四十話 再開と別れ
「話だと?そんなもの聞いた所で・・・・・」
「お願いします!聞いてくれるだけでいいので、それだけでいいので!お願いします!」
勢いよく頭を下げた悠月に気まずそうに顔を見合わせた。すると、社長と母も頭を下げ話を聞くようお願いした。社長の行動に驚いた彼らは慌てて、話を聞くから頭を上げて欲しいと懇願した。
悠月は小狐が何故ここに居るのかを説明したのだが、あまり納得してくれてはいない様子。なにか不満でもあるのだろうかと思っていたが、悠月が何故そこまで詳しく知っているのかが疑問に思ったらしい。
悠月は妖怪が見えることを話そうかなと思ったが、もし話してしまえば社長達が危ない目にでもあったらと思うと言えなかった。
「ごめんなさい。今は言えないんです。・・・・・ごめんなさい」
とそう言って頭を下げた悠月それを聞いた彼らは互いに顔を見合わせ、少々納得がいかないものの悠月の言葉を信じてくれたようだ。
「社長さん。奥の部屋の鍵をお借りしてもいいですか?」
「ああ。構わないよ。・・・すまないね。悠月君にしか出来ない事だと分かってはいるんだが・・・私達にもなにか出来たらいいんだけどね」
社長は眉をひそめて悲しそうな表情をした。悠月は慌てて、そんなことは無いと思いながら首を横に振った。
「そんな事はないです!初めて会ったのに俺の事を信じてくれたし、それに何か出来ないかってそう考えてくれてるって知れて嬉しいです」
悠月は眉を下げながら微笑んだ。そして悠月はもう一度会社の中に入り、狐の子供の手を握り社長室の隣の部屋に向かって行ったのだ。
「悠月・・・」
母は中に入っていく悠月の姿を見て心配しながら見送った。社長も悠月を心配しているようだ。社員達は、複雑そうに悠月を見送った。早く解放されたい。でも、まだ子供である悠月一人に任せてしまうのも気が引けてしまう。そう思っている者も中にはいるようだった。
悠月は子供と一緒に、部屋も前まで来た。途中部屋の前や、廊下などを見ながら歩いたが、資料や棚など倒れている様で、部屋や廊下はかなり散乱していた。悠月は、あまり踏まないように慎重に歩いて部屋まで来たのだ。
「じゃあ、開けるよ?」
子供は悠月の言葉に戸惑っていたが意を決し頷いた。悠月は子供の反応に頷き、鍵を開け扉をゆっくりと開いた。中は普通の部屋に見えるが、入ってすぐ目の前に簡易的ではあるが、小さな社があった。
「部屋の中に社がある・・・すげぇ・・・」
悠月は部屋の中を見て呆然としている。子供も悠月と同じように呆然としていたが、社の前に居る何かに気付き、
「かか様!!!」
そう言って走り出した。悠月は驚いたが、直ぐに後を追った。社の前に行くと、白銀の狐が倒れていた。悠月は直ぐに状態を確認したが、寝ているだけのようだ。怪我も無くただ眠っているだけだった。安心したのも束の間、声が聞こえた。
「ほう?こやつが見えるのか。人の子よ」
悠月はハッとし、顔を上げる。すると、目の前に女性が立っていた。後ろに狐の尻尾がある。よく見ると尾が四つある。悠月は目の前にいる妖狐に冷や汗を欠きながら恐る恐る聞いてみた。
「あ・・・あの!」
「ん?なんじゃお主。我を見て驚かないとは生意気じゃな」
妖狐は悠月の反応を見て楽しそうに笑っている。悠月は苦笑いしながらも、続きを話した。
「あの!・・・なんでここにこの狐が居るのか聞いても・・・?」
妖狐は笑うのをやめ、目を細め薄ら笑いをした。まるで、新しいおもちゃを見つけ、どう遊んであげようかという顔をしていた。
「何故とな?・・・ふっ。我がこやつを呼んだのだ」
「え?それってどういう・・・」
「こやつは我が妹。あの森の神社に住まう白狐よ」
「え?・・・ええええええええええええ!!!!!」
妖狐は窓の外を指さす。確かにこの会社の近くに森がある。悠月は目を丸くして驚いた。子供も驚いている。妖狐は何故かキョトンとしている。
「なんじゃ、我が甥よ。母の事を知らなかったのかえ?」
「・・・!し!知らな・・・かった・・・です。ずっと、森にいたから・・・」
「ん?あの森に住んでいたのではないのか。確かにここ30年、こやつの気配を4感じる事が出来なかったが・・・まさか我が寝ている間に、移動したのか?」
「この子とこの人は、ここから少し離れた森に住んでたみたいだよ」
今度は妖狐が目を見開く。
「成程。どうりで、こやつは疲れていたのだな」
「どういう事ですか?」
「我と我が妹はこの社を見ればわかるじゃろ。この神社は狐が御神体である。そこの森の中にある神社も同じだ。」
「稲荷神社って事か・・・」
「ここは元々我の土地だった。だが、人間がこの土地を更地にし祠も取り壊そうとした」
「でも建物を建てる前に地鎮祭だっけ?それやったんじゃないの?」
「ふん。そんなもので我の怒りが収まるとでも?」
「・・・多分収まらないと思う・・・。」
「ほっほっほ!お主中々見る目がある!そうじゃ。我の怒りは収まらなかった。この土地を、我の住む祠、妹の住まう森を守りたいが為に人間共の邪魔をした。だが、我の邪魔も空しくこうして立派なものが建ってしまった」
目を伏せ、諦めの様な悲しい表情をしていた。どんなに神様でも時に人には敵わない事があるのだと、悠月は思い知った。
「だが、我は諦めなかった。ここで働いている人間を怖がらせたりしたが、効果は今一つだった。何度かやっている内に漸く人間共は怖がり始めた。あの祠を壊したせいだ、だのなんだの騒いでいたな」
「それで、怒りを鎮めるために祠、社を建てたのか・・・でも、わざわざ部屋の中に作らなくても良かったはずだけど何で・・・」
「丁度この位置が我の家があった場所だからだ。我にとってこの位置が、一番力を得られる場所なのだ」
「・・・そっか。だから、ここに・・・」
すると、白い狐が目を覚ます。
「ここは・・・」
「・・・!かか様!!!」
子供は母親である白狐に抱き着いた。白狐は急に抱き着かれ驚いた事で、目が覚めたようだ。そして、子供に気が付くと、人の形をして子供を抱きしめた。
「ああ。ごめんなさい。寂しい思いをさせてしまって・・・!」
「かか様・・・!!かか様!!」
うわあああん!!と泣き出した。親子の再会を悠月は安心し、心の中で良かったと思い微笑みながら見守っていた。
暫くして、子供は母から離れたくないようでずっと抱き着いている。白狐は悠月と、姉である妖狐の方を見てお礼を言った。
「ありがとうございます。姉様、人間の子供よ。お陰で我が子に会う事が出来ました。何とお礼を言ったら・・・」
「俺はただ、貴女のお子さんが貴女に会いたがっていたから手助けしたまでです」
「我は、偶々通りかかったお主をここに呼んだだけだ。」
「ふふ。相変わらず素直ではないですね。姉様」
白狐に言われ、照れ隠しのようにそっぽを向いた。顔が少し赤いような気がする。
「これからどうするの?森に戻るの?」
「・・・いえ、我が家に帰ろうかと思います。」
「我が家ってそこの森の中にある神社に?」
「はい。勿論今までの生活は楽しかったです。ですが、ここを離れてから少しずつ力が弱くなっていきました。このままでは我が子を守るどころか、己も守れなくなると思っていたのです。なのでこれを機に戻ろうかと思います。・・・今更かもしれませんが。」
困り笑いをする白狐。その表情は今更戻ってもいいのだろうかと思っているような顔だった。
「いいんじゃないですか?怒る人なんていませんよ。妖狐も俺もこの子も」
「・・・!」
ハッとして周りを見る。悠月は微笑んでいて、妖狐は呆れながらも嬉しそうな顔をしている。子狐はよく分かっていないが、母とまた一緒に居れると思っている様で嬉しそうな顔をしている。そんな三者三様の反応に思わず涙が出た。
「ありがとう・・・ございます・・・・!!」
その後、移動し外に出る。悠月が出てきたことに気付いた母。駆け寄り悠月を抱きしめた。
「悠月!!無事で良かった・・・!!」
「ごめん。心配かけて」
「悠月君、無事で良かった・・・」
社長も他の社員達も安心した顔をしていた。そしてもう狐が会社に出る事は無い事を伝えると安堵の声が聞こえてくる。悠月は母に抱きしめられながらお願いを言った。それは森の中に稲荷神社がある事、白狐の住む神社の手入れやお参りやお供え物をして欲しい事をお願いした。母は困惑している。なぜ会社近くのもろに神社があることを知っているのか聞かれた
「え!?いや~その~・・・・と、とにかく!!お願いしてもいいかな・・・」
「・・・聞きたい事とか山ほどあるけど、どうせ言わないでしょ?しょうがないな~わかった。いいですか?社長」
「ああ、構わないよ。ありがとう、悠月君。君は私や社員の、いやこの会社の恩人だ」
「恩人だなんてそんな!大袈裟ですよ!」
慌てて否定するも、社員からも感謝の声が響く。悠月は照れ隠しでそっぽ向いた。その目線の先には、妖狐と白狐親子が居た。妖狐はクスクス笑い、白狐は微笑ましい光景を見ているような顔をしていた。悠月は仕方ないという様な顔で微笑んだのだった。
数日後、卒業式が執り行われ悠月達は無事に卒業した。
「中学生活もこれで終わりか~・・・。学校に行くのが憂鬱だったのに今になって恋しくなってくるなんて!」
「そう思うって事は充実してたって事でしょ?良かったじゃん」
「充実してなかったら今頃、「清々した!!」とかなんとか言ってるだろうね。特に秋人は」
「言ってるな」
「うん、絶対言う自信ある」
3人は吹きだして笑った。
その後、卒業式の看板で撮影したり先生との挨拶、部活の後輩からなどと交流しそして名残惜しく校舎を去っていった。
妖怪が見えるようになって半年。半年という短い期間でいろんな妖怪と出会い、別れそして相対したりした。この先も出会いと別れ、時には立ち向かわなければいけない事もあるだろう。時には逃げたり、目を逸らしたりするかもしれない。だが、それでも見える限り、聞こえる限り悠月は妖も人間も分け隔てなく頼み事を聞いて行くのだろう。
妖たちの頼み事~中学編~
これにて閉幕。




