二十一話 不穏な夢
目を開けると真っ暗な空間にいた。周りを見渡しても闇に覆われていて何も見えない。この空間はいったい何なのか考えていると、カチャン。カチャン。と微かにだが音が聞こえた。何処から聞こえるのだろう。そう辺りを見渡していると、後ろからカチャン。カチャン。と聞こえた。後ろを振り向くと井戸があった。何故井戸がここに?と疑問に思ったが、未だに聞こえてくる音が気になり井戸に向かって歩き始めた。井戸に近づくにつれ、音がハッキリ聞こえてくる。音は未だに聞こえるが、それと同時に何か呻き声のような声が聞こえてきた。
驚いて歩みを止めてしまったが、怖いもの見たさで少しずつ進んでいくと井戸に着いた。カチャンという音は食器のような音かもしれない。呻き声は唸っているというよりすすり泣く人の声に聞こえる。声からして女性だろう。すると、井戸の中から一枚・・・二枚・・・と何かを数えるような声が聞こえ始めた。恐る恐る井戸の中を覗くと、当たり前だが何も見えない。
ホッとした瞬間後ろから何か嫌な気配を感じた。体が震える。ゆっくりと後ろを振り向くと、誰かが立っていた。白い着物の様なものを着ている。誰だろうと考えながら瞬きした。その瞬間視界が真っ白になった。突然視界が真っ白になった事に理解が追いつかずなんで?どうして?と思っていたその時、ふと足元を見ると足が見えた。そして顔をあげるといつの間にか目の前に先程の人がいた。着ているものをよく見ると所々に赤いものが目に入った。だが色が少し赤黒いような気がした。もしかしてこれは血なのか?と思っていると上から何か垂れてきて顔に落ちてきた。拭ってみると赤かった。匂いも少し鉄臭い。血だった。
目を見開き、ゆっくりと頭を上げ上を向くと一枚足りない・・・と言った。えっ、と言った瞬間女性が掴みかかり、自分諸共井戸の中に引きずり込まれていった。
「うわあああああああああああああ!!!!!!」
昼休み、悠月は親友二人と他愛もない話をしていた。すると悠月が欠伸をした。2人は寝不足か?と聞いてきた。
「大丈夫か?ここ最近授業中とかよく欠伸してるだろ?」
「・・・ああ、ちょっとな」
「もしかして妖怪からの頼み事か?」
「うん、正解。なんか、大事なものを何処かに落としてしまったからそれを一緒に探してくれって頼まれてさ・・・」
それって一体何なのかと聞こうとしたタイミングで悠月に話しかけた人物がいた。
「菱矢悠月・・・だよな?」
「え、あ、うん。確か、隣のクラスの木村だっけ?俺に何か?」
すると、木村は眉間に皺を寄せて頼みがあると言った。
木村駿。悠月とはクラスが別で秋人とはかなり相性が良く、休日はよく一緒に遊んだりしているようだ。一年からずっとクラス替えがなかったため関わることが殆ど無かった。木村は吹奏楽部に所属していた。副部長をやっていたらしい。そんな彼が悠月に頼み事があると言った。何故自分なんだろうと疑問に思った悠月は木村に聞いてみることにした。
「俺に頼み事?なんで?」
「いや、それが最近変な夢を見るんだけど、毎日同じ夢を見るから流石におかしい、何か嫌な事が起こるんじゃないかと思って親に話したんだけどたかが夢だって言って信じてくれなくて。他にも何人かその話をしたんだけど誰も信じてくれなくて相談できなかったんだ・・・そしたら友達が最近菱矢の噂を聞いたらしくてその噂を教えてもらったんだよ。それでもしかしたら菱矢なら信じてくれるんじゃないかって思ったんだ。なあ、もしよければなんだが俺の頼み事聞いてくれないか?頼む!」
ガバッと頭を下げた木村に悠月は戸惑ったが、頭を上げるように言い時間を確認するとあと15分もすれば次の授業が始まる。頼み事については空き教室で詳しく話すとして、先程の自身の噂について聞いてみることにした。
その噂とは、お面の妖を封じた日から数日経った頃の事。偶々橋の下に居た悠月を見かけた人が居た。何をやっているのかと気になり見ていると何もない空間に一人で何かを話しているようだ。独り言かと思ったがどうやら何かと対話しているようだと思いもう少しだけ観察していると、急に動き出し川の下流の方に向かって進んでいった。追いかけてみると、ツタが絡まった草木の方を見て何かからツタを取っているような動きをしていたのだ。その後無事に取れたようで下に降ろすような動作をし、何かと少し話をして別れたようだった。悠月は何か見えるのかもしれない、もしかしたら幽霊とか見えるのかも。と思ったその人物は、その話を友達に話した所その友達も別の友達に話したようで伝言ゲームのように段々と広まり、今では菱矢悠月は霊感があり困っていたら助けてくれる人だという噂が学校中に流れているようだ。
悠月は何も知らなかったが、友人達も初耳だったようで驚いている。何故そんなことになったのかと思ったが、その話を聞いた時あの時の事かと思いだし項垂れていた。
あの時とは小さな妖怪がお昼時にやってきて友人を助けてくれと頼まれたのだ。事情を聴くとツタに絡まってしまい身動きが取れないため助けて欲しいと言われた。橋の下では何方の方向に居るのかを聞き、その場所に案内してもらいながら向かっていくと立派なツタに絡まっている妖怪が居た。その妖怪を助け、傷薬を塗り解放するとお礼を言われ旅立っていったのだった。
その光景を見られていた、しかも噂となり学校中に広まっていることに顔が赤くなっているような気がした。その時、丁度チャイムが鳴り顔を赤くしながらも、今日の放課後空き教室に集合と呼びかけ木村と別れた。悠月は未だに顔を赤くしたまま授業を受けるのだった。
放課後、空き教室に向かうと既に木村が来ていた。待たせてごめんと謝り、椅子に座り木村に昼間に話していた夢の話を聞くことにした。
話を聞いていく内に悠月達は顔面蒼白になっていった。後ろでは怖すぎる!なんて夢を見てるんだ!と騒いでいる。後ろで騒いでる奴らを無視して何か考え込んでいる悠月に木村はどうしたのか尋ねた。すると、悠月はその夢の話に思い当たることがあると言う。
「木村が見た夢の話なんだけどさ、とある話に似てるんだよな」
「ある話?それってどんなの?」
「『お菊さん』って聞いたことある?」
「何それしらん」
「あー・・・じゃあ『皿屋敷』は?」
「それは知ってる!確かお皿数える話だよな?」
悠月は頷き、『皿屋敷』についてざっくりとだが話した。すると3人は全く同じじゃん!と大きい声で言った。対処法は皿を渡すか、10枚目を言ってあげると消えるらしい。だが、あくまでも創作話ではあるため本当なのかどうかは分からないと補足した。
秋人が何時から夢を見るようになったか聞くと、3日前からだそうだ。その夢を見るきっかけになった出来事があったか聞くが心当たりがないと言っていたが、何か思い出したかのように声をあげた木村はそういえばと言った。
「夢を見始めた何日か前に数人の友達と一緒に近くの山で遊んでたんだ。その時に井戸みたいなのがあって、中を覗いたら水が入っていたんだ。だから、何気なく石とか入れたり落ち葉を入れまくったりしてた・・・もしかして・・・」
「多分それのせいなんじゃないか?頭から血が出てたって言ってたからもしかしたら石が当たってたのかも」
木村は顔面蒼白になり、やらかしてしまったと怯えていた。体も震えている。悠月はその時に居た友達も同じような夢を見ていたのか聞くと、震えながらも頷いた。木村が見ている夢と全く同じ。井戸に落ちる所で目が覚めるという所も全く同じだった。悠月は少し険しい顔をしながら木村に次の休みにその井戸に案内してほしいと頼んだ。3人は驚いていた。秋人と和馬は危ないからやめとけと制止したが、悠月は木村に頼むとまっすぐ木村の目を見つめながら言った。木村は戸惑っていたが、悠月の目を見て渋々だが分かったと返事をした。
その後、木村に話してくれてありがとうと感謝を述べ木村と別れた。秋人と和馬は悠月は1人で行く気だと思い自分達も行くと言ったが、悠月は秋人達を見て絶対に来るなと言った。納得のいかない2人はでも・・・と言ったが念を押すかのように絶対に来るなと言われた。悠月の顔を見ると、怖い顔をしていた。だが、目からは自分達を心配しているような眼をしていた。巻き込みたくない。危ない目にあって欲しくない。そう語っているように感じた2人は大人しく引き下がった。
悠月は2人にお礼を言い後日結果を話すことを約束した。2人は絶対だぞ!と言って悠月を指さした。悠月は困った顔をしてわかったと言った。いつもの雰囲気に戻ったと安心した2人は、悠月と別れそれぞれ家路に着いた。
家に着きただいまと言って部屋に戻ると、悠月に頼み事を持ってきた妖怪がおかえりなさいませと言ってきた。吃驚した悠月だったが、何故部屋にいるのか聞くと落とした場所が分かったと言った。何処かと聞くと、この町の高校の近くの山で落としたのだと言う。その山にある井戸に落としてしまった事を思い出したようだ。悠月はえ、井戸?と言った。妖怪はそうだと言いながら頷いた。
妖怪が言うにはその井戸は昔とある屋敷にあったものだと言うのだ。屋敷で働いていた一人の女中が誤って屋敷の主人が大切にしている皿を割ってしまったらしく、そのことに怒った主人は屋敷に居た役人に女中を罰するよう命じ、女中は罰を受けたそうだ。そして、何日か経った頃女中はいつの間にか息をしていなかったようで、役人は女中を持ち上げ井戸に捨てたらしいのだ。暫くして井戸から声が聞こえるようになり、毎夜何かを数えている声が聞こえてくるようになったそうだ。恐ろしくなった主人は祓い屋を頼み井戸を封じるように頼み祓い屋は井戸に蓋をし封じ込め二度と出てこれないようにしたそうだ。
風化の影響なのだろう。封じる力も弱くなり、普通の人でも封印が解かれてしまう程になっていたそうだ。ある日、いつの間にか井戸の封印が解かれたようで蓋が消えていてそこに躓いて転んでしまった妖怪が井戸の中に落としてしまったと言うわけだ。
その話を聞いた悠月は険しい顔をしながらも今日木村が話した夢の話を妖怪に話した。すると、どうやら妖怪が落とし物をした井戸と同じようだ。悠月は後日その井戸に行く予定がありその時に落とし物を拾う事を伝えると、妖怪はありがとうございますと何度も頭を下げた。悠月は頭を上げるように言った。妖怪はまた後日窺うことを伝え消えていった。
悠月はこれは大変な事になったと一人になった部屋で呟いた。どうしようかと悩んでいると、ある人物を思い出した。あの人ならもしかしたらと思った悠月は、明日学校帰りにその人物の元へと向かうことを決めたのだった。




