11、エピローグ
(1)懐かしい人たちとの再会
正月が終わって、今日は大菩薩村のどんど焼き。正月飾りなどを燃やす日であったが、子供たちの中には書き損じた書初めを入れていた人もいた。次々と燃やされていく中、自治会の人たちは団子を2つずつ配って、それを長い棒の先端につけて焼いて食べていた。お団子には砂糖が含まれていて、とても食べやすかった。
「お前たち、団子食ったか?」
団子を食べながら、田代が笛花の所にやってきた。
「もう食べたわよ。はい、残念でした」
「別に『よこせ』とは言ってねえだろ」
「顔にそう書いてあるわよ」
笛花の意地悪な言い方に、田代はムキになっていた。
「あ、図星なんだ。田代ってば、本当にいやしいんだから」
「うるせえ、俺帰る!」
田代は醍醐と山口を連れて、自転車に乗って家に帰ってしまった。
「こうして見ると、今年のお正月も終わりなんだね」
ゆかりは、しんみりとした顔で呟いていた。
「それと同時に新しいスタートの合図でもあるんだよ」
「笛花ちゃん、いいこと言うわね」
横で聞いていた星音さんが口をはさんできた。
「私も、この炎を見たら今年一年頑張ろうって思うの」
「そうなんですか?」
ゆかりだけは、今一つ納得していない顔をしていた。太陽が傾きかけて、どんど焼きは終盤を迎えようとしていたので、星音さんは私を連れて駐在所に戻ることにした。
「それでは、お先に失礼します」
星音さんは警笛を軽く一回鳴らして、車をゆっくり走らせて行った。
私が夕食の準備を始めようとした直後だった。星音さんのスマホの着信音がうるさく鳴っていたので、私が代わりに出たら、空夢からだった。
「もしもし?」
「あれ、この声って雫?」
「もしかして、空夢?」
「そうだよ。久しぶり」
「なんで、星音さんの電話に出ているの?」
「星音さん、今お風呂に入っているんだよ」
「そうなんだ。雫はどうしているの?」
「私は軽食屋さんでアルバイト。空夢は?」
「聞いて驚いてほしいんだけど、今、新しいサーカス団に入っているの」
「じゃあ、また空中ブランコをやっているの?」
「まあね。今、奥多摩を離れて小さなマンションで一人暮らしをやっているの」
「すごいじゃん」
「家はどこ?」
「国立かな。それとね私、車を買ったんだよ」
「マジ!?」
「と、言っても軽自動車なんだけどね」
「よかったら、今度見せて」
「いいよ。でも、あんまり期待しないでね」
「うん! あ、そろそろ切るね」
「わかった。星音さんによろしく伝えといて」
「わかった」
電話を切ったあと、私が台所へ行こうとしたら、星音さんが風呂から出てきたので、空夢から電話が来たことを話した。
「空夢ちゃん、元気だった?」
「うん、元気そうだったよ。あと、国立で一人暮らしを始めたり、車を持ったみたいだよ」
「そうなんだね」
翌日、星音さんは自転車に乗って巡回をしている時だった。
「星音ちゃんだよね?」
聞き覚えのある声に思わず反応して振り向いたら、保育園の時にお世話になった長岡ますみ先生がいた。
「先生、お久しぶりです」
「星音ちゃん、警察になったの?」
「はい。と言っても村の駐在ですけどね」
「かっこいいよ」
「ありがとうございます。先生は、今日どういったご用件で?」
「実は、ここ旦那の生まれ故郷なの。それで、ここで保育園を作ってみようかなと思っているの」
「いいと思います。頑張ってください」
「ありがとう」
「引っ越しはいつ頃されるのですか?」
「まだ、わからないけど、おそらく今月末になると思う」
「その時は言ってください。応援に駆け付けますから」
「ありがとう」
星音さんの力強い言葉に、ますみさんは短く返事をした。
「ところで、今日は旦那さんと一緒ではないのですか?」
「旦那は今日お仕事」
「そうなんですね。どんなお仕事をされているのですか?」
「旦那も保育士なの。今の保育園が今月末で廃園が決まった時、私がここで保育園を作ると決めたと言ったら賛成してくれたの。ここ、周囲が山だし、大自然に囲まれているから、子供たちものびのびと成長するかなと思ったの」
「素晴らしいアイディアだと思いますよ。野山を駆け回ったり、昆虫を捕まえたりして過ごしたほうが、子供たちのためになります。それに近くには川が流れていますので、夏には水遊びもできます」
「そうですよね。ところで、星音ちゃんは虫大丈夫?」
「虫はちょっと……」
ますみさんの意地悪な質問に星音さんは返事に詰まってしまった。
「フフフ、冗談よ」
「先生、人が悪いですよ」
「ごめん、ごめん」
「じゃあ、私は巡回がありますので」
「頑張ってね」
ますみさんと別れた星音さんは、巡回を続けることした。
その日の夕方、業務日報を書き終えた星音さんは、家に戻るとスマホの着信音がうるさく鳴っていた。
「もしもし?」
「久しぶり! 元気だった?」
電話の相手は空夢だった。
「空夢? どうしたの?」
「星音、聞いて驚いてほしいんだけど、団長の居場所がわかったの」
「マジ!?」
「うん」
「どこなの?」
「府中市内のアパートで、白糸台駅からすぐ近くみたいなの」
「わかった。明後日非番をとるから」
「どこで待ち合わせる?」
「じゃあ、立川駅まで来られる? 私、そこまで車で行くから」
「わかった」
団長の居場所がわかったとたん、少しだけテンションが上がった。
「雫ちゃん、団長の居場所がわかったわよ」
「本当に!?」
ソファで寝転がっていた私は急に立ち上がって、星音さんに飛びついた。
「雫ちゃん、距離が近いよ」
「あ、ごめん。それで、どこにいるの?」
「府中だって」
「府中と言ったら昔、公演に行った場所じゃない?」
「そうだよね。でも、その場所から少し離れているみたい」
「そうなんだね」
私は団長に会ったら何を話すか考えていた。ずっと雲隠れしていた団長の居場所がわかったのだから。
迎えた明後日の朝。星音さんは非番にして、私もひかるさんに休みの許可をもらって、星音さんの車に乗って空夢と待ち合わせている立川駅まで向かった。移動中は音楽を聞くこともなく、会話も満足にしていなかった。
立川駅に着いて、私は車を降りてJRの改札口に向かって空夢を迎えに行った。合流したあと車に乗って府中まで向かった。本当なら懐かしくて会話が弾むはずが、なぜか言葉が出なくて無口のままだった。
「空夢、元気だった?」
やっと出た言葉が、私の短い一言だった。
「うん、元気だったよ。雫は?」
「私も」
ぎこちない会話をしているうちに、車は西武多摩川線の白糸台の駅前に着いた。
「空夢、団長の家わかる?」
「ちょっと待って」
空夢はショルダーバッグからメモ用紙を取り出して、住所を確かめた。
「この先の児童公園の裏側。どちらかと言えば、京王線の駅から近いかもしれないわ」
「じゃあ、行こうか」
再び車に乗って、児童公園の近くに止めて、降りて歩くことにした。少し歩くと、古い二階建てのアパートが見えて、そこの一階に団長が住んでいた。表札には”星”と書かれていたので、みんなでドアチャイムを鳴らして、ドアノブを回そうとした瞬間だった。
「鍵がかかっているよ」
星音さんはドアをカチャカチャと回してみた。
「本当だね」
「君たち、何をしているんだ?」
後ろから、レジ袋を持った変わり果てた団長の姿が立っていた。
「あの、あなたは?」
「ここの家の人間だよ」
「もしかして、団長!?」
私は思わず大きな声を出してしまった。
「すると、君たちは?」
「団長にお世話になった人たちです」
「ここじゃあ、なんですから、中に入ってくれないか」
団長は私たちを部屋の中へ通して、食卓の椅子に座らせた。
「今、お茶を用意するから待ってくれないか?」
団長はヤカンでお湯を沸かして、お茶を入れてきた。
「団長は何のお仕事をされているのですか?」
私は思い切って、聞き出してみた。
「俺は今、土方だよ」
「土方?」
「道路工事のお仕事。親方に毎日怒鳴られながらのお仕事だよ」
「本当にサーカスを辞めたのですね」
「あの時、破産手続きをした時、俺のサーカス人生は終わったんだよ」
団長がため息交じりで呟いた時だった。
「夢を簡単に諦めないでください。私、今よそのサーカス団にいるのです。団長を入れてもらえないか、頼んでみます」
空夢が口をはさんだ時、団長は「余計なことは、しないでくれないか。言っただろ、俺はもうサーカスから手を引いたんだ」と、少し荒い口調で返事をした。
「ごめんなさい……」
「こっちこそ、すまない……」
「気が向いたら、私に電話をしてください。私の電話番号を置いておきます」
「せっかく来てくれたのに申し訳ないが、このお茶を飲んだら帰ってくれないか」
「それと気になりましたが、知り合いと同居されていた川崎の住まいは、どうされたのですか?」
私も思い切って聞き出した。
「家賃滞納で立ち退きにされたよ。すまないが、今度こそ帰ってくれ」
私たちはお茶を飲み干したあと、団長に強く言われ、そのまま玄関を出てしまった。
空夢を国立のマンションの前で降ろして、私と星音さんはそのまま山梨まで帰っている時だった。
「団長、すごく変わっていたね」
ハンドルを握っていた星音さんの最初の一言だった。
「そうだね。痩せていたし、ひげも伸ばしていたし……」
「それに、サーカスの仕事から離れて道路工事の仕事をやっていると言っていたし……」
「私たちが一座にいたとき、団長が借金を抱えていたけど、何に使ったと思う? 単なる赤字だけで、こんなに借金するわけないじゃん、おまけに破産手続きもしていたみたいだし……」
「私も気になった。団長が持っていた請求書を見たら〇千万って書いてあったわよ」
「そんなに!?」
「でも、団長誰にも話さなかったわよ」
「何に使ったのか、気になる」
2人で団長の話題を持ちかけていた時、星音さんは何かを思いだしたかのように、今度は空夢の話題を持ちかけてきた。
「空夢ちゃん、団長に自分の電話番号の書いた紙を置いてきたけど、大丈夫だったのかな」
「多分大丈夫じゃない?」
「なら、いいけど」
「空夢ちゃん、もしかしたら団長がサーカスに未練があると思って、それで自分の電話番号を残したかも」
「可能性は高い。しかし、自分には団長という肩書があるから、下っ端から始めることに抵抗があるんじゃない? だから、空夢ちゃんの誘いを断ったんじゃない? わからないけど」
憶測で話した星音さんに私は「それだったら、団長を誘わなかったんじゃない?」と反論してしまった。
それに対して「確かに……」と短く相づちを打っていた。
奥多摩駅前を過ぎたころは、すでに日没前だったので、星音さんは少しだけ速度をあげて山梨へと向かった。
(2)去っていく人たち
団長と会ってから何週間か経って、テレビではバレンタインの話題でいっぱいだった。街頭インタビューで「誰に渡すのか」と聞けば、「友達」とか「家族」へと恥ずかしそうに答えていた。特に渡す相手がいない私は星音さんだけ渡せばいいと思って、村のはずれにある洋菓子店で、チョコレートを買って軽食屋さんに行くことへした。
店に着くとバスが止まっていたので、「また田川さんか」と思わず呟いてしまった。中へ入ってみると、田川さんと同じ制服を着た若い運転手もいた。
「あれ、田川さん来ていたのですね。横に座っている人は新人ですか?」
「そうだよ。おい、挨拶をしろ」
「杉村春樹です。よろしくお願いします」
「杉村って、もしかして、義則さんの……」
「そう、息子に当たるんだ」
杉村春樹さんは、緊張しているせいか無口のままでいた。
「おい、何かしゃべれよ」
「……」
「だめだ、こいつ完全に緊張している。杉村、ここのおすすめを教えてやるよ。オムライスだ。しかも、お絵かきケチャップもサービスしてくれるんだ。メイドさんも可愛いし、まさに天国だよ」
「ひろゆきちゃん、オムライスじゃなくてトンカツ定食の間違いでは?」
ひかるさんのツッコミに何も言えなくなってしまった。
「ねえ、今日から、あなたのことを『はるきちゃん』って呼んでもいい?」
「はい……では、トンカツ定食で」
春樹さんは、緊張しながらトンカツ定食を注文した。トンカツ定食が2人分運ばれたとき、ひかるさんは「ひろゆきちゃん、今日新人を連れてきたってことは、他に要件があるんでしょ?」と切り出してきた。
「うん……」
田川さんの返事のトーンが急に下がってしまった。「実は俺、今月の末に移動が決まったんだよ」と言ってきた。その言葉に店の中は大きなどよめきが、おきてしまった。
「ねえ、ひろゆきちゃん、今度はどこへ行くの?」
「勝沼だよ」
「ちょっと遠いわね」
ひかるさんの表情は急に険しくなった。
「近くまで来たら、俺を訪ねて来いよ」
「いやだね」
「なんでだよ!」
ひかるさんの意地悪な返事に、田川さんはムキになって言い返した。
「私が興味があるのは、ブドウ狩りとワインだけだから」
「俺、ブドウとワインに負けてしまった」
「ま、気にするなよ」
「気にするよ。っていうのは冗談で、そこに俺の実家があるんだよ。本当のことを言うと、おやじが胃ガンになってしまったから、俺と兄貴で実家の仕事を手伝おうと思っているんだよ」
「そうなんだね。実家は何をしているの?」
「ブドウ農家だよ。移動が決まった時、所長に無理を言って、実家の近くに移動を頼んだんだよ。今まで黙っていて本当に悪かった」
「本当に悪いわよ。近くへ行ったら、ワインをごちそうになるからね」
「任せろ。とっておきのワインを用意してやるからな」
田川さんが自信満々で言ってきたので、ひかるさんは何も言い返せなくなった。
「ところで、田川さんのお兄さんって、何をやっているの?」
今度は、ゆかりが質問してきた。
「知りたいか?」
「うん」
「俺の兄貴、詐欺師なんだよ。先週も『年よりから500万円だまし取った』って言っていたかな」
「マジ!?」
「うん。その前なんか『200万円だまし取った』って言っていたよ。ま、ぜんぶ嘘だけど。本当の職業はタクシードライバー。昨日も兄貴と電話をした時、『最近の客はワンメーターばかり』とぼやいていたよ」
「景気が悪いから仕方がないよね」
「あと、ブドウ狩りもやっているから、みんなで遊びに来いよ」
「そうするよ。ねえ、シャインマスカットってある?」
「どうかなあ。巨峰ならやっていたはず……」
「落ち着いたころに、遊びに行くから」
「待っているよ。その時には、バスを回送にして迎えに行ってやるよ」
「始末書書かされないように気を付けてよ」
ゆかりのイヤミな言い方に「俺もそこまでバカじゃないから、ちゃんと気を付けるよ」と苦笑いをしながら返事をした。時計を見るなり、田川さんは杉村春樹さんを連れて店を出ようとした時だった。
「もう、出るの?」
ひかるさんが、表情を曇らせて言ってきた。
「ああ。引継ぎがたくさんあるからな」
「この店で食事を取らせることも、業務の引継ぎに入っていたんだ」
「あ、これは違うよ。これは、ついでだから……」
「私の店はついでなんだ……」
「あ、違う……。なんていうか……」
「冗談よ」
ひかるさんの意地悪な返事に田川さんは激しく動揺してしまった。
「ひかるさん、冗談きついよ」
「ごめん」
田川さんが店を出て数分経った時、私たちは田川さんの送別会を企画していた。
「どうせなら、臼井さんたちを呼んで盛大にやろうか」
私が提案したら、みんなも同意してくれていた。
そのころ、巡回から戻ってきた星音さんが駐在所で書類の整理をしていたら、姫夏ちゃんがお母さんと一緒にやってきた。
「こんにちは、どうしたの?」
「駐在さん、ピエロさんに会いたい……」
しかし、私が店にいる以上、その願いをかなうことは不可能だった。
「ごめんね。ピエロさん、今いないの」
「いやだ! 今すぐ会いたい!」
いつになく、聞き分けが悪かった。
「姫夏、無理を言わないの」
お母さんに言われた直後、姫夏ちゃんは泣き出してしまった。
「よかったら、事情を聞かせてもらっていいですか?」
星音さんが控えめな感じで言ったら、駐在所の中で姫夏ちゃんのお母さんの話が始まった。
「実は、今月末に主人と一緒にニューヨークへ行くことになったんだけど、それを聞いて、『ピエロさんと一緒に行く』とわがままを言い出したの。私が『ピエロさんが迷惑するからダメ』と強く反対したら、『最後にさよならを言いたい』と言い出す始末で……」
「例えばなんですが、姫夏ちゃんだけを、日本に残すことはできないのですか?」
「だって、この子まだ7歳だし、一人になったら何もできないと思うの」
「あとは、お父さんかお母さんの実家に住まわせることはできないのですか?」
「私の実家は山形で、主人の実家は秋田だから、簡単に行くことは難しいのです。2人で話し合った結果、3人でニューヨークへ行くことへ決まったのです。新居からすぐ近くに日本人学校があるので、そこへ通わせようと思います」
「ねえ、姫夏ちゃんはどうしたい?」
「ピエロさんと一緒に飛行機に乗って、アメリカに行きたい……」
「ごめんね。ピエロさんは、みんなのものだから、姫夏ちゃんが独り占めすることができないの。その代わり、姫夏ちゃんが、またここへ戻ってきたときにはちゃんと会わせてあげる」
その時だった。再び姫夏ちゃんが泣き出した。
「姫夏ちゃん、泣いているとピエロさんに会えないよ。思い出してみてよ。ピエロさん、姫夏ちゃんが会いたいと言ったら『ヤダ!』って言ったことがあった?」
「ない……」
「ピエロさん、姫夏ちゃんからもらったお手紙、今でも宝物のように大切にしまっているんだよ」
「また、手紙を出すから、そしたら会わせてくれる?」
「もちろん! 姫夏ちゃんが会いたがっていたら、ちゃんと会わせてもらえるように頼んであげるよ」
「じゃあ私、お父さんとお母さんと一緒にアメリカへ行く!」
「それを聞いたら、きっとピエロさんも安心すると思うよ」
星音さんは姫夏ちゃんの頭を軽くなでた。
「じゃあ、私たちはこの辺で……」
姫夏ちゃん親子を見送ったあと、星音さんは自転車に乗って軽食屋さんまで向かった。
「こんにちは」
「駐在さん、こんにちは。こんな時間に珍しいわね」
「実は、ここでお別れ会を開かせていただきたいと思っているのです」
「やるわよ。ひろゆきちゃんのでしょ?」
「え、田川さんもですか?」
ひかるさんの言葉に、思わず面食らってしまった。
「駐在さんは誰のお別れ会を持ちかけたの?」
「実は、姫夏ちゃんのお別れ会を……」
「えー!? 姫夏ちゃんも!?」
今度はひかるさんが、大きなリアクションをしてきた。
「姫夏ちゃん、ご両親と一緒にニューヨークへ行くみたいなの」
「それ、本当なの!?」
「お父さんのお仕事の都合で、行くみたいで……」
「そうなんだね……」
ひかるさんは肩の力を抜いて、椅子に座り込んでしまった。
「あと、雫ちゃんどこにいる?」
「星音さん、どうしたの?」
「話はぜんぶ聞いたわよね?」
「はい……」
「なら、私が何が言いたいか、わかっているでしょ?」
「ピエロになって、一肌脱げばいいのですね」
「また、お願い」
星音さんは少し申し訳なさそうな顔をして、私にお願いをしてきた。
「お店を臨時休業にして、みんなで飾りつけをしようか」
ひかるさんの一言で、折り紙、はさみ、色ペン各種、模造紙などがテーブルに広げられた。模造紙は場所を広く使うので、笛花の部屋を使うことになった。
「ねえ、なんて書く?」
シャープペンを持った、笛花が私に聞いてきた。
「普通に『ひろゆきちゃん、姫夏ちゃん、お元気で!』でいいんじゃない?」
「なんか平凡」
「他に何かある?」
「思いつかない……」
「じゃあ、最初ので、いいんじゃない?」
結局私が最初に考えた言葉が採用となった。さらに美術の成績が学年10位以内のゆかりにイラストのお願いをした。
「よし、これで完成!」
笛花が店の真ん中に模造紙を貼り付けた後、カウンターで1人黙々と作業をしている星音さんの手伝いを、みんなでやり始めた。
「そういえば、お別れ会っていつやるの?」
はさみを持ちながら、ゆかりがみんなに聞いてきた。
「今夜にしようか」
笛花の一言で、みんなは「えー!」と大きな声で反応してしまった。
「それは構わないけど、ひろゆきちゃんと姫夏ちゃんの都合も確認しないと。それに料理もどれくらい必要かだよね」
飾りつけの準備が完了する直前に、本来最初に確認するべきことを、ひかるさんが持ちかけてきた。言っている内容はもっともだった。確認もせずに準備をしたみんなも悪いが、ひかるさんも、空気を読まずに話を持ちかけたのも悪かった。
ひかるさんはスマホを取り出して、田川さんと姫夏ちゃんの家に予定を確認したら、明日の昼なら都合がいいと言われたので、その日に決めた。さらに自治会長の臼井さんや清江さん、杉村さんにも電話で確認をしたら、やはり明日の昼なら都合がいいと言われた。結局、明日の昼まで飾りつけをした状態で店を営業することになった。まさに自業自得だった。
そして迎えた当日。みんなが集まったところで、ひかるさんが車で田川さんと姫夏ちゃん親子を迎えに行って、入口で降ろしたあと「私が『いいよ』って言うまで入らないでね」と言った。
「主役が来たから、準備お願い」とひかるさんが中にいる人たちに合図をした。中に入った直後、みんなでクラッカーを鳴らして出迎えた。
「では、主役が来たので、今から田川さんと姫夏ちゃん親子のお別れ会を開きたいと思います」
ひかるさんの一言で乾杯が行なわれた。みんなが飲んで食べて騒いでいるとき、姫夏ちゃんは、あたりをキョロキョロとしていたので、星音さんは「どうしたの?」と声をかけた。
「今日ピエロさん、来ないの?」
姫夏ちゃんが不安そうに言ってきたので、「大丈夫だよ。もうじき来るかもしれないから」と返事をした。
「全然来ない……」
「じゃあ、私が呼んでくるね」
その直後、星音さんは私を裏に連れて、「今すぐ着替えてお店の前にいてちょうだい」と言ってきた。
状況をつかめてないまま、私はピエロの姿になって、店の入口に立っていた。
「姫夏ちゃん、外においで」
星音さんに言われ、姫夏ちゃんは私を見た瞬間、「うわあ、ピエロさんだ!」
と大きな声を出してしまった。
「姫夏ちゃん、アメリカに行っちゃうんだって? 私、ちょっとさみしくなっちゃうな」
「私も。出来たら、ピエロさんと一緒にここに残りたい」
姫夏ちゃんは今にも泣きそうな声で私に言ってきた。
「姫夏ちゃんは、ここにいないで、お父さんとお母さんと一緒にアメリカに行くんだよ」
「そしたら、ピエロさんに会えない……」
「そうだよね。私も姫夏ちゃんに会えなくなるから、さみしいよ。でもね、姫夏ちゃんはアメリカで新しいお友達をたくさん作って仲良くなって。それが、私からのお願いだよ」
「うん……」
「約束だよ」
「うん……」
その時だった。姫夏ちゃんのお母さんがやってきて、「最後に記念写真を撮るわよ」と言ってきた。
「私、ピエロさんの隣がいい」
「はいはい」
私と姫夏ちゃんは前列の真ん中で写った。
「出来上がった写真は出発の前日までに用意しておきます」
ひかるさんは、田川さんと姫夏ちゃん親子に言った。
「ねえ、私とピエロさんと駐在さんの3人だけで撮って」
さらに姫夏ちゃんはお母さんに、持っているスマホで撮ってもらうようにお願いをした。
「ええ、いいわよ」
今度は私と星音さん、姫夏ちゃんの3人で何枚か撮ってもらった。
「ありがとうございます」
写真を撮り終えたあと、姫夏ちゃんのお母さんは私と星音さんに頭を下げて、お礼を言った。
「そろそろ、家に帰ろうか」
お母さんが帰宅を促すと、姫夏ちゃんは「えー!」とわがままを言い始めた。
「今日ここへ来たのは、みんなを困らせるためじゃないでしょ?」
「うん………」
姫夏ちゃんは、ひかるさんが運転する車にお母さんと一緒に渋々乗って、みんなと別れることになった。
「姫夏ちゃん、元気でね」
みんなに見送られたあと、姫夏ちゃんは泣きそうな顔になっていた。
姫夏ちゃん親子がいなくなったあと、今度は田川さんも「俺も帰る」と言い出した。
「ひろゆきちゃん、もう帰るの?」
「引っ越しの準備があるからな」
笛花に言われ、田川さんは、杉村さんが運転する車に乗って帰ってしまった。
私も着替えて星音さんと一緒に帰ることになった。
姫夏ちゃん親子と田川さんのお別れの日がやってきた。軽食屋さんの前ではみんなが集まって、名残を惜しんでいる時だった。
「ねえ、なんで今日ピエロさん来なかったの?」
姫夏ちゃんが不機嫌そうな顔でみんなに言ってきた。
「ごめんね。本当はピエロさんも来るはずだったけど、ピエロさん、今日サーカスの練習があって来られなくなったの。その代わり、ピエロさんが姫夏ちゃんにお手紙を書いてきたから、あとで読んでね」
「うん!」
星音さんから受け取った手紙で、姫夏ちゃんは少し元気になった。
「じゃあ、行こうか」
「一番近い空港ってどこになるの?」
ひかるさんの質問に姫夏ちゃんのお母さんは、「成田かな」と答えた。
「奥多摩から新宿に出て、そこから成田エクスプレスで空港まで行けるよ」
ひかるさんが言った直後、お父さんが「そろそろ行くぞ」と促して来たので、姫夏ちゃんとお母さんはタクシーに乗って、奥多摩駅まで向かった直後、今度は田川さんの見送りが始まった。
「ひろゆきちゃん、お元気で」
泣きそうな顔をしたひかるさんが、しんみりと言うと、田川さんは何も言わずに黙って首を縦に振った。
「元気出せよ。またここに戻ってくるから」
「絶対だよ」
「約束は絶対に守る。あと、春樹のことを頼んだよ」
「わかったわ」
「じゃあ、俺も行くよ」
田川さんが運転する車を見送ったあと、村は一気に静かになった。
姫夏ちゃん親子と田川さんがいなくなってから三週間たったある日の出来事だった。軽食屋さんに一本の電話がかかってきた。
「もしもし、軽食・大菩薩です」
「この声って、ひかる?」
電話の声の主は、ひかるさんのお母さんからだった。
「お母さん、どうしたの?」
「……」
「お母さん?」
「これから言うことに驚かないでほしいんだけど、お父さん、今朝死んじゃったの。これからのこともあるから、一度戻ってきてほしいの」
「ちょっと、あまりにも急すぎて、話がついていけない」
「じゃあ、お願い」
電話を乱暴に切られたあと、ひかるさんは笛花に実家から電話が来た内容をぜんぶ話した。
「おじいちゃん、死んじゃったの?」
「それで、これから町田の家を何回か往復することになるから、しばらくは1人になるけど、ご飯に関しては清江さんに頼んであるから」
「わかった」
ひかるさんは、急に慌ただしく動いて、いなくなってしまった。
あれから数日が経って、おじいさんの葬式が終わり、ひかるさんは実家の家族や親戚たちと話し合った結果、店を手放して、おばあさんと一緒に町田で暮らすことを決めた。
笛花に関しては三学期中に転校の手続きを済ませて、4月から町田市内の中学へかようことになった。
「お母さん。勝手に話を進めないでよ!」
笛花の怒りは頂点に達していた。
「仕方ないでしょ。おばあちゃん1人にできないんだから」
「長津田におばさんがいるじゃない!」
「普段、会社でお仕事をしてるんだから無理でしょ。あなたこそ勝手なことを言わずに、少し大人になりなさい」
ああ言えばこう言う。このやり取りが続いて、話は平行線で終わってしまった。
「とにかく、3年生から町田の中学へ通いなさい」
「私、納得できない」
「納得してもらわないと困るわ。笛花も今年は受験生なんだから、少しは自覚を持ちなさい。それと、4月から塾へかよってもらうから、そのつもりでいてちょうだい」
「お母さんって、いつも勝手じゃない!」
「じゃあ、どうしたらいいの? あなただけ、ここに残る?」
「ここで、お店をやる」
「無理に決まっているじゃん。料理できるの? レジ打ちは? お店が終わったあとの売上の計算出来るの?」
「……」
「ほら、ごらんなさい。それに学校の勉強もあるんだよ」
「百歩譲って、私が母さんの意見に従うことにしてもいいけど、ゆかりちゃんと雫ちゃんはどうするの? クビにするの?」
「仕方ないでしょ? そうするしかないんだから。とにかく2人には、あなたから、ちゃんと伝えなさい」
翌日、店に来た私とゆかりに、笛花は閉店の話を持ちかけた。特に驚いた表情もなく、素直に受け入れてくれた。ただ、転校の話を持ちかけた時には、ゆかりは驚いていた。
「このことは、まだ秘密にしておいてくれる?」
「いいわよ。笛花がいなくなるのは、正直さみしいけど、新しい学校でも頑張ってよ」
「うん……」
「それに高校でまた会えるかもしれないし、ちょっとだけのお別れなんだから」
「そうだよね……」
「町田って、東京なんでしょ? だったら、その気になれば会いに行けるじゃん」
「じゃあ、会いに来てくれる?」
「お金があればね」
ゆかりは、苦笑いをしながら返事をしていた。
「私は4月からまた仕事探しかな」
「雫ちゃんは、サーカスをやっていたんでしょ? だったら、そっち方面で探してみたら?」
ゆかりの提案に私は「うん……」と短く返事をした。
「やっぱり、気乗りしない?」
「そんなことないけど、なんていうか、サーカスってなかなか募集してないんだよね」
「ほかの人たちは、どうしているの?」
「星音さんは、駐在所で警察をやっているし、団長は道路工事の仕事。あと、運のいい人は他の一座に入ってサーカスをやっている感じかな。私はもう少しだけ、ここの村にいようかなって思っている……」
「水を差すようで申し訳ないけど、この村って仕事少ないよ」
「わかっている……。村役場か清江さんのお仕事を手伝おうかなって思っている……」
「そうなんだ。頑張ってね」
ゆかりは、これ以上何も言わなかった。
その数日後、お店の閉店パーティを開き、笛花も観念して町田の中学校へ転校することになった。
「この店がなくなると、なんだかさみしくなるなあ」とか「笛花ちゃん、新しい学校でも頑張れよ」という声が出ていた。
終業式のホームルームでも、みんなから「元気でね」とか「さみしくなったら、会いに来てね」という声が出てきた。
ホームルームが終わって、拍手でみんなに見送られて、笛花は家に戻っていった。
そして、迎えた出発の日、引っ越し業者のトラックが去ったあと、店や家の中は見事にもぬけの殻となってしまった。
「このお店を見るのも今日が最後なんだね」
「うん……」
「このお店にはたくさんの思い出があったから、なんか寂しい」
笛花は涙をこぼしながら、ひかるさんに言った。
「もう、中学生なんだから、小さい子供のように泣かない」
ひかるさんからハンカチを渡され、涙を拭いて外に出た時だった。多くの村の人たちが集まっている中、田代がリボンでラッピングされたプレゼントを笛花に差し出した。
「これ、俺と醍醐と山口でお金を出し合って買ったんだ。よかったら、受け取ってくれないか」
「ありがとう。大切にするね」
笛花に言われ、田代の顔は少し赤くなっていた。
「そろそろ、出発するわよ」
ひかるさんに言われ、笛花はひかるさんが運転する車の助手席に座って、窓を開けて手を振った。走り出した直後、みんなはしばらく手を振りながら追いかけていた。
(3)その後の私たち
4月に入って、みんなはそれぞれ新しい生活をスタートすることになった。軽食屋さんを辞めた私は村長さんにお願いをして、村役場の観光課で働くことになった。慣れないことだらけで、みんなに迷惑をかけ放題。
その日も、作成した書類に先輩が赤ペンで修正箇所を入れてきた。
「峠時さん、かなりミスが目立っているわよ」
「すみません」
入力し直している時、今度は苦情の電話が入ってきて、お客さんの雷を受けながらの作業となった。その日もみんなは5時に退社となったのだが、私だけが残業。
事務作業がこんなに億劫だとは想定外もいいところだった。すべての作業が終わった時には夜7時近くになっていた。当然、バスも走ってないので、駐在所まで歩いて帰ろうとした時だった。役場の正面玄関に一台のコンパクトSUVが止まっていたので、中を覗いてみたら、星音さんが運転席に座っていた。ドアロックを解除する音が聞こえたので、私が乗った直後、「お疲れ様」と優しく言ってくれた。
「お迎え、ありがとう」
「遅くまで本当にご苦労様」
「星音さんは、もう終わったの?」
「何が?」
「自分のお仕事」
「もうとっくだよ」
「私も警察のお仕事がよかった」
「あんた、警察の仕事をナメているでしょ」
星音さんは少々イラだった感じで言ってきた。
「そんなことないわよ」
「言っておくけど、警察の仕事、村役場の3倍はきついよ。これはジョークでもなんでもないからね。犯人を逃がしただけで、上司や先輩から雷を受けて、誤認逮捕すれば始末書を書かされるし、場合によっては謝罪会見もやるんだよ。その覚悟できているの?」
ハンドルを握りながら、星音さんは私に厳しい言葉をたくさん並べてきた。それを聞かされた私は何も言い返せなくなった。
「悪いことを言わないから、大変でも村役場の仕事を続けなさい。絶対そのほうがいいよ。雫ちゃん、村長さんにお願いをしたんでしょ?」
「うん……」
「だったら、ちゃんと続けなさい」
家(駐在所)に着いて、私はスーツを脱いで部屋着姿になって、夕食の準備をしようとした時だった。星音さんがエプロン姿で台所に入って夕食の準備をしていた。
「星音さん、私も手伝います」
「ん? いいよ。雫ちゃん、疲れているんでしょ? テレビでも見て休んでいてよ」
「おかずなら、私が作ります」
「雫ちゃん、もしかして私を信用していない?」
「そんなことないわよ」
「だったら、休んでいて」
星音さんに言われて、居間でテレビを見てくつろいでいた。特に見たい番組もなかったので、ニュースと天気予報を見ることした。特殊詐欺、放火などのニュースを見ていたら、物騒な世の中だなと感じてしまった。最後に天気予報を見ていたら、「明日も晴れる」と言っていた。
それと同時に星音さんが食卓に、おいしそうな匂いをかがせながら、肉料理に野菜サラダ など、豪快な料理を並べていた。
「食べようか」
「うん」
食べた瞬間、かなり美味しかった。
「美味しい!」
「でしょ」
肉料理はトマトソースたっぷりだったので、口に入れた瞬間、トマトの甘味が広がって、美味しかった。
食べ終わったあと、2人で片付けをして、そのまま寝てしまった。
翌日、その日は朝から私が所属している観光課で会議が行なわれていた。
「わが村にも、何かイベントを開きたいと思います」
課長の一言にみんなは「どんなイベントですか」とか「予算はどれくらいですか?」と言った質問が飛び交っていた。課長はみんなの質問に順番に答えていった。
「あの、私からもいいですか?」
私が意見を出そうとした瞬間、みんなが注目してきた。
「峠時さん、何かあるのですか?」
「実は以前、広場でピエロのショーをやったので、今回もやってみたいと思います」
「衣装とか、どうするのかね」
「それでしたら、私サーカスでピエロの経験がありましたので、その時の衣装を使いたいと思います」
「なるほど、衣装に関しては君に任せたけど、問題はステージは君だけか、他に呼ぶべきかだよね」
「それでしたら、同居している駐在さんもサーカスをやっていたので、一緒にやりたいと思います」
「わかった。あとは屋台とかどうしようか」
「屋台は今回なしでもいいのでは? ゴミも出るし……」
「そうですよね」
話は着々と進んでいき、私と星音さんのピエロのステージの準備が始まろうとした。
裏方としては、ステージの設置、飾りつけ、司会進行、BGMと分けられた。
音響に詳しい人はBGM、手先の器用な人は飾りつけ、力のある人はステージの設置、おしゃべりの上手な人は司会進行役に選ばれて、準備にかかっていった。
その一方、私と星音さんは空いている時間を利用して、屋根裏部屋や駐在所の前で練習に励んでいた。2人でステージに出るのは久しぶりだったので、正直なところ少し緊張していた。
その日も私と星音さんはジャージ姿で駐在所の前でジャグリングの練習していた。
「練習結構きついね」
私の最初の一言だった。
「それでも、トレーナーの花岡さんのメニューに比べたら、まだマシなほうだよ」
星音さんも息を切らせながら言ってきた。
「確かにそうだけど……」
「花岡さん、かなり鬼だったじゃん」
「あれは確かに鬼メニューだったよね」
いつの間にか、思い出話になっていた。
「今日の練習はここまでにする?」
星音さんは時計を見ながら私に言ってきたので、私は「うん」と短く返事をして、終わりにした。
そして迎えたステージ本番。にぎやかBGMが流れる中、ステージが始まった。司会進行役が派手な衣装を着て「さあ、お待たせしました。ピエロのエビルとジョーカーによるステージが始まります! ステージが始まる前にあたって、皆さんにお願いがございます。ステージの最中は携帯電話、スマートホンの電源は切っていただくか、音が出ないよう、サイレントモードに設定の上、通話はご遠慮ください。スマートホンやデジタルカメラによる撮影も禁止とさせていただきます。撮影をご希望される方は、ステージが終わったあとにグリーティングのお時間がございますので、その時にお願いします。会場内は飲食、喫煙も禁止とさせていただきます。それでは、最後までステージをお楽しみください」
司会者の注意事項が終わったら、私と星音さんのステージが始まった。ジャグリングから始まって、玉乗りや手品などを披露していった。
ステージが終わると、みんなから拍手をもらって、グリーティングが始まった。キャラクターショーと異なるのは年齢制限がないので、小さいお子供から大人まで誰もが自由に楽しむことが出来た。
「ステージ楽しかったよ。ありがとう」
聞き覚えのある声がしたので、顔を見たら清江さんだった。私は思わず声を出したかったけど、そこは我慢して握手をして終わりにしようとした時だった。清江さんはデジカメを用意して、スタッフに預けて、清江さんを真ん中にして3人でカメラに写った。
清江さんがいなくなったあと、臼井さんや杉村さん親子もやってきた。今日のステージは知り合いが多くやってきたと感じた。
すべてが終わって、役場で打ち上げを簡単に済ませて、私と星音さんは車に乗って帰ることにした。
帰りの車の中、星音さんは明日非番にして両親の墓参りに行くことを持ちかけた。
「明日日曜日だし、ドライブをかねて一緒にお墓参りに付き合ってくれない?」
「うん」
そして、迎えた日曜日。星音さんはカーナビを目的地にセットしたり、ETCカードをセットして出発の準備をしていた。
「準備できた?」
カジュアルスタイルの星音さんは、玄関から出てきた青いワンピースを着た私の姿に「ちょっとピクニックに行くんじゃないんだから」とツッコミを入れてきた。
「だって、久々の遠出だから」
「確かにそうだけど……。私の両親のお墓って、相模原市内の市営墓地なんだよ」
「この服ヤバかった?」
「別にいいけど……。時間もなくなるし、そろそろ出発しようか」
「うん」
星音さんは車をゆっくりと走らせて、国道411号線を奥多摩の方角へ走らせていった。
「ねえ、退屈だから音楽でも聞こうか」
星音さんの一言に対して私は「うん、聞こうか」と短く返事をした。流れてくる音楽は昭和の終わりから平成の初期に流行った懐メロだった。
「やっぱ懐メロはいいよね」
そういいながら、星音さんはハンドルを握っていた。私も助手席に座って、思わず口ずさんでしまった。
高速道路に入ると、そのまま相模原市内まで一直線だった。
墓地に着いて、星音さんは真っ先に自分の両親が眠っているお墓へと向かった。お墓には<白丸家之墓>と書かれていた。バケツを持って水道まで移動して水を汲んだあと、ゴム手袋をはめて、雑巾できれいに墓石を拭いたり、軍手にはめ変えて、雑草をきれいにむしり取ったあと、用意した線香をあげて、星音さんは「今日はサーカスで知り合った友達を連れてきたよ」と墓石に一言呟くように言った。
「こんにちは、峠時雫です。娘さんにはお世話になっています」と挨拶をして、線香をあげた。用意したお花をあげて、最後にひしゃくで水をかけて、合掌して墓を去った。
「きれいで、静かな場所ですね」
私が墓地を眺めた最初の感想だった。
「ここ、市内で一番大きい墓地なんだよ」
「あと、周りのお墓を見て気が付きましたけど、ここってお供え物がありませんね」
「ここね、カラス対策としてお供え物が禁止となっているんだけど、置いたままにするとカラスが寄ってくるの。この近くに住宅地があるから、近隣の住人から苦情がくるんだよ。それでも、ご先祖様の好物だからと言って、お供え物として、おはぎや大福を置いていく人がいるんだけどね」
「そうなんですね」
「じゃあ、帰ろうか」
「うん」
「帰り、ちょっとだけ寄り道してから帰ろうか」
そう言って、星音さんは車を高速道路とは反対の方角へと走らせていった。
さらに数週間後、駐在所にある屋根裏部屋への扉には鍵をかけられ、本棚で見えないようにしたので、二度と足を運ぶことがなかった。屋根裏部屋の鍵は私の部屋にある机の引き出しにしまったままになっていた。すなわち、私も星音さんもピエロに変身することはなくなったのでる。
おわり
みなさん、今回も最後まで読んで頂きまして、ありがとうございます。
今回の作品は、サーカスを辞めた元ピエロだった2人の女の子が田舎で暮らす話を書かせていただきました。
一人は、駐在所で勤務する警察官、もう一人は軽食屋さんでメイド服を着てウエイトレスとして働くことになりました。
さて、プロローグにもサーカスの話題が出ましたが、皆さんはサーカスを見たことがありましたでしょうか。私は幼少期に父と従姉妹たちと一緒にロシアのサーカス一座を見たことがありました。玉乗りや空中ブランコなど、どれ一つ選んでもとても素晴らしかったです。
話は変わりますが、もう少しでクリスマスやお正月、大掃除などのイベントが発生します。
みなさんのご家庭では大掃除は済みになったかと思いますが、中には大晦日間近にされる方も、おそらくいらっしゃるかと思います。
さて、クリスマスについてのエピソードを簡単に話させて頂きます。皆さんは枕元に靴下を下げたことがあるかとおもいますが、私はなんと、スーパーのレジ袋(今で言うLサイズ)をさげたことがありました。目を覚ましたら、レジ袋の中には大きなプレゼントが入っていたのが覚えていました。(中身非公開)
お正月と言えば、おせち、年賀状、鏡もち、初詣などが連想されるかと思います。最近では自分で作らず、通販で取り寄せる家庭も増えています。それどころか、おせちやお雑煮なども食べない家庭も近年出ているそうです。
私としては、どんなに忙しくても、自宅で作ったものが一番美味しいかなと思っています。また、玄関や車などにも飾りをつけない家庭も増えてきました。
年賀状も手書きではなく、パソコンで作成してみたり、中にはスマホのSNSで挨拶を済ませる人が増えてきました。
また、年始回りをする家庭も減っているのも事実です。
他にも遊びと言えば、テレビゲームやスマホで遊ぶ子供たちが増えて、昔ながらみんなで楽しむアナログな遊びが減ってきてしまいました。
今年も残り半月を切ってしまいました。みなさんにとって、今年1年どんな年でしたか? 来年はどんな目標を持って生きていくのか、是非教えて頂きたいです。
私も次回の作品に向けて、一生懸命頑張ります。また懲りずに読んでもらえたら、本当にうれしいです。
それでは、次回の作品で、またお会いしましょう。




