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十二属性戦士物語【Ⅴ】――幽霊屋敷の亡霊と四神龍――  作者: YossiDragon
裏一章:過去『癒えぬ心と忘れられぬ記憶』篇
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第五話「瓦解せし五大帝国の関係」・4

「他に情報もなさそうだし、そろそろ調査は終了させて引き揚げさせるか?」


 腕組みしてしばらく考え込んでから、俺は皆に同意を求める。すると、恐る恐ると言う風に鈴華が手をあげる。


「あの、僭越ながら……ご主人様。もう少し捜査を続けてくださいませんか? お願いです、あと……後少しだけ――」


「やめろ、鈴華」


 少し語気を強めて言ったのは、暗冷だった。幼馴染の立場から物を言いたいのか、彼はいつになく少し真摯な表情を浮かべて言葉を紡ぐ。


「確かにてめぇが家族を救いたい気持ちは分かる。けどな、帝国自体滅んじまって家屋は煤だらけのボロボロだったんだ。生存者も一名もいねぇ。恐らくは、全員焼死体になっちまったか、エレゴグルドボト帝国の捕虜になったかのどっちかだ。しかも、話によりゃ捕虜になった大半が有属性者らしいな。だとしたら、下手すると一部のクロノスの実験動物になってるかもしんねぇ」


「……そんな」


「ちょっと暗冷くん、いくらなんでもそこまで直球で言うのは」


「うっせぇ、てめぇは引っ込んでろ! 鈴華、てめぇは鳳凰一族の長であり帝王だろが!! トップに立つ人間がいつまでもメソメソしてんじゃねぇよ!! もっとシャキッとしやがれってんだ!! それでもオレらの馴染みかよッ!!」


 暗冷なりに励ましているつもりなのだろう。叱咤激励とはまさにこの事かもしれない。だが、鈴華には叱咤の方のダメージがデカかったようで、とうとう泣きだして座り込んでしまった。


「あぁ~、大丈夫か鈴華?」


 慌てて駆け付けて背中を撫でさすってやりながら、俺は暗冷にジト目を向ける。


「な……。んだよ」


 少しマズったという風な表情を浮かべて後退する暗冷に、水恋がため息を漏らす。


「申し訳ありません、月牙さん。鈴華さんの事は私に任せてお話を続けていてください」


 そう言うと、鈴華に手を貸してその場に立ちあがらせた。それからキッと暗冷を睨みつけてからこの場を後にした。


「チッ、しけちまったぜ。オレはお暇させてもらうぜ」


 恐らくこの場所に居続けるのが、空気的にも難しかったのだろう。暗冷はガタッと音を立ててその場に立ち上がると、いそいそとこの場を後にした。


「はぁ、じゃあ続けるか。二人にはこの書類に目を通してもらいたい」


 俺は嘆息してから書類を二人に渡す。受け取った二人は、お互いにアイコンタクトを交わすと、書類の中身に視線を落とす。

 しばらくしてから、二人は書類をテーブルの上に置いた。


「これに判を押せばいいんですよね?」


「え、ああ。けど、異論は何もないのか?」


 一応反論に対してのコメントを用意していたんだが、これは少しばかり予想外だ。


「……五大帝国っていう関係が瓦解すんだろ? 別にいいんじゃないか? 第一、このまま保ち続けた所で意味ねぇし。エレゴグルドボト帝国もフレムヴァルト帝国も滅んで、ハルムルクヘヴン帝国が存在未確認なら、実質二帝国しかないんだしな」


「潤夜くんの言うとおりですね。それに、私としてもあまり大きな関係を築きたくはありません。ひっそりと静かに暮らしたいのが、素直な意見です」


「そうなんだ。まぁ、誰しも戦争なんて望まないだろうからね」


 鳴海がやけにしんみりとした表情をするので、何とか場を明るくしようと、俺は明るめの口調で喋る。だが、場の空気は変わらず仕舞い。

 助け舟を出して欲しいが、周囲で一番の知り合いはフィヨくらいだ。だが、顔を向けると嫌そうな顔をしてからそっぽを向かれてしまった。

 めちゃくちゃ俺嫌われてるんだけど。


「それじゃあ、印鑑も()してもらった事だし、これで解散かな」


「本当にこれだけのために集まったんですね」


「え、あ……ごめんね? 忙しかった?」


 鳴海に嘆息されて、俺は思わず悪い事をしてしまったかと謝る。


「いいえ、今日は帝王任命式でしたので……ちょっと疲れてるんです。お母さんもまだ戻って来てませんし、少し寝ていいですか?」


「ここで!? あ、じゃあ客間に案内しようか?」


「待って」


 俺の行動を制止させる声。そちらに顔を向けると、そこにはフィヨが仁王立ちで腰に手を添えている姿があった。やけに威圧感があるな……。


「どうかしたのか?」


「国王様、案内ならばあたしに任せてください」


「でも……」


 警護の人間の本来の仕事ではないだろうと思った俺は、少し躊躇う。すると、ズイッと顔を近づけて俺の耳元でフィヨが囁いた。


「あんた、性懲りもなく眠り被っている女の子を襲おうとしてるんでしょ? 残念だけど、そうはさせないんだから」


「んなッ!?」


「どうかしたのか?」


 フィヨの囁き声に納得がいかなかった俺は、思わず変な声をあげてしまう。その声に違和感を覚えたか、潤夜が片眉を吊り上げて訝しむ。


「い、いや……」


「それでは、あたしにお任せくださいますね?」


 耳元で囁いた以前のフィヨの口調とは異なる丁寧口調。こいつ、なかなか凄いな。でも、俺に仕える身なんだし、何かしたいっていう気持ちでもあるんだろう。


「分かった、頼む」


 諦めてフィヨに任せる事にした俺は、再びその場に着席する。


「それでは、こちらです鳴海様」


「すみません」


 若干船を漕いでる鳴海は、フィヨに連れられてこの場を後にした。




――▽▲▽――




 次の日の朝。夢鏡城近くを一人の男性が歩いていた。シェフの格好をしたその男は、両手に茶色い紙袋を抱えていた。そこからちょこんと顔を覗かせているのは、たくさんの材料だった。


「ふぅ、結構買っちまったな……けど、学園の生徒の食べっぷりがいいから、たくさん買っておかないと」


 彼の名前は炎耀燐乱火。夢鏡王国に設立されたロムレス学園の料理長を務める人物だ。以前、伝説の戦士の一人として長い戦いを生き抜いてきた英雄の一人でもある。

 そんな乱火は、呑気に鼻歌を歌いながら城下町を歩いていた。天気は快晴。なかなか持って来いのお天気日和だった。

 周囲の商売人や買い物客がごったがえして、誤って通行人とぶつかってしまいそうになるくらい、今日の城下町の人口密度は高かった。

 こんなに多いのは月牙とミーミルの結婚式が開かれた時以来だろうか?

 と、そんな事を考えながら曲がり角を曲がり、路地裏への入口を横切ったその時、彼の視界に何かが映りこんだ。


「ん?」


 ふとした好奇心で通り過ぎた入口へと後ろ歩きで戻る。それから首を横に向けると、乱火は視線をゆっくり下へ下ろす。そこには一人の幼女が倒れていた。真っ黒な髪の毛を持ち、ボロボロの巫女装束を身に纏うその子は、不思議と乱火の視線を惹きつける。


「だ、大丈夫か君!?」


 少し呆然とその場に棒立ちになっていた乱火は、ハッと我に返りそれから紙袋をその場に置くと、慌てて倒れている幼女に駆け寄る。

 それからうつ伏せ状態の幼女の体を半回転、ひっくり返してみる。もちもちとしたふっくら頬は煤汚れており、あちこちに切り傷や打撲痕がある。服装も乱れ、何かに巻き込まれたとしか思えない。

 乱火はその場に胡坐をかき、その足の上に幼女の体を乗せて口元に耳を近づけた。

 すぅ、すぅ、と確かに呼吸は聞こえる。生きている証拠だ。ということは死んではいない。だとすると、この幼女は気を失っているだけということになる。

 だが、問題は別にある。巫女装束という服装からして、十中八九鳳凰一族の人間だと言う事は間違いない。しかし、その鳳凰一族が何故ここにいるのかが謎だ。

 これは、急いで月牙に相談しなければと、乱火はその幼女をおんぶする。短い手を自分の肩に乗せて、足を腕と脇の間に挟む。そして手元に食材の入った袋を抱えて、なるべく急いで城へと帰還した。




――▽▲▽――




「おい、どういう事なんだ乱火。鳳凰一族の女の子を見つけたって!」


 買い物から帰って来るや否や、鳳凰一族の女の子を見つけたと発言した乱火。俺は、その乱火に連れられて、現在城内を駆けていた。


「買い物帰りに偶然見つけたんだ! それで、何も飲まず食わずだったみたいでさ! 餓死する前にここに運んだんだ! ここならいろんな食材とかも揃ってる! 幸い、学園に葡豊もいたし!」


「それで、その女の子は!?」


 走りながら乱火に居場所を尋ねると、俺の前を走っている乱火が口を開いた。


「今は葡豊が面倒見てて、客間のところだ!」


「よし、急ごう!」


 そうして俺達はようやく客間へとやってきた。扉を開くと、そこには葡豊の姿があった。


「あっ、お久しぶりです月牙さん」


「葡豊こそ、久しぶりだな。元気してたか?」


 葡豊にこうして会うのは、実に七年ぶりだった。なので、軽く互いに挨拶を交わす。


「はい、にしても……この子凄くひどい目に遭ったみたいですね。凄く精神が衰弱していて、精神治療(ハート・ケア)が必要です。……何があったんです?」


 そう言えば、葡豊は知らないんだったな。


「実は、フレムヴァルト帝国が滅んだんだ」


「ええっ!? 本当なんですか? でも……フレムヴァルトと言ったら――」


 言い掛けて葡豊が視線を向けたのは、乱火の方だった。そうだ、乱火にとってフレムヴァルトは……。


「心配するな。大丈夫だって」


 俺達二人に心配かけまいとしてだろう、乱火はまるで作り笑顔のような表情を浮かべて言った。

 だが、どうにも心配する気持ちが拭えない。


「なぁ、確か乱火の奥さんって有属性者だったよな?」


「ああ、俺と同じ火属性だ」


「影明の話だと、有属性者は捕虜として捕らえられたって言ってた。こっからは俺の想像だから、あんまり信じないでほしい。……こんなことホントは考えたくないんだが、参考までに聞いてくれ。滅亡したエレゴグルドボト帝国には、まだクロノスのやつらがいるらしいんだ。それで、あいつらは実験対象に有属性者を使っているとの噂がある。だから、もしかしたら……」


「月牙、それ以上はやめてくれ」


 さっきまで笑顔を浮かべていた乱火が、急に低い声音でそう口にして顔を俯かせる。


「ああ、悪い。不謹慎だったな……忘れてくれ」


 そう言って俺はベッドに眠っている女の子を見据える。


「鈴華さんはいないんですか?」


 俺の視線に気づいてか、葡豊がそんな質問をする。


「ああ、ちょっと出かけててな。今こっちに向かってるらしい」


 その場にしゃがみ、女の子の乱れた髪の毛を梳きながら、俺はそう告げた。


「そうですか……ところで、質問なんですけど。月牙さんって、女の子の髪の毛が好きなんですか?」


「え!?」


 突飛押しもない質問に、俺は思わずびっくりして手を引っ込める。


「いや……何で?」


「いえ……今、その子の髪の毛触ってましたし、たまに月牙さんが学園の生徒とすれ違う時に、髪の毛見てるなぁと思って。それに、これはあまり言いたくないんですけど……斑希さんが寝ている時も、触ってましたよね髪の毛」


「あ、いや、あれは……」


 いかん、そう言えば俺、何かと頭撫でたりしてそのまま髪の毛触ってたりするな……。でも、あれは髪の毛のふわふわした感触が気持ちいっていうか、触ってると落ち着くっていうか……あれ、もしかして俺って――。


「月牙って、髪フェチなのか?」


「そ、そうなんですか!?」


 乱火の直球質問に、葡豊も驚きの声をあげて口元を手で覆う。


「……そうなのかな」


 こればかりは俺も否定できなかった。確かに、髪の毛を見てる節はある。小さい時から髪の毛の長い人の周囲にいたから、風に靡く女の人の髪の毛に見惚れてた事があったりもした。現に、母さんもフィーレさんも……斑希も、長かったし。


「意外な発見だな」


「そう言えば、水恋さんも髪の毛長かったですね」


「おおッ!」


「あっ、私も今日髪の毛下ろしてるから腰まであります……もしかして、触りたいとか思ってました?」


 おい、何だか俺を見る二人の目が嬉々としているのは気のせいか?


「ちょっと待ってくれ、別に俺は髪の毛が長い女の子が好きと言うわけじゃ……」


「え、そうなんですか? あっ、でも確かにこの子もショートカットですし」


 何故か少し残念そうな葡豊。確かに葡豊の髪の毛は昔に比べると随分伸びた。白衣を身に纏い、そのくびれた腰まで伸びている青々とした髪の毛は、生き生きとした植物を想起させる。とても綺麗でクセっ毛一つ無い。

 枝毛もなさそうで、手入れが行き届いたいい髪の毛だ。いかん、こんな観察していたらまたしても髪フェチとか思われる。


「やっぱり、触りたいんじゃないですか?」


「うッ……」


「別にいいですよ? 髪の毛くらい……」


「じゃ、じゃあ……ちょっとだけ」


 せっかく許可をもらっているんだし、確実な物にするためにはいいかもしれない。

 そう自分に良く分からない納得をさせた俺は、恐る恐る葡豊の頭に手を伸ばす。

 そして、ポンッと手頃な大きさの頭に手を乗せると、サワサワと頭を撫でるように髪の毛を触る。すごい、柔かい。草植系属性だけあってなかなかの柔かさを誇っている。


「すげぇ、気持ちいい」


「やんっ、月牙さん。くすぐったいです……でも、私も心地いいです。月牙さんって頭撫でるの上手なんですね」


「え?」


 俺としては髪の毛を触っていたつもりだったんだが、葡豊は俺が頭を撫でていると思っていたらしい。


「斑希も言ってたな。そんなに俺の撫で方って気持ちいいのか?」


「はい、心安らぐ感じです。淡くて暖かい温もりが手から伝わってくるようで」


 そんな事言われたの久し振りだ。そう言えば、フィヨも似たような事言ってたな。警備隊リーダーになった今も、人の目を盗んでは俺に褒めてもらいとか言って頭撫でさせられるし。


「そっか……」


 とりあえず髪の毛の感触は確かめられたしと、俺は頭から手をどけた。


「あっ、もう終わりですか?」


 何でそんなに名残惜しそうなんだよ。葡豊は、俺の手の温もりを確かめるように、自分の頭の上に手を乗せた。


「また触りたくなったらいつでも触ってくださいね?」


 こんなに髪の毛を触らせてくる女の子もいかがなものだろう。まぁ、嫌じゃないが。


「か、考えとく」


 少し後退しつつ、俺は苦笑した。

 と、その時コンコンと扉が叩かれる音がして俺は扉越しに声をかけた。


「開いてるぞ?」


 俺がそう答えてやると、扉が開け放たれて、血相を変えて息切れ気味の鈴華が姿を現した。


「はぁはぁ……鳳凰一族の子が、見つかったって……本当ですか!?」


「お、落ち着け。ほら、この女の子だよ……」


 とりあえず鈴華の乱れる呼吸を整えさせてから、俺はベッドに眠る女の子と鈴華を会わせる。

 すると、眼を見開いて鈴華がダダッと駆け寄った。


「雲雀さんっ!!」


 女の子の名前らしき言葉を口にし、鈴華は大粒の涙を流す。


「よかった、無事で……!」


「鈴華、感動の再会のとこ水を差すようで悪いが、その子は?」


「ぐすっ、すいません……ご主人様。彼女は『鳳凰(ほうおう) 雲雀(ひばり)』さんと言って、連絡鳥なんです」


 連絡鳥、そういえば言ってたな。連絡するために必要な子がいるって。


「この子がそうなのか?」


「はい、これで連絡が取れます……でも」


「でも?」


 急に浮かない顔をし出す鈴華に、俺は訝しんで声をかける。すると、噤んでいた口を開いて鈴華がこちらを見やる。

というわけで四部です。鳴海と潤夜の口調は殆ど水恋と暗冷と変わりません。

乱火が買い物帰りに見つけたのは、鳳凰一族の一人である雲雀でした。

連絡鳥を見つけた月牙達は、さっそく鳳凰一族に連絡を取ろうとしますが、生憎と雲雀は眠っている。

また、乱火の妻の話が出ました。果たして奥さんの命運や如何に?

そして、月牙のまさかの髪フェチ疑惑? しかも、毛先を触るのではなく頭頂部を撫でるため、触られている方としては頭を撫でられるという感覚になるわけです。

五部に続きます。

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