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第二十六話「総てを止めし石化の双眸」・4

【……どう? 分かったかしら? このアタシの無力さが……無属性者だったばっかりに、アタシは成す術なく死に絶えた。有属性者だったならば、まだ何かしら対抗策があったかもしれない……死んだ今でも、ついついそんな事を考えてしまうのよね。このディートヘイゴス一家に母として力を貸す事になった時、正直驚いたわ……。仮初の家族だというのに、奇しくも家族構成が一緒だったんだもの……そりゃあついつい思い入れてしまう訳だわ。この組織にいる以上家族の役割を全うしなければならない。だからこそ、あの時と同じように、またしても愛する我が子を全員喪って……許せる訳……ないわよねぇえええええ!】


 エールは激しい怒りのオーラを溢れ出させ、その両目からまたしてもあの石化光線を放ってきた。

 慌ててそれを躱す十人の伝説の戦士達。しかし、その回避も想定の範囲内というように、次々と光線を放ち続けるエール。

 十人はそれぞれ散り散りになるように敵の攻撃を躱していった。

 対してエールは、諦めぬとばかりに石化光線を放つのを止めない。

 標的に躱された石化光線は四方八方のあらぬところに命中し、次々にその色を失って石化していく。このままでは、遅かれ早かれこの場所は全て石で出来た部屋へと様変わりしてしまうだろう。

 別段それにより大きな支障が出るかと問われればそんな事はないが、面倒なのはこの場から出る方法である。

 役目を失い、時が止まったように動かぬのであれば、容易にこの場を脱するのは難しいかもしれない。

 現状のメンバー内に怪力と名高いパワータイプはいない。先代の初代であれば、鋼土系属性持ちのメンバーが数人程いたため、どうにかなっただろうが、今回はそうもいかない。

 石化光線のエネルギー切れでもないかと僅かな可能性に賭けてみるものの、数分経っても怒りを露にしたまま今も尚石化光線を放ってくるエールを見るに、この考えは払拭した方が良さそうだ。

 どうにか作戦を考える神聖の十戦士達。しかし、妙案は浮かばず刻一刻と時間と体力が奪われていくだけだった。

 と、敵の攻撃回避に専念し続けて数十分が経過した頃だろうか。

 ようやく、エールにも疲労が見られ始めたようで、石化光線の威力が弱まり始めた。


【うっく……小癪な……このくらいの目の疲れ……どうとでも……】


 どうやらあの石化光線は目を見開き続けて放つようで、数え切れぬ程の回数使用していたせいで、猛烈な眼精疲労に見舞われたようだ。身体をよろめかせ、眉間を親指と人差し指で押さえ、しんどそうにするエール。

 攻撃が止んだ今がチャンスとばかりに、十人は態勢を立て直して、慌夜の近くへと急ぎ駆け寄った。


「どうするの? このままじゃ、いつまで経ってもこの先へ進めないわよ!?」


 渚が苛立ちに歯噛みしながら慌夜に訊ねる。


「わかってる! 俺だって考えちゃいるが……ダメだ、あの光線をどうにかしないと、あいつにまともに近づけやしない!」


「それなら、遠距離攻撃をぶつければいいんじゃない?」


 顎に手をやり悩む慌夜に、茜がふと思いついたアイデアを伝える。


「そうか、遠距離なら届くかもしれない!」


 このまま考えあぐねていても埒が明かないのは変わらない。であれば、少しでも可能性がある手段を講じてみるのも悪くはないはずだ。

 メンバー全員が賛同の頷きを見せ、各々遠距離攻撃の手段を持つ戦士達が配置に着き、身構える。


「よし、放てッ!」


 慌夜の合図と同時、戦士達が一斉に攻撃を放った。


【ぐっ! そんなものっ!】


 エールは片手で顔面の半分を覆い、もう片方の目をかっ開いた。直後、その眼光を受けて放たれた攻撃が動きを止める。どうやら、石化の影響を受けてしまったらしい。

 動物だけでなく静物にも効果があるとは言っていたが、よもや攻撃にまでその影響が及ぶとは末恐ろしい。

 慌夜達は歯噛みして次の作戦を立てる事を余儀なくされた。

 しかしそうしている間に、エールが先に動き出した。

 彼女は彼らからある程度の距離を取ったかと思うと、ニタリと口の端を妖しく歪ませて声高らかに叫んだ。


【おいでなさい、アタシの可愛いコレクション達っ!】


 すると、その大声に呼応するように、暗闇から数人の人影が姿を現した。不気味な女の呻き声と共に、怪しい機械的な動きでこちらににじり寄ってくる何か。


「こう暗くては見え辛くて仕方ありませんね……」


 と、暗がりの視界不良にどうにも不快感を抱いていた光が、すかさず懐から何かを取り出して地面に向かって放った。

 それは地面に当たった衝撃で破裂し、眩い光を放ち始めた。

 それにより、この場の周囲一帯が一気に明るくなった。光も満足そうに口元に笑みを浮かべ、眼鏡をクイと持ち上げてレンズを光り輝かせている。


「……な、何なんだこいつら!」


 光が周囲を明るくしてくれたおかげで判明した、呻き声の正体。それは、肉体の一部が石で出来た複数の女性だった。皆共通して血塗れの白衣を身に着けている事から、どうやら彼女達は無属性者で、クロノスに所属している研究員のようだ。彼女達の数人が首からクロノスのロゴが入ったネームプレートを提げている事からも、それは間違いないだろう。

 だが、問題はどうして彼女達がこんな所にいて、あのような惨たらしい姿になり果ててしまっているのかだ。

 無論知り合いではないし、あんな目に遭っている原因も皆目見当もつかない。ただ、あの身体の一部の石化から鑑みるに、彼女達を支配しているのはエールに違いない。


【うっふふふ、素晴らしいでしょう? アタシが丹精込めて作り出した……屍石人像(しせきじんぞう)よ】


「し、屍石人像? 何だよ、それ……」


 不気味に含み笑いするエールの言葉に、慌夜が恐る恐る訊ねる。


【ここにいる女共は、事もあろうか……この神聖な雅曇皇圓邸に土足で踏み入った不届き者達よ。その命は既に尽き、魂を失った空っぽの魄を、壊れた個所のみ修復して、再利用しているの。素晴らしいでしょう? アタシの力で、醜かったあの女共は完全な器を手にしたの……本来はあいつらの一部を繋ぎ合わせて完璧な器を、あのお方のために用意する予定だったのだけれど……思わぬ邪魔が入って失敗してしまった……だけれど、同じ事をもう一度行うのはは不可能。何かいい手はないかと再三探したわ。これはその実験の最中に生み出された失敗作達……。でも、失敗作でもそれなりに戦力にはなるでしょ……アタシの盾としてねぇっ! アッハハハハハハハハ! さぁ、思う存分暴れなさい! そして、一人でも多くの伝説の戦士の子供達を殺してしまいなさい!】


 そう言ってエールは、大きく高笑いした。

 屍石人像と呼ばれたクロノスの女性研究員達が、次々にエールの命令の下、神聖の十戦士に近づいてくる。既に死んでいる者達だ。葬ってしまっても何ら問題はないのだろうが、どうにもその見た目のせいで躊躇いが出てしまう。

 それがエールの狙いでもあったのだろう。思った通りと言わんばかりにほくそ笑んでいた。

 と、そこで琥竜が一人の女性研究員を切り伏せた。全身焼け焦げたように黒ずんだその人物は、髪の毛もなく、身体のラインで女性だと判別するしか方法がない状態だ。


「……確かに、こいつらには荷が重いだろう……。だが残念だったな、オレにはこんなもの、関係ねぇ……邪魔するのであれば、何人たりとも斬り殺すだけだ」


 静かにそう告げて、琥竜は忍刀を血払いする。


【ふんっ……それでも数はそちらと大差ないわ。その全員をアナタ一人でどうにかするのは、流石に無理でしょう?】


「……確かにな。ってなワケだ、おい……いつまで怯んでんだ。とっとと覚悟決めろ! この先、オレらの障害になるヤツらが怪物だけとは限らねぇんだぞ!」


 琥竜にそう言われ、他の戦士達は互いに視線を交わし合った。どこかまだ心配が拭えぬ不安気な表情を浮かべているが、琥竜にばかり戦わせる訳にはいかないという正義感も働いたのだろう。各々武器を握り直し、周囲に立ちはだかるクロノスの女性研究員の屍石人像にその矛先を向けた。


【チッ、まぁいいわ。せいぜい時間稼ぎくらいはしてもらうわよ!】


 と、エールが手を前に突き出すと、彼女達は一斉に動き出した。


「ひゃっ!?」


 目の前に右目が石で補われた幼い少女が現れ、両手を振り上げ茜に襲い掛かる。


「茜ッ!」


 幼馴染の悲鳴を聞きつけ、慌てて慌夜が彼女の名前を呼びながら幼い研究員の少女を切り裂く。


「くっ……!? なんで、既に死んでるのに……まだこんなに血が出るんだよ……ッ!」


 まるで生者を殺している感覚がする。切った瞬間に肉を断ち切る感覚が確かにあった。その生々しさと、切り伏せられた少女のぱっくり開いた赤黒い傷口からとめどなく流れ出す血だまりを見て、慌夜は堪らず嘔吐いた。


「だ、大丈夫こー君? あ、ありがと……」


 救けてくれた事にお礼を言い、茜が優しく慌夜の背中を撫でさすってあげる。


「あ、ああ……もう平気だ。悪い、茜……早く他のやつも片づけるぞ!」


「う、うん!」


 いつまでも茜に心配させる訳にはいかないと自身を奮い立たせ、慌夜は先導して次の標的に向かって突っ込んでいった。茜もそれに続く。


「た、ただの人間だったにしては、いささか力が強いですね!」


 光は、ショートヘアの女性研究員と対峙していた。左腕と両足が石で補われているその人物は、完全に生気を失った表情をしており、まるで精巧な人形のように凍てついた表情をしている。唇もすっかり青ざめ、血の通った感じは見られない。やはり、死者なのだろうか。


「明見君、危ないです……!」


 と、背後から名を呼ぶ声が聞こえてきた。それは、頑張って声を張り上げてくれたであろう土筆の滅多に聞く事のない大声だった。

 その声に、光が咄嗟に振り返ると、右腕が石で補われたロングヘアの少女がこちらに飛びかかってくる姿があった。


「うおっと!」


 慌てて身を捻り、どうにか飛び付かれるのを躱した光は、即座に光属性のワイヤーでその少女を縛り上げた。その高熱に肌がジリジリと焼かれ、捕縛された研究員の少女が獣染みた呻き声をあげる。


「ぐぁああああああああ!?」


「……酷い。最早人間の皮を被った怪物ですね」


 あまりに惨い仕打ちだと言わんばかりに、光が同情の念を抱き、エールがした事に不快感を覚える。


「ありがとうございます、草壁さん。おかげで助かりましたよ」


「いえ、無事でよかった――」


 と、光が頭を下げ、土筆が首を振って安堵の表情を見せていたその時、彼女の背後に先程まで光が対峙していたショートヘアの女性研究員が襲い掛かってきた。


「ッ!? 草壁さん伏せて下さいッ!」


「ひゃっ!?」


「ぎぁぁああああああああ!?」


 光が咄嗟の判断力ですかさず土筆に指示を出し、彼女が体を伏せて丸くなっている隙に、懐から取り出した光属性を纏わせたナイフを瞬時に放った。

 三本のナイフはそれぞれ女性研究員の眉間、喉元、心臓部に突き刺さり、研究員の女性は、絶叫を上げて大きく仰け反り、後方へと倒れた。

 間一髪であった。


「ふぅ、危ないところでした……これでお相子ですね」


「くす……そうですね」


 と、土筆に手を差し伸べながらそう口にする光の言葉に、口元を手で隠しながら土筆は小さく笑い、彼の手にもう片方の手を載せた。


「へぇ、向こうもなんかイーカンジじゃん♪ そんじゃ、こっちもとっとと片づけちゃおっか、つばぽよ?」


「……あ、もしかしてぼくのこと? そ、そんな風に呼ばれるの初めてだから、一瞬わかんなかったよ」


「ま、呼び方云々はおいおい覚えてってちょ! ほら、いくよ」


「う、うん!」


 気づけば十人はそれぞれ二人一組のペアで戦闘する形になっていた。その様子を見てにんまり笑みを浮かべていた霙もまた、傍にいた翼との協力で目の前の敵をねじ伏せている最中だった。

 霙の作り出す大量の氷柱。それを翼の空気操作で圧縮された空気を発射台に組み込む。

 そうして空気砲の要領で発射された氷柱は、物凄い勢いで標的の研究員を刺し貫きそのまま地面を穿った。


「ふぅ~。いっちょあがりってトコかな」


 汗なんて少しもかいていないが、そんな所作を見せて手の甲側の手首で額を拭う霙。

 宙を飛んでいた翼も、ジョンやオリバーと戦っていた時よりも、空中に飛翔し続ける事に段々と慣れてきてホッとしていた。

 まだまだ天使の力を顕現させて間もない。早く己の物にしなければと、翼は小さい拳を強く握って内心鼓舞した。


「やれやれ、君達の相手をしていたら、せっかくの戦闘データが収集出来ないじゃないか。まぁでも、君達が雑魚で助かったよ……全てとはいかないまでも、ここからデータを集めても十分な成果が得られそうだ、にひっ」


 百合は目の前で倒れている下半身が石で補われたロングヘアの長身女性の変わり果てた姿を一瞥して、口元に笑みを浮かべた。


「いっけぇえええ!」


 渚は胸部以外、全て石で補われた少女と、首元だけ石で補われた少女を、暴風で一気に吹き飛ばしていた。吹っ飛ばされた研究員達の体はあらぬ方向へ曲がり、そのまま七海が作り出した水の球に衝突して、その水中へと入り込んだ。


「捕えたわ! 今よ、七海!」


「わかったぁ~」


 渚の掛け声に頷いた七海が、すかさずハルバートで宙に円を描くようにかき回す。すると、そのハルバードに水属性の魔力が纏い始め、渦を生み出し始めた。


「くらええ~!」


 気の抜けるようなゆったりした一声で、七海がハルバードを振るう。ハルバードから発射されたその渦は、一気に大きさと速度を増していき、水の球に突っ込んだ。直後、一気に水の球がその渦によってシェイクされ、水の球は大回転を始めた。その速度はどんどん速くなり、水中にいた二人の肉体はもみくちゃにされてぶつかりあい、最終的には遠心力によって吹っ飛ばされて原型を留めぬ姿に変わり果ててしまった。

 水の球を一瞥すると、あんなに澄んだ綺麗な青色をしていたのに、何か邪悪な闇を吸い込んだように赤黒く濁り切ってしまっていた。十中八九、二人の血液だ。


「ふふっ、片付いたねぇ~」


「ほんと……顔に似合わずなかなかエグい事するわよね、あなた」


「ん~? なんの事~?」


「……なんでもないわよ」


 さっきまで戦闘を繰り広げていたとは思えぬほど、いつもの調子で恍けたように首を傾げる七海。

 そんな彼女の反応に、すっかり呆れ返った渚は諦めたように溜息を吐いてそう言った。

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