第二十四話:エナジードリンク
エナジードリンクを大量生産する。そう決めた波留は朝食の席で父に切りだした。
「例の薬、今どんな感じ?」
「大学の先生がえらい頑張ってくれてな、動物実験もラットの実験からウサギと豚に切り替わってるよ。普通は段階を追って進めるらしいんだけど、並行でやってるみたいだ。安全性、毒性確認のための経過観察とか薬物動態試験に時間がかかるらしいけど、通常でも3年はかかるところを1年以内に結果を出すって人員を増員して張り切ってるよ」
必死なんだねとは思っても口にしない波留だった。
「そうなんだ、でも、最終的な認証が降りるのは時間がかかるよね?」
「それはそうなんだが……」
渋い口調でそう言った父に対し波留が言った。
「だからそれまでのつなぎにエナジードリンクを売り出そうと思うんだ。やっぱり社員さんには利益を出したうえでお給料を払いたいでしょ?」
「エナジードリンクか……でもそれだと大量生産が必要になるんじゃないか? 売れるかどうかも分からないのにリスクが大きすぎる気がするんだが」
「それは考慮済みだよ。それに、もし失敗したとしても工房の利益範囲に収まる損失しか出ないし」
今はまだ八月の後半だが、霊視メガネの予約数は加速度的に増加の一途をたどってすでに予約は打ち切られている。現在月産6000個だが、工場が稼働を開始する年始過ぎまでの予約数が30000個となっていて、それだけで売り上げが90億円であり、税引き後の純利益でも50億を超えることが確定している。
さらに、霊に対する結界効果を持った護符は不動産業界や一般家庭から広く予約注文が来ている。今現在は駅前の本社オフィスに波留が改造したプリンターを並べて量産対応している状態だが全く追いついていない。
護符の年間純利益を加えると、いまのところ今年度――3月末締め――の純利益が200億を超え、250億に近づくかもしれないと波留は読んでいる。
また、霊視メガネも護符も日本国内に限れば必要な人にいずれ行き渡るだろうが、保証期間は4年であって波留の経験上5年前後で効果が切れる。そうなると買い替え需要が発生するわけで、工場での生産に切り替わっても需要が尽きることはないだろう。
むしろ、海外需要に応えるために工場の増築が必要になるだろうと波留は考えている。
「そこまで考えてあるなら父さんに否やはない」
そう言った父が母を見た。
「いいんじゃないかしら、シワ取りクリームも量産のめどは立ったし、他の化粧品も順調に開発が進んでるから売り上げの足しになると思うわ」
母の意見に父は頷いた。
「そうと決まれば早速動いた方がいいか。清涼飲料業界に知り合いはいないから公募からはじめるしかないんだが……波留、試作品の方は頼んだぞ」
「うん、それはやっておくよ」
波留は簡単にそう答えたが、実際試作品に関してはものすごく単純に考えている。エナジードリンクは効き目第一だが、味もまた重要だ。ある程度パンチがあって、かつ、清涼感を損なってはならない。
そして波留には料理のセンスがない。エナジードリンクが料理かと言われれば少しばかり苦しいが、レシピがあって味付けがあるのだから似たようなものだろう。彼はそう考えている。
それは置いておくとして、そんな波留が試作をするのだからその方法は限られてくる。というか、彼はそもそも試作においてはエナジードリンクを原料から調理というか配合しようとは考えていなかった。
ではどうするのか?
答えは簡単だ。市販の微炭酸飲料を買ってくる。そして魔法を付与する。それだけである。波留が目指しているのは市販のエナジードリンクよりも反動が少なくて効き目が良いエナジードリンクだ。
市販のそれより体力が回復し、意識がはっきりし、目が冴え、活力がみなぎってくればそれでよい。ただし、効きすぎるのはダメだ。効きすぎるということは、効き目が切れたときの反動が大きくなるということである。
魔法であってもそれを免れることは出来ない。それは異世界の常識だった。反動がない最良の効き目とは、疲れがだいぶ溜まった深夜に飲んだとして、朝すっきりと目が覚めた活力に満ち溢れた状態にすることである。
市販のエナジードリンクにそこまでの効果は望めないだろう。
重要なのは、原料というか母材は飲み物ならば何でもエナジードリンクに加工できるということだ。効果は栄養補給以外の全てを魔法に任せ、味や清涼感に関しては専門家に頼ればよい。波留は付加する魔法の効き目と持続時間を調整するだけだ。
付与するのは体力回復の魔法、目覚めの魔法、意識高揚の魔法を重ね掛けする。けれどもその効果は極力抑えるというかどれも効き目をかなり弱く設定したほうがいいと波留は考えている。
理由は、異世界で使っていたそれらの魔法は普通に使うと効きすぎるからだ。上手く調整しなければ反動というか副作用が問題になるかもしれない。ここは異世界ではない。波留はそれを強く認識しなおすのだった。
――調整が終わったら効き目は最近お疲れ気味の父さんに試してもらうか。でも、量産時はさすがに手作業で付与するのは面倒だし、レンズの量産機にも対応しなくちゃだし、そろそろアレの試作に取り掛かるか。




