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【異世界小話】シンプル イズ ベスト

 異世界にて。

 一人目の子どもがお腹の中で大きくなっている頃。

 私は大いに悩んでいた。産まれるまでに子どもの名前を決めなきゃいけない。異世界に戸籍制度はないけど、名前は必要だからね。


「うーん、うーん……名前、名前、名前、君の、君の、ふんふふん、ふふーん」

「ヒカリ。唸り声から鼻歌にシフトされると真剣に考えてるのか、楽しんでるのか分かりにくい」

 え? たっちゃん、私、歌ってた? そんなはずは……いや、歌ったな。名前って考えてると、どうしてもあの歌が。ああ、頭から離れなくなったあ!! 真面目に考えていたのに。こいつめ、こいつめ。


「ヒカリの意見は尊重するけど、そんな毎日一人で考え込まなくてもいいんだぞ。その、二人の子どもなんだし」

「なんで今さら微妙に照れるの、龍臣。ちょっと気持ち悪いんですけど」

「彰、そこは触れないでやれ」

「えー、人生経験の差でヒカリをかっさらってたくせに、変なとこで純情ぶられると正直ムカつくっていうか」

「人生経験豊富でも、結婚は初めてだし、踏み込んだこといえば本気の相手自体初めてらしいから仕方ないだろう」

 そうなんだよね。たっちゃん、意外と純情でカワイイところがあるのよね。日本にいたときは闘病生活で恋愛どころじゃなくて、こっちに来てからは異世界トリッパーだらけで一癖も二癖もある人ばっかりだしで、いわゆる恋人いたことないんですって。ってなこと言ったらめちゃくちゃ笑って馬鹿にしてきそうな彰くんだけど、手をワキワキして顰め面。私が知る限り、彰くんも恋人いたことないよね。その反応は生まれてこの方いないのかもね。異世界トリップするような人たちは、まあ、みんなそんなもんなのかも。人生、それどころじゃないのよね。うんうん。

「余裕こいてるけど、雄太郎だってどうせ本気の恋人いたことないでしょ」

 あ、道連れにしにきた。雄太郎も守護神として人気はあるんだけど、確かに浮ついてるとこみない。噂も聞かない。この集落で噂がないってことは火種もないってことだわよ。

「向こうが本気っていうことはあったんだが……申し訳ないことに、どうしてもこちらが応えられなくてな。努力しても、どうしもならないことはあると良く学んだ」

「え、ちょっと待って、雄太郎。何その突然のモテマウント。僕だって集落内アイドルとしてファンだったらたくさんいるんだよ?」

「彰兄、悲しいからやめときなよ。ていうか、まだ人生経験の差で負けたと思ってんの?」

「他に何があるっていうのさ」


「ああ、もう! 私は真面目に考えてるのに、みんな煩いよう」

 何。何よ、みんなして、その眼は。顔に「お前が言うな」って書いてあるけど、私はちゃんと考えてましたよ。本当ですよ。次の歌詞を思い出そうとしてたわけじゃないよ。

「だって名前って、親から子どもへの最初の贈り物って言うじゃん! いい名前つけたいの。一生使える、おじいさんだか、おばあさんだかになっても恥ずかしくない立派な名前を」

「そんなに気負うから、思いつかなくなるんだよ。いつもみたいに気楽に考えてみろって」

「もう、たっちゃん! 分かってる? 名前は気楽に決めちゃダメな奴なの!」

 このやりとり、百回はしてる気がする。何で分かってくれないのかなあ。妊婦をイライラさせるなんて胎教にも悪いんだから。ぷりぷり。

「ヒカリ姉の気持ちも分かるけど、ヒカリ姉って自分で自分の名前つけたとき瞬殺だったんでしょ? それで超いい名前思いついたんだからさ、きっと才能あるんだと思うよ。最初に言ってたやつがいいと思うけどなあ」

「俺もそう思う」

「僕も~」

 みんな、考えるの面倒になってない? そりゃ私とたっちゃんの子だから、そもそも清人と雄太郎と彰くんが考えないといけないことではないけど、お知恵を拝借したかったのに。この子が異世界一幸せになれるようないい名前。

「俺も、最初の奴が良いと思う」

 たっちゃんまで!

「俺もずっと考えてるけど、あれ以上を思いつかない」

 本当に? だってものすごく単純だったじゃん。

「幸せになって欲しいからサチ。本当にそれでいいの?」

「うん。母親に世界一幸せになって欲しいって願われて生まれてくるんだと思ったら、それ以上は思いつかない。俺だとどうしてもああなってほしいとか、こうなってほしいとか、欲が入っちゃうんだよ」

「欲?」

「大きく羽ばたかせたくなったり、強くならせたくなったり。あと、天下とらせたくなったり」

「家康とか?」

「アレクサンドロスとか」

 スケールが違った。さすが魔王。

「だから、いいじゃん、サチ。子どものこと一番に思ってる名前だよ。男でも女でも、サチで行こうぜ。あんまり身についてない言葉を弄り回しても心が籠ってるのには敵わねえよ」

 うん、心は籠ってる。幸せに、幸せに。願うのは、ただそれだけだもの。


 「サチ?」


 呼びかければ、赤ちゃんはお腹をポンと蹴り返してきた。

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