観測される世界
雨が降っていた。
大学の研究棟。
夜。
ほとんどの部屋は暗い。
だが、一つだけ。
蛍光灯が点いたままだった。
机の上にはモニターが並んでいる。
映っているのは。
ダンジョン配信。
モンスター。
戦闘。
チャット。
男が椅子に座っていた。
白波 隆一。
大学教授。
専門は統計学。
彼は画面を見つめている。
「……おかしい」
モニターには数字。
配信タイトル。
【深層攻略】
視聴者数
12043
その瞬間。
モンスターが現れる。
大量。
配信者が叫ぶ。
「多すぎる!」
コメント。
〈バグ?〉
〈こんな湧く?〉
〈逃げろ〉
画面が揺れる。
戦闘。
血。
そして。
配信が途切れる。
通信切断。
白波はノートを見る。
そこには数字が並んでいる。
同接 死亡率
100 0%
300 5%
1000 17%
5000 41%
10000 68%
白波はつぶやく。
「相関が強すぎる」
普通ではない。
偶然では説明できない。
彼は次の配信を開く。
【初心者ダンジョン】
視聴者数
47
モンスター。
弱い。
数も少ない。
白波はマウスを動かす。
配信を拡散する。
SNSに貼る。
数分後。
視聴者数
47
↓
120
↓
380
その瞬間。
洞窟の奥。
モンスターが増える。
配信者
「え?」
「今増えた?」
白波の手が止まる。
「……やっぱりだ」
モニターを見る。
視聴者数
420
モンスター
増える。
配信者
「なんだこれ!」
コメント。
〈急に難易度上がった〉
〈運営の嫌がらせ?〉
〈やばい〉
白波は椅子にもたれる。
天井を見る。
「あり得ない」
しかし。
数字は嘘をつかない。
白波はホワイトボードに書く。
観測 → 変化
そして。
もう一つ書く。
観測強度
視聴者数
彼は小さく言う。
「世界は」
「見られることで」
「変わる」
沈黙。
白波は笑った。
「バカな話だ」
だが。
データは
そう言っている。
数日後。
白波は論文を書いた。
タイトル。
観測によるダンジョン変動仮説
提出。
一週間後。
会議室。
教授たちが座っている。
一人が言う。
「白波先生」
「これは」
「非科学的です」
別の教授。
「視聴者数で世界が変わる?」
笑い声。
「SFですか」
白波は黙る。
しばらくして。
論文は却下された。
夜。
研究室。
雨はまだ降っている。
白波はモニターを見る。
ダンジョン配信。
視聴者数
9634
モンスターが増える。
配信者が逃げる。
コメント。
〈無理ゲー〉
〈難易度おかしい〉
〈死ぬ〉
白波は小さく言う。
「分かってない」
「誰も」
机の上。
一枚の写真がある。
小さな女の子。
笑っている。
娘。
白波は写真を見る。
「アリサ」
「もし」
「この世界が」
「見られることで決まるなら」
彼はモニターを見る。
視聴者数
10021
モンスターが増える。
配信者が叫ぶ。
白波は静かに言う。
「観測は」
「危険だ」
パソコンの画面。
突然。
新しいウィンドウが開く。
白波は眉をひそめる。
「……?」
画面に文字。
視聴者数
1
チャット。
〈見てる〉
白波は固まる。
「誰だ」
返事はない。
ただ。
画面の奥で。
ダンジョンの映像が
ゆっくり揺れていた。
(番外編② 終)
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