁ、お遊びもここまでだ! 例え一対三になろうとも私には勝てんぞ?】


「はなから勝てるとは思ってないよ」


【んなっ!?】


【あ、あんまりですよ慧様~!】


 半ば強制的に呼ばれた挙句、戦いにはあまり使えない二人。その事を二人自身も理解しているため、慧のその一言は凄くグサッときた。


【ならば、あなた一人で私と戦うのか?】


「ああ。そもそも、二人を呼んだのは戦わせるためじゃないしね」


【なるほど……愛する我が子を現界ではなく

天界へ連れて行こうというのだな? 確かに、

そうすれば冥霊界の人間は手を出せない……】


【おお、なるほど!】


【さっすが、頭がいいですね慧様!】


 ローラの説明に、ネメエルとヴィリアエルが慧を称賛する。


「はは、ほんと君はすぐに気がつくねローラ」


【当然だ……私はありとあらゆる世界を見てきた。私の頭脳には様々な知識も存在する。そんな私に分からぬ事など存在しない!】


「そうかい……とりあえず、二人とも。僕が頼みたい事は分かったよね? 星流の事は頼んだよ?」


【はい! 了解です、慧様! さぁ、行きましょう星流様!】


「え、う……うん」


 ヴィリアエルが星流の手を引いて連れて行く。その様子を少し寂しげに見届ける慧の表情に、ネメエルは顔をしかめて声をあげた。


【ちょっと待って、慧……あんた何か変な事考えてないでしょうね?】


「変な事? さぁて、何の事かな? 僕には分からないよ……」


【まさか、あんた死ぬ気じゃ――】


「え!?」


 そこで初めて星流がその歩みを止めた。ヴィリアエルの手を振りほどき、慌てて父親である慧の元へ戻ろうとする。

が――。


「戻るなッ! いいかい、星流……お前はこの先に必要な人材だ。まだ分からないかもしれないけど、お前は凄く特別な力を二つ(・・)も持ってるんだ。その事を肝に銘じて……お母さんに、もし会えたならよろしく伝えておいてくれ。父さんは、家族を……この先に待つ未来を守るために戦うよ……」


「お父さんっ!!」


 必死に近づこうとするが、そこで慧の発動させた星属性の力で先に進めなくなる。見れば、ポッカリ空間に白い穴が開いていた。


「……物質開放(ホワイトホール)。あらゆる物質を空間から吐き出す……今は何も吸収してないから、吐き出される事で生じる風しかないけどね」


 どうやら、星流が先へと進めないのはこの風に押し出されているかららしい。


「長らく待たせて悪いね、ローラ」


【ふっ、別に構いはしない……あなたがよもや天使と関わっているとは思わなかった。ここは誤算だよ……仕方ない、今回は赤星星流の事は諦めるとしよう】


「そうしてくれると助かるよ」


 口元に笑みを浮かべた慧は、そう言って一本の杖を顕現させる。


「行くよ、『墜積の星霜フォール・フロストスター』」


 叫ぶと同時、空間が歪んで宇宙と空間がリンクする。そこから、幾つものキラキラとした霜が降り注ぐ。

その間にも、ヴィリアエルとネメエルは天界へ星流を連れて行く準備を整えていた。


「やめて、やめてよ! 放してよ!! やだ、お父さん、お父さ~んっ!!」


【お、落ち着いてください星流様! ね、ネメエル様もなんとか言ってくださいよ~!】


 ヴィリアエルが星流のお腹に手を回してそれ以上先へ進ませないようにしながら、ネメエルに助力を求める。

 が、ネメエルは手は出さずに声をあげた。


【星流、慧の言葉を忘れたの? あんたは、今後の未来を担う力がある……その責務を与えられたの。あんたはここで死なせる訳にはいかないのよ。それに、慧と未來の息子って事は……】


【え、ネメエル様……もしかしてそれって――】


 ネメエルが最後に口にした言葉に、ヴィリアエルが思い当たる節があるように目を見開く。


【うん、多分そうだと思う。とにかく、これは慧との約束よ。絶対に破るわけにはいかないわ!】


 コクリ頷いたネメエルは、天界へのゲートをリンクさせると、ヴィリアエルと星流を連れて天界へと帰還した。


――ごめん、けー……あんたが一番辛いのは分かってるわ。けど、……さすがにあれには勝てない。私たちだけじゃ……とても。



 現界から姿を消す最中(さなか)、ネメエルは慧の後姿を見ながらそんな事を思った。

そして、完全に天使達が姿を消した刹那――。


ズドォォォォオォォォォンッ!!!!


 大轟音と共に、トゥインクル・ギャラクシー天文台は崩壊した……。




――△▼△――




 時刻は氷雨と雪羅が襲撃を受けるより数時間前、トゥインクル・ギャラクシー天文台が襲撃されるより数分前。

ここはエレゴグルドボト帝国のサンダルコ街跡の近く。元々は多くの人間が住んでいたのだが、鎧一族の国民に対する非道な暴力や、秘密結社クロノスが利用する研究施設や工場から出る自然界へ支障を来たす物質などが原因で、その数は激減した。それにより、光化学スモッグの霧で視界は悪く、工場から出る排煙で木々の多くは枯れ、廃れた住宅街はもはや廃墟と化している。工場の多くも、今ではクロノスが利用していないので廃工場という有様だ。

そんなこの場所に、人影が二つ。その二つの人影は、戦いを繰り広げていた。いや、どちらかといえば修行という感じである。


「はぁ、はぁ……鋼鉄さん、もう一度お願いします!」


 両膝に手を突いて、乱れる呼吸をなんとか整えつつ金髪の女性が言う。


「けっ、キラチビ……随分息があがってるぜ? まだやんのか?」


 その女性の様子を見て、大きな鉄球を携えた男性が、頭をかきながら問う。。


「あ、当たり前です! ……はぁ、はぁ……そ、それと、そのキラチビって呼ぶのやめてくれませんか? 私もう二十五なんですから!」


 ムッとした女性が、両膝に手を突いた状態で顔を上げる。


「にしても、驚いたなぁ……てめぇは、デカくなったらオレ達並に強ぇ伝説の戦士になると思ってたが、ホントにオレと互角に渡り合うようになってんだかんな!」


「そ、そんなに……ほ、ほめないでくださいよ~」


 顔を真っ赤にして、照れくさそうに顔を伏せる女性。

彼女の名前は明見光蘭。伝説の戦士の一人にして、光属性を持つ有属性者だ。

そして、この巨大な鉄球――鋼鉄球を手にしている男性は、金井鋼鉄。光蘭同様、伝説の一人にして鋼属性を持つ有属性者だ。

この二人は、現在この場にて修行をしていた。


「にしても、どうしてまた修行なんだ? もう、てめぇは十分に強ぇだろうに……」


 腕組してふとした質問を投げかける鋼鉄。その問いに、光蘭は手を後ろに回して顔をやや上に向け口を開いた。


「う~ん、家族を……大事な人を守りたいから、ですかね」


「まぁ、その見た目で既に子持ちだもんな」


「こ、子供っぽいって言いたいんですか!?」


 鋼鉄の言葉に、頬を膨らませる光蘭。そんな光蘭の頭に手を置き、ワシャワシャと動かして鋼鉄が笑い声をあげた。


「てめぇはオレから見りゃあいつまでも子供だぜ、キラチビ。……それとな、敬語はいらねぇよ。そんな堅苦しい関係でもねぇだろ」


「そ、そう……? えと、じゃあ鋼鉄……お兄ちゃん?」


「――ッ!?」


 光蘭のやや上目遣いで少し恐る恐るといった言い方に、思わずドキリとしてしまう鋼鉄。


「ば、バッキャロ! お兄ちゃんじゃねぇだろ! そこはさんでいんだよ!」


「う、うん…鋼鉄、さん」


「お、おう……」


 なんだか変な空気になってしまった。光蘭も鋼鉄も、気まずくて顔を合わせられない状態だ。

と、そんな時だった。バキバキッ! という木々がへし折れる音が聞こえてきた。


「んだァ?」


「さ、さぁ?」


 何か大きな生き物でも通っているのだろうか? それにしても、何だろうかこの不気味な感じは……。

 鋼鉄と光蘭は、互いに目を合わせると、各々武器を構えた。


「おい、キラチビ……そういや、今日は雷落のヤローはどうした?」


「お、お姉ちゃんなら、まだクロノスの研究所に……」


「そうか……何か、嫌な予感がしやがる。キラチビ、てめぇは――」


 ズドォォンッ!! メキメキ、バキャッ!!


 大きな衝撃音と共に、木々がへし折れ数本の木が鋼鉄と光蘭に襲い掛かってきた。


「チッ!!」


 舌打ちした鋼鉄は、ご自慢の相棒――鋼鉄球をぶん回す。倒れ掛かってきた木々は周囲に吹っ飛ばされ、モワモワと煙が舞い上がった、


「ケホっケホっ! だ、大丈夫鋼鉄さん!?」


「ああ、それよりこいつァ……」


 心配する光蘭の声に応じた鋼鉄は、目の前の不気味な巨大シルエットを見上げた。遅れて光蘭もその姿を目にする。

 そして、煙が晴れてその正体が顕となった。


「んだ、てめぇは!」


【ウゥ……オラはフォロトゴス=フケン=ディートヘイゴス。伝説の戦士……殺しに来た!】


「「!?」」


 突然姿を現した謎の巨漢にも驚きだが、何よりもその発言に二人は驚愕で目を見開いた。何故なら、この男の目的は自分達の命を奪う事なのだから。


「オレ達を……殺す?」


「何で、私達が死ななきゃならないの!?」


 意味が分からないというように、二人は叫ぶ。それもそうだ、理由もなしに殺されたのでは納得がいかない。せめて、納得がいく説明を求めたかった。

 が、求めるよりも先に敵が口を開いた。


【理由、お前ら、オラ達のボス殺した。それ、理由】


「オレ達がてめぇらのボスを殺したぁ? 何の話してんだ、てめぇ……ワリィが、てんで身に覚えがねぇな」


「私も……あなた達の勘違いじゃないの?」


【ウゥ……勘違い? ふざけるなッ!!】


 フォロトゴスの逆鱗にでも触れたか、彼は体を仰け反らせて叫んだ。同時、それが衝撃波となって周囲の木々を薙ぎ倒す。


「ぐわぁ!?」


「きゃあ!?」


 鋼鉄と光蘭の二人も、その勢いに負けてしまい、あっけなく吹き飛ばされてしまった。


「ぐっ……大丈夫か、キラチビ」


「う、うん……それよりも、どうして私達が?」


「んなこと知るか! とにかく、グズグズはしてらんねぇ!! オレが先手を打つ! てめぇはそれに続け!!」


「わ、分かった!」


 鋼鉄に指示を出された光蘭は、真剣な面持ちでコクリ頷くと、武器を持った手を胸元へ引き寄せた。


「絶対に殺されたりしないんだから!」


 そう気合を込め、二人は足を踏み込んだ。


「でりゃぁああああああああッ!!」


 枯れんばかりに声を張り上げる鋼鉄。彼は相棒の鋼鉄球をぶん回し、ハンマー投げの要領でフォロトゴスめがけてぶつけた。

攻撃は見事直撃、フォロトゴスは吹っ飛ばされた――かのように思えた。が、実際は違った。あろうことか、両足で踏ん張って少し後ろに押されただけで済んだのである。


「……んだと!?」


 こればかりは、力自慢の鋼鉄も驚かざるを得なかった。あの鋼鉄球が、押し負けたのだ。確かに敵の大きさは鋼鉄球と同等かそれ以上の大きさだ。押し負けるのも致し方ない事かもしれない。が、それでも鋼鉄は勝てると思っていたのだ。なので、負けた事に対して彼は多大なショックを受けていた。

と、鋼鉄がショックで沈んでいる間に、光蘭が追撃を繰り出す。しかし、それもフォロトゴスには大した攻撃ではないようだ。


「んなワケねぇ……鋼鉄球が、あんなヤローに負けるワケ……」


 完全に意気消沈してしまっている鋼鉄は、フォロトゴスに攻撃している光蘭の姿さえ映っていない。


「鋼鉄さん……」


 敵に攻撃が通用しないと理解した光蘭が、後ろに後退して自分より後ろで膝をついてしまっている鋼鉄を見やる。


「キラチビ、てめぇは先に逃げろ……」


 そこで、ようやく鋼鉄が声を出した。だがそれは、敵を前にして逃げ出せという催促だった。そんな命令、聞けるはずがない。何よりも、大事な仲間を捨て置いて逃げ出すなんて……弱者の所業だ。それに、つい先ほど光蘭は、家族を……大事な人を守りたいと言ったのだ。

それなのに、ここで仲間を失えばさっそく誓いにも似たその言葉の意味がなくなってしまう。


「嫌だ! 鋼鉄さんを置いてなんていけないよ!」


「馬鹿かてめぇは! このデカブツは相当強ぇ! 今戦ってみて歯が立たねぇのは分かっただろが!! こいつには相当硬い攻撃が必要だ! だが、どうにもオレだけの力じゃ無理みてぇだ……。チッ、こんな時に限って砕狼も彪兄ぃもいねぇんだから……」


 歯がゆいと言わんばかりに親指の爪を噛む鋼鉄。


「でも……」


「てめぇはここで死んだらいけねぇ! どうあってでも、生き延びんだ!! それに、てめぇには子供(ガキ)がいんだろ! そいつを悲しませるつもりか!!」


「そ、それは……」


 確かにそうだった。光蘭は一児の母であり、既に守るべき家族が存在するのである。先程自分で口にした守るべき対象にも、家族が含まれていた。だが、だからといって鋼鉄を見捨てる訳にもいかなかった。彼には、今までたくさん教えられてきた。強くなるために数々の修行に付き合ってもらい、ここまで育ててもらった恩師でもあるのだ。

というわけで、三部です。慧までもが……。そして、だんだんと敵の抱えている過去もうっすらと見えてきたような、そうでもないような。また、ⅣからⅤまでの間で大きく成長した光蘭が登場。Ⅳの時は九歳でしたが、立派に成長して二十五歳に!

挿絵もその内入れる予定なので、お楽しみに。

四部に続きます。

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