二十二話 心配だから
翌日、学校が終わり2人に用事があるため先に帰ることを伝え颯爽と教室を出た悠月はある人の元へ急いで向かった。
古い町並みが残る商店街。そこには色んな店が並んでいる。金物屋や喫茶店、靴屋に酒屋など多種多様なお店が並んでいる。そしてその一角に古い建物がある。その建物の入り口には暖簾が出ており、看板もあった。そこには『何でも屋はるの』と書かれており、いろんな物や雑貨など売っているようだ。他にも困り事や相談事なども受け付けているようだ。
悠月は扉を開け、中に入るといらっしゃいませと声が掛かる。声のする方向に顔を向けるとそこには禎道が居た。禎道は、以前質の悪い妖に憑りつかれ性格が変わっていたのだが悠月が管狐の倖醒と共に妖を封じたおかげで元に戻ったが、倖醒との一軒もあったため以前やっていた仕事をやめたのだ。そして心機一転し何でも屋を始めたと偶然出会った際に教えてもらったのだ。
こんにちはと挨拶をした悠月は禎道に相談したい事があると伝えると、悠月の顔が何やら深刻な事を察し、真剣な表情で話を聞くことにした。悠月は木村と落とし物をした妖怪の話をゆっくりと話し始めた。
「・・・と言うわけなんですけど・・・これ、かなりマズいですよね」
「そうだね・・・そうか、あの井戸か・・・」
「禎道さん何か知ってるんですか?」
「うん。実はその井戸にはある噂があってね『あの井戸は近づいた者は呪われ、夢を見るたびに何度も女に襲われる。やがて精神が限界に来るとその井戸に身を投げてしまう』ってね。だからあの井戸一帯は人も妖怪も誰も近寄らないんだ。」
悠月は目を見開いた。木村や他の人が今まさに呪われている状態だと言う事に。もしかしたらいつかその身をあの井戸に投げてしまうかもしれないと思った悠月は何とかしなければと焦りを感じていた。禎道も悠月の表情を見て眉間に皺を寄せた。禎道は悠月にその井戸に一緒に行ってもいいかと尋ねた。
ありがたい申し出だと思ったが、やはり悠月の頭をよぎるのはあの時の事。暫く体調不良で寝込んでいたようで、再開した時も顔色が優れていなかったのだ。今も少し顔色が悪いように感じる。そのこともありあまり無理をしてほしくないと思っていたのが禎道には分かったようで、悠月の頭を撫でながら心配してくれたことに感謝した。悠月は複雑な顔をしていたが、ゆっくりと頷いた。
あの井戸に封じられていた妖怪をもう一度封じてしまうとまた解かれたときに大暴れをしてしまう可能性があり、より被害が出てしまうかもしれないため浄化をするか、もしくは完全に祓うかの二択だと言われた悠月は最初どちらにするか悩んでいたが、その後どちらにするかを決めたようだ。
ある程度の作戦を練った所で、井戸に行った際何が起こるかは分からないからもしかしたら作戦を変更するかもしれないと言うことを伝えた禎道に悠月は了承し、お礼を言って家に帰っていった。禎道は悠月を見送った後、店を閉め妖怪を封じるための物などの準備を始めたのだった。
休日になり、例の井戸に行く準備をしていた悠月の下に妖怪がやって来た。悠月と妖怪は互いに挨拶をした後、悠月は妖怪にこれから例の井戸に向かう事を伝えると、妖怪は私も共に行きたいと言ってきたため悠月は了承し、準備を整えた悠月は妖怪と共に家を出たのだった。
井戸に向かう途中禎道の店に寄った悠月は、禎道に挨拶をし禎道が事前に作ってくれたであろう道具を持ち、店を出た。途中井戸まで案内してくれる木村と合流するためコンビニに寄りたいと伝えると、禎道はいい顔をしなかった。当たり前だ。被害にあってはいるもののあの井戸に近づいてほしくないと思うのも当然なのだ。悠月は井戸までではなく途中まで案内してもらう事を伝えると渋々了承した。
コンビニに着くと木村が待っていた。木村の他にも何人か人がいるようだ。悠月は木村に近づき話し掛けた。
「遅れてごめん。待たせたか?」
「いや、大丈夫だ。俺らもさっき着いたばかりだから」
「そうか。・・・なあ、もしかして他の人達って・・・」
「ああ。その日一緒に居た奴らだよ。話をしたら、俺達も一緒に行きたいって言ってきて・・・」
成程なと納得した悠月は後ろに居る人達によろしくと言いながら頭を下げた。相手も頭を下げよろしくと言った。互いに挨拶をした後、木村が悠月の隣にいる禎道について聞いてきた。悠月は木村に禎道の紹介をした。禎道と木村達は互いに挨拶した後、早速井戸に向かうことにした。
井戸に向かう途中、悠月はここまでで大丈夫だと伝えた。木村は突如言われた言葉に戸惑いを隠せないようだった。
「な、なんでだよ。何か理由でもあんのかよ・・・」
「・・・理由は、ある」
「理由って・・・」
「・・・俺の勘なんだけどさ。多分、木村達があの井戸に近づいたら身投げ・・・するかもしれないと思ったから・・・かな・・・」
そう言われた木村達は絶句した。同時に顔が青白くなった気がした。だが、悠月は木村達に安心してほしいと伝えた。だが、木村は心配そうな顔をしたままだった。
「そんな心配そうな顔しなくても大丈夫だよ。俺たちが何とかする」
「けど、こんな事になったのは俺達のせいだし・・・それに、菱矢と禎道さんも俺達と同じようになったら・・・!」
怯えるように言う木村は焦りと恐怖で顔色が悪くなっている。そんな木村に悠月は木村の肩を掴み木村を正気にさせ、言葉を紡いだ。
「木村!俺達は大丈夫だ!」
「・・・けど!」
「心配してくれて!・・・ありがとう。けど、木村達を危険な目に合わせたくないんだ・・・木村達を守りたいんだよ・・・大切な友人だから・・・分かってくれ・・・」
ハッとなる木村。悠月の目を見ると、絶対に連れて行かないという強い意志と不安な目をしていた。木村は悠月も怖いんだと思った。それでもあの井戸に行かなければならないんだと。悠月の想いが伝わってくる。
「・・・分かった」
「・・・!ありがとう」
「その代わり!無事に帰ってくるんだぞ!帰ってこなかったら一発ぶん殴る!!!」
「!・・・それは困るなぁ!」
悠月は困ったような顔をしながら笑った。木村は悠月に拳を出した。キョトンとした悠月だったが意図を察し拳を出して、グータッチをした。
じゃあ、行ってくると言って禎道と悠月は井戸へ向かっていった。木村の後ろに居た一人が大丈夫なのか聞いたが、木村は大丈夫だから2人の帰りを待とうと言って待ち合わせをしていたコンビニに向かったのだった。
木村達と別れて暫く歩いていると、禎道が心配してきた。だが、悠月は大丈夫だと言わんばかりの顔で禎道を見た。禎道は悠月の顔を見て安心した。絶対に無事に帰るんだという意思を禎道は感じたのだった。
暫くすると例の井戸が見えた。悠月と禎道が井戸に駆け寄ったが、井戸まであと少しという所で空気の重さが異常な程重たかった。足を前に出そうとしても足が出ない程の重さを感じる。それでも、何とか井戸まで着き中を覗くが、当然暗く何があるのかも分からない程だ。明かりを井戸に向けると中には水が入っているようで反射していた。
何か浮いていないか確認したがそれらしき物は見つからなかった。すると、不思議なことに井戸の底から何かが浮き上がってくるではないか。ゆっくりと上がってきた物を確認すると皿のようだった。その時、妖怪がこれだ!これが落した物だ!と言ってきた。悠月は周りを見渡すと桶があった。その桶にロープを括り、滑車にロープを付け皿を取った。妖怪に渡すとありがとうございます。と何度もお礼を言った。
その時、禎道が井戸から離れるように言った。悠月と妖怪は井戸の方を見ると井戸から手が出てきているではないか。悠月は咄嗟に妖怪を抱え井戸から離れた。井戸の方を向くと、手は何かを掴もうとしていたようで手が閉じていた。これはもしや自分を捕まえたかったのか?と思うと顔から血の気が引いた。禎道は悠月の心配をしたが、悠月は大丈夫と答え禎道と共に祓う準備をしたのだった。




