三十三話 看病
雪依の居る部屋まで案内されな柄廊下を歩いていたのだが、廊下もだが部屋のドアや少しだけ開いたドアの先の部屋も凍っているように感じた。薄い氷に覆われているように見える。悠月は身震いをしながらも、雪依の下に向かった。
暫く歩いていると、子供が部屋の前に立ち止まりここに雪依が居ると言った。漸く着いたと一安心した悠月。ここに来るまで、何度も転びそうになったのだ。まるでスケートリンクの上で運動靴で歩いているかのような感じで何度も滑り転びそうになったという訳だ。
悠月は、深呼吸をして失礼しますと言いながら扉を開けた。開けた扉の先に見える光景に悠月は絶句した。部屋の中は何故か吹雪いていて、部屋全体は氷で覆われている。天井からは鋭利な氷柱がいくつもぶら下っていた。この部屋には暖炉もあるようだが、氷に覆われており暖炉の火もやはり凍っていた。部屋の真ん中には人が布団で寝ている。雪依だ。
「な、なんだよこれ・・・部屋の中で吹雪が起こってるってどういう事だよ・・・」
「雪依様!薬をお持ちしました!」
「・・・・・・うるさい」
布団の中から低い声が聞こえた。寝ていたのだろう、起こされて不機嫌な様子だ。その時、先程まで吹雪いていた部屋の中が少し落ち着き、視界もはっきりと見えるようになった。
雪依は静かにするように言いながら声の聞こえた方を向いた。悠月は雪依の顔がこちらを向いた瞬間やはり、昔お世話になったお姉さんだと思った。雪依は朧げな目で子供に何の用だと聞いた。
「薬です!薬をお持ちしました!」
「・・・薬だと?ゴホッゴホッ。市販の薬はもう飲まねえぞ・・・」
「違います!今回はどんな病気や怪我が治ると噂の薬を持ってきました!」
「ゴホッゴホッ。そんな希少な薬見つかるわけが・・・あ?」
雪依は咳き込みながら話していたが、どうやら悠月に気付いたようで目を見開き驚いていた。
「な、何でお前がここに居る!・・・っゴホッゴホッ!」
「雪依様!」
「大丈夫ですか!?」
「ゴホッゴホッ。なぜここに居る。クソガキ・・・」
「あはは・・・相変わらずですね・・・その呼び方・・・」
悠月は苦笑いしながらも、何故ここに居るのかを説明した。学校から帰るときにこの子に話し掛けられた事。雪依さんが風邪を引いて寝込んでいる事。風邪を治すため万能薬が欲しい事。その他にもここに来るに至った経緯を話すと、雪依は呆れた顔で迷惑かけて済まなかったと謝った。
悠月としては別に気にしていない。何なら話を聞いて心配したためここに来ている。すべては自分の意思でここに居ることを伝えると、馬鹿だなと言われてしまった。だが、その言葉の裏では申し訳なさと感謝が混じっていたように感じた。
「そういえば、熱の方は大丈夫ですか?」
「いや、かなり酷い。ゴホッゴホッ。37度もある」
「えっと・・・因みに平熱は・・・」
「34度だ」
確かに平熱がそれくらいならかなりの高熱だ。というか人なら死んでもおかしくない位の高熱だ。悠月は顔を青くしながら死にませんよね!?と言った。雪依は死ぬわけがないだろう、アホかと言われてしまった。妖怪の事は未だに分からない事だらけだと改めて思った悠月だった。
気を取り直して、雪依に食欲はあるかと尋ねたのだが、そんな事より早く家に帰れと言われた。
「で、でも!」
「いいからさっさと帰れガキ。ここに居ればお前が風邪を引くぞ」
心配してくれているのはありがたい。しかし、そんな事を言われても諦める事は出来ない。悠月は意地でもここに残ると言った。当然雪依は怒り帰れと言いながら氷柱を投げたが、のらりくらりとかわした。帰れの言葉にも聞く耳持たず、そのまま台所で何か作ってくるとニコニコしながら言い部屋を出ていった。
そんな悠月にイラついていたが、溜息をつき布団の中に戻った。ふと思い出した。悠月は一度決めた事は何としてでもやり遂げる性格だったなと。呆れながらも、フッと笑いながら眠った。その間子供は部屋の隅でビクビクしながら先程のやり取りを見ていたのだ。子供は静かに部屋を出て悠月の後を追ったのだった。
悠月は凍っている廊下を慎重に歩いていると後ろから声が掛かった。振り返ると、子供が居た。どうかしたのか尋ねると、何か手伝う事は無いかと聞いてきた。
「手伝ってくれるの?」
「はい!私も早く雪依様に元気になって欲しいですから!私に出来る事があれば何なりと申し付けてください!」
「ありがとう。早速で悪いんだけど台所まで案内してくれないかな」
「分かりました!こちらです」
そうして子供に案内され、台所に着くと悠月は火が使えるか確認をした。幸いにもここは凍っておらず火はちゃんと使えるようだ。だが、ここも何時まで持つか分からないため早速作り始めたのだった。
やはり風邪を引いている時に食べる物といえばおかゆもしくは雑炊など消火にいい物を作ることにし、卵もあるようなので卵がゆに決めた。悠月は子供に余ったご飯とかあるか聞くと土鍋の中にあると言ったため中を確認すると、カチコチに凍っていた。他の鍋に移して煮ようかと思ったのだが、そういう訳にもいかないためそのまま土鍋で作ることにした。
「あ、そうだ。一つ頼んでもいいかな?」
「はい!なんでしょうか?」
「生姜湯を作りたいんだ。生姜を擦ってくれないかな?」
「!分かりました!」
頼まれた事が嬉しいのかニコニコしながら生姜を持ってきて擦り始めた。その間に卵を割り溶き、葱を細かく刻み下準備を終えた悠月はその後もテキパキと料理を作っていった。
料理が完成し、早速料理を持って雪依の部屋へと向かう。部屋の扉を開けると、雪依は匂いに釣られたのかゆっくりと体を起こした。
「大丈夫ですか?」
「・・・ああ」
「これ飲んでください。生姜湯です。蜂蜜も入ってますよ」
「頂く」
「この生姜湯、この子が生姜を擦ってくれたんです」
「・・・そうか」
そう言って微笑んだ雪依に褒められて嬉しいのか頑張りました!と言って笑った。悠月は土鍋からお椀に移し雪依に渡した。熱いから冷ましてから食べるように言うと、雪依はフーっと息を吹いた。すると蓮華の上にあるおかゆは忽ち凍ってしまった。
何とも言えない空気になってしまったが、雪依はそのまま凍ったおかゆを食べた。そして、お椀と蓮華を悠月に渡し食べさせろと言った。悠月はキョトンとしたが、微笑みながらも仕方がないというような表情で受け取り、おかゆを掬ってよく冷ましてから雪依の口へと運んだ。お気に召したようで何よりだ。
暫くして、おかゆをすべて完食した雪依に悠月は安心した。
「まさか全部食べてくれるなんて思わなかったです」
「それ程美味しかったのですね!」
「!う、うるさい」
「ふふ。それじゃあ俺は片付けついでに薬持ってきますね」
そう言って食器などを持ち部屋を出た。子供はふふっと笑い、雪依は何が可笑しいのか聞くと、
「いえ、悠月様は優しい方だなと。こんな見ず知らずの私の話を聞いてここまで来てくれて、それに勝利まで作ってくれるなんて。本当に優しい方ですね」
「ふん、私にとってあいつはただの生意気なガキだ。・・・本当に馬鹿な奴だ」
「ふふ、雪依様。もっと素直になってもよろしいのでは?」
「・・・うるさい」
そうしている内に悠月が湯呑を持ってきた。悠月は雪依に渡すと、雪依は何だこれはと言われた。子供も気になり湯呑の中を覗くと、お湯の上に葉が一枚乗っていた。どういう事なのか聞くと、悠月は説明をした。
「その葉はあさつきの葉です」
「これがあさつきの葉ですか?」
「なぜ浮かべる必要がある」
「実はあさつきの葉をお湯や水の浮かべるだけで効果出るみたい。実際に俺もやってみたんだけど、次の日滅茶苦茶元気になっててさ。溜まってた疲労も取れて体がとても軽くなったんだよ!葉は流石に食べれないからお湯だけ飲んでね」
味は普通のお湯だけどねと、笑いながら言った。雪依は、疑いながらも飲んだ。悠月は子供にも渡し、子供も飲んだ。飲み終えた雪依は悠月に無言で湯呑を渡しそのまま眠ってしまった。悠月は驚いたが、雪依らしいと思っていると、子供も飲み終わったようでごちそうさまでしたと言った。
その後、片付けを済ませ子供に一言言いそのまま家に帰ろうとした。その時、子供が悠月に向かって頭を下げお礼を言った。悠月は気にしなくていい、雪依が元気になってくれればそれでいいと言ってその場を去った。子供は、改めて感謝を述べ悠月が見えなくなるまで頭を下げた。
子供は悠月を見送った後、家の中に戻り雪依の居る部屋に戻った。部屋に入り戸を閉めた時、雪依はあいつは行ったかと聞いてきた。
「はい」
「・・・そうか」
背を向けているが少し寂しそうな感じがした子供は、悠月が去り際に行った言葉を雪依に伝えた。
「・・・本当に、生意気なガキだな」
そう呟いた雪依は何処か嬉しそうな声色で言ったような気がした。子供はふふっと笑いながらそうかもしれないと答えた。
雪依は久々に悠月に会えた喜びと、自分を心配してくれた事の嬉しさがこみ上げてきて人知れず嬉しそうな顔で笑っていたことを、雪依以外は誰も知らない話だ。




