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マイホーム・ザ・アトラス! ~新婚旅行は快適無双なキャンピングロボで~  作者: 雨宮ソウスケ


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第8話 開拓者ギルド

 開拓者(シーカー)とは何者なのか。

 それは、古くは冒険者とも呼ばれた職業だった。

 途方もなく広大で自然豊かな大地であるラスティリアは、今もなお未踏の地が多い。

 現時点で確認されている六つの大陸の中でさえ完全に踏破された大地はなく、人が暮らす地域は全体の四割にも満たないと言われている。そんな未踏の世界へと踏み入れ、新たな資源を見つけ、新たな地図を描き上げることを生業とした職業が開拓者(シーカー)なのである。

 一攫千金を夢見て、未踏の世界を切り拓く者たちだ。

 そして開拓者(シーカーズ)ギルドとは、そんな彼らを管理及び補助する組織だった。


「だが、すべての開拓者(シーカー)が未踏の世界に挑む訳じゃない」


 運搬バスの座席に座り、ユージンが言う。


「実力不足で、中には何でも屋のようなことをしている者もいる。というより、そっちの方が圧倒的に多いだろうな。ギルドはそういった者に仕事を斡旋しているんだ。そちらの方がギルドの本業と言えるぐらいだ」


「けど、ユージンは傭兵だったんだろう?」隣に座るトワが小首を傾げた。「ギルドに行ってどうするんだ?」


「実は俺も開拓者(シーカー)の資格を持っているんだ」


 言って、ユージンはジャケットの内側からカードを取り出した。

 開拓者(シーカーズ)カードを呼ばれるモノだ。


「傭兵ならまず持っている。この資格があるとギルド運営の銀行(バンク)が使えるからな」


 銀行は、ある程度の規模の都市なら必ずある。

 しかし、都市間や国境さえも越える銀行はギルド運営の銀行だけだった。


「俺にも傭兵時代の多少の貯蓄はある。それを引き落とそうと思うんだが、もしかするとダメかもしれないな」


 ユージンは眉をひそめた。

 どの街でも使える便利な銀行だが、実のところ、リスクもあるのだ。


「まあ、ダメもとで行ってみるか」


 そう呟いた。



 ――がやがやと。

 その建物内は騒々しかった。

 六階建ての建屋の一階。とても広いフロアだ。

 ユージンは「少し待っていてくれ」と告げて七番まである受付の方に歩いていった。

 トワは幾つもあるテーブル席の一つに座って待つことした。


(これが開拓者(シーカーズ)ギルド。今の冒険者ギルドなのか)


 トワは改めて周囲を見渡した。

 ユージンが向かった受付。トワが座るテーブル席。トワの知る時代では酒場のような感じだったと記憶しているのだが、印象自体は変わらないようだ。壁に依頼ボードがあり、多種多様な依頼が張られているのにも懐かしさがある。そして、その周辺には明らかに一般人とは違う気配を持つ荒事に慣れたような人間たちがいることもだ。


人族(ヒューム)獣人(ビースト)族。地人(ドワーフ)族、流石に引きこもりの森人(エルフ)は見かけないな)


 トワはまじまじと見やる。本当にここには様々な種族がいた。中には竜人のような人種もいる。トワも初めて見る種族だった。周囲に受け入れられているので、千年間の開拓で出会った新しい種族だろうか。獣人や竜人などは戦闘向きの種族のようだが、トワが知る時代の、剣や杖を持っていた冒険者たちとは違って、全員がユージンのような軽装だった。


(あれが今の時代の冒険者たちなのか)


 この点に関しては昔と大きく違っていた。

 何というか世代感ギャップを抱きつつ、トワは何とも言えない顔をした。


(やっぱり私は時代遅れのおばあちゃんなんだな)


 そんなことを思う。

 それに昔と一番変わったと言えば魔装機兵(アームドギア)の存在だ。ユージンが《奈落》に持ち込んで初めて存在を知った兵器。あれを見た時は好奇心が抑えきれなくなり、ユージンの愛機をこっそり分解してしまった。あの時は『直せ。もしくは新しいのを造ってよこせ』とユージンに本気で怒られてしまい、二年半かけて造り上げたのが《アトラス》だった。結果的には《アトラス》だけでなく、トワ自身まで彼に貰われてしまうことになるのだが。


 ともあれ、魔装機兵が開発されて、すでに百年以上も経っているらしい。

 魔獣程度ならば武装した冒険者でもどうにかなっていたが、災害獣(ディザイアン)の相手は流石に無理があった。千年前は遭遇したら逃走するしかなかった。しかし、その状況を打開するために生み出されたのが魔装機兵だという話だった。


 黎明期ではあまりに高額すぎて国家や大都市のみが所有していたらしいが、日々の改良とコストダウンによって、今や開拓者のチームなら誰もが所有しているそうだ。


 ユージンの話では昔あった武具屋は、今は魔装機兵の工房に鞍替えしたらしい。それは少し寂しくもある。千年前とは街並みも大きく変わっていたこともだ。この国特有の建築なのかも知れないが、昔はもっと石造りや完全木造の家屋が多かった。


(千年も経てば当然か。私は《奈落》では別の世界ばかりみていたからな)


 椅子に座りながら膝を掴み、トワは小さく嘆息した。

 世界の(ことわり)を見通す真理の瞳と、錬金術によって創り出した境界鏡面の祭壇。

 数多の世界を観測することが出来る祭壇に、自分はずっと籠ってばかりだった。

 憧れるように鏡面に映る異界の光景に見入っていた日々だった。


 祭壇は異界の言葉で言うのなら『動画チャンネル』というモノに似ている。ラスティリアにはない技術だった。良くも悪くもエネルギーを個人の魔素に頼るこの世界では、異界に比べて通信技術が未熟だった。常時運用するだけのエネルギーを用意できないからだ。


(だが、精霊力(エーテル)なら可能か)


 ふと、そう思う。今度、《アトラス》に組み込んでみるのもいいかもしれない。異界の技術を錬金術で模倣して造り出すのが、孤独だったトワの趣味の一つだった。

 特に調理器具や香辛料、調味料などの再現には拘ったものだ。孤独な世界では食事は貴重な楽しみだったからだ。ただ、料理自体は自動人形にやらせていたが。

 ともあれ、今は手持ち無沙汰に夫を待つトワだった。



 一方、トワの愛する夫は――。


「申し訳ございません。カードは有効期限切れでした。更新いたしましょうか?」


「……ああ。頼む」


 ギルドの受付で受付嬢相手にそんなやり取りをしていた。

 受付嬢が特殊なペンでカードをなぞり始める。魔素(マナ)を使ったカード更新道具だ。


(やはり懸念した通りか)


 更新を待ちつつ、ユージンは思う。

 ギルドのカードは依頼対応か、銀行の使用などで常に情報を更新し続けなければならない。一年間、一度も更新しなかった場合、死亡したと見なされて、銀行の資産が凍結されるのだ。それはギルドの運営費に回されるのが利用規約だった。

 ユージンが《奈落》に落ちて三年。流石に引き落としは無理だったようだ。


「終わりました。またのご利用を」


「ああ。ありがとう」


 カードを更新してもらった後、ユージンは待合席に座って待つトワの元に向かった。


「トワ」名を呼んで声をかけると、トワは「ん」と呟き、立ち上がった。


「終わったのか? ユージン」


「終わったよ。だが、やはりダメだった」


「ん。そうか」


 事前に更新ルールを聞いていたトワは、あっさりと納得した。


「まあ、三年も経っていたからな。けど、これからどうするんだ?」


 地図だけなら手持ちで購入も可能だが、食料の補填になると心もとない。

 すると、ユージンは、


「ああ。折角ここまで来たんだ。仕事を受けようと思う」


 そう告げて、依頼ボードに向かった。トワもその後に続く。


「トワ。依頼ボードは知っているのか?」


 ユージンがそう尋ねると、トワは「知っているぞ」とニカっと笑って答えた。


「これでも昔は冒険者をしていた頃もあるんだ。あの頃の職種は『魔法使い』だった。私の自動防御の地属性重力魔法は無敵だったんだぞ」


「……あの重力魔法か」


 トワと初めて出会った日を思い出して、ユージンは苦笑いを浮かべた。


「確かにあれは強烈だった。《アトラス》にも刻印術式(システム)にして組み込んでる奴だな。けど、トワが冒険者だった話は初耳だな」


 と、やり取りしている内に依頼ボードの前に到着した。

 ユージンは幾つかに目を通す。


「商隊の護衛の任務とかもあるが、やはり手頃なのは魔獣討伐だな」


 近くに大きな森があるらしい。そこから街道にまで出てくる魔獣が多いので間引いてくれという依頼だ。魔獣の種類によって依頼書が分かれ、報酬額が大きく違っていた。強盗団や賞金首などの手配書と同じような扱いだ。


(どうせなら一番の大物を見つけて報酬を稼ぎたいところだな)


 ユージンがそう考えていた時だった。


「……? なあ、ユージン」


 トワがユージンの裾を引っ張り、とある依頼書を指差した。


「あの依頼は何なんだ? 私は初めて見るぞ」


「ん? ああ。あれか」ユージンは瞳を細めた。


「魔獣狩りの依頼だな」


「魔獣狩り? 討伐とは違うのか?」


 トワが小首を傾げてそう尋ねると、ユージンは「ああ」と頷き、


「魔獣食のための狩りだ。きっとトワが冒険者だった頃にはない依頼だな」


 ユージンは説明する。


「魔装機兵が普及されるようになってからは、二、三メートル級の魔獣ならそこまで脅威ではなくなったんだ。だから魔獣の死骸を回収できるようにもなった」


 一拍おいて、


「実は魔獣の肉は美味いんだよ。魔素(マナ)の内包量が多いためだと言われている。要は食材として二メートル級以下の魔獣を討伐して、腐らない内に運送する依頼なんだ」


「へえ~」トワは目を瞬かせた。


「魔獣は美味かったのか。私も食べたことはないな。なら、もしかして、昨日ユージンが倒した熊は凄く美味かったのか?」


「あの災害獣(ディザイアン)か? どうだろうな。災害獣の死骸は三日もあれば魔獣たちが喰い尽くすから、きっと美味いとは思うが、二メートル級よりも上になると筋線維が硬すぎて、どんな調理をしても竜人(ドラゴニア)のあごの力でさえ嚙み切れないんだ。そいつらは魔獣食の対象外だな」


 ユージンは依頼書を見据えて呟く。


「魔獣狩りか。こいつを受けてみてもいいが、《アトラス》では少し難しいか。原型を残して二メートル級を仕留める自信は俺にもない」


 二メートル級程度では《アトラス》の一撃を喰らえば木っ端微塵だ。回収する死骸がなくなってしまう。大威力も善し悪しということだった。


「なあ、ユージン」


 その時、トワがユージンの袖を再び引っ張って尋ねる。


「ユージンは開拓者(シーカー)になるのか?」


「そうだな。それも考えてはいるが」ユージンはトワを見つめた。


「今回は手っ取り早いと思って魔獣討伐を受けるつもりだ。別に職業は何でもいいと思っている。トワが一緒で、トワが幸せならなんだっていい」


「……そうか。うん! そうか! なら!」


 そこでトワはニカっと笑い、


「私に考えがあるんだ! ユージンがヒントをくれたんだ! 聞いてくれ!」


 両手を腰に当てて、そう告げるのであった。









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