1話〜両親〜
市内には大型ショッピングモールが2ヶ所あり、そこは連絡通路で繋がっている。その中の大型書店のコミックコーナーを見漁っていた。私の手には公苑 更更先生の新作異世界転生ラノベ『没落貴族に転生してインドカレーとカレーライスの違いを説いてるうちに国王になったので世界征服を企みます』の1巻の特装版のコミックスがある。いわゆる、コミカライズだ。
あぁ、読むのが今から楽しみだ。
そこにコーヒーのいい匂いがしてきた。カフェがこの階にはあるのか……。しかし、私の脳内ではカレーライスかインドカレーのどちらかにするかで悩んでいる。
「……お昼はインドカレーにするか」
時刻は午前11時48分。今はショッピングモールを繋ぐ連絡通路を歩いている。インドカレー屋『ハイウェイカレー』は連絡通路を渡った先のショッピングモールの8階レストラン街にある。
ハイウェイカレーはプレーンナンは都度注文制だが、チーズナンは食べ放題という不思議なお店だ。
店に入り窓側の席に案内されてチーズナンとマトンカレーをオーダーして外を見ていた。
「……あれが北商店街、そこが西商店街……か」
そう、ここにはほとんど距離が変わらず商店街が北と西にあった。今となってはほぼシャッター商店街だ。
「わびさび……か」
わびさびの意味などよくわからない。ただ、古いものが廃っていき寂しいことだと思っている。
残ったカレーをスプーンですくった。
「よしっ、帰り、一発くじでもしていくか」
一発くじは様々なジャンルのくじだ。オタクはこぞって1回800円の一発くじの結果に一喜一憂する。
チーズナンを3枚おかわりして合計4枚のチーズナンとマトンカレーを食べ終えた。会計を終えて店をあとにした。この量で1000円は安すぎる。
「ラッシー頼むの忘れたな」
ラッシー以外の何かを忘れて駐輪場についた。いつもは3時間無料の駐輪場に止めるが、そこが改装工事中だったので今日は正面玄関横に自転車を置いている。
正面玄関に焼き鳥のキッチンカーが来ている。
「くっ、このタレの匂いには敵わねぇ」
キッチンカーでむねとももを2本ずつ頼んだ。イートインスペースは地下1階にはある。ただ、これは今すぐ食べたい。
腰かけられそうなスペースが駐輪場の近くの公園にある。少し歩き公園についてベンチに座って子どもが鬼ごっこをしているのを眺めて焼き鳥を食べていた。
「ん〜この染みるタレがうまいんだよなぁ」
この公園は普通の住宅街の公園というには大きく、緑地公園というには小さいのである。ここで年に一度は小規模なフリーマーケットも行われる。
ショッピングモールの方角を見ればヒラヒラと旗が揺れている。黄色い背景に赤い文字で描かれているそれはほとんどの人が人生で何度も1等前後賞が当たる妄想をするのだ。
「その行為はもはや虚無なんだけどするんだよなぁ。もし、今、1等が当たったら……」
あれを買ってこれを買って……、あぁ、家もリフォームして……。
気づけば窓口に立っていて『1等前後賞で1億円のくじを100本ください』と言っていた。
これは購入金額は2万円だ。これで1億円になれば黒字すぎる。
「ふっ」
すでに1等前後賞が当たった気分でニヤリとした。
「お客様、それは年末とお盆だけの限定商品でして……ただいまはマンガの『ホッホホーと笑うインドゾウ』とのコラボスクラッチ限定なんです」
聞いたことのないマンガに驚いた。しかし、どの作品とのコラボを気にしている場合ではない。いまはくじを買って妄想を現実にするのが優先だ。
「あっ、それじゃそれを20枚で」
スクラッチを注文した。それは別にいい。ただ、コラボマンガのイラストのタッチだ。タイトルからは劇画タッチでラノベをイメージしていた。しかし、現実は少女マンガタッチだった。
スクラッチの結果はすぐにわかる。2等2万円が5本、参加賞とも言うべき最下位賞200円が15本だった。
「……ですから金額は……10万3000円ですね」
10万円と少しを手にしてルンルン気分で帰宅した。
「ただいま」
いつもならばおふくろがバタバタせわしなく駆け寄ってくる。
「やっと私が大人になったことがわかっ……」
何か家の中が臭い。ガス臭いというか焦げ臭いというか……。いや、違う、かいだことのない……嫌な匂いだ。
「まぁ、どうせ何かしてたんだろ」
この家の1階は玄関の横に和室、最奥がリビングだ。和室を通ろうとふすまを開けようとした。何かが挟まっている。リビングには和室を通らなくても行けることは行ける。ただ、部屋の換気がしたかったのだ。
リビングから和室に入るとおふくろと親父が倒れていた。
私は声をかけたが反応がない。手首を触るとすでに脈がない。110番と119番に電話をかけた。
その後、事件性はないと判断されて葬儀屋などに連絡をした。
しばらくアルバイト先から忌引休暇をもらって葬儀のことに専念した。
次回
2話〜旧友〜




