ー回想ー 悪魔から神へ
それはまだカルストンがフィールの家名を名乗る前の話。今日も彼は戦場を駆け回っていた。別に彼は脳筋でも戦闘狂でもない。しかし、彼の戦いぶりは勇猛果敢というよりは残虐非道という表現があっていた。それ故に敵に回った側からは『戦場に舞い降りた悪魔』と呼ばれるようになっていた。カルストン本人にしたらありがたくない表現ではあったが。
彼の獅子奮迅の活躍もあって戦いに勝利した。だが負けた側にしたら地獄の始まりであった。掃討作戦が開始される。くれぐれも無関係な民間人には手を出さないようにと厳命はされていたがそんな事は現場の兵士たちには関係なかった。逃げ遅れた住民たちはどんどんと虐殺されていく。その様子を見ても彼は見て見ぬふりをする事しかできなかった。彼にそれを止める権限がなかったのである。
また一人、兵士によって無関係な住民が殺されようとしていた。しかし、住民が命を落とすことはなかった。代わりに兵士が何者かによってボコボコにされていた。
「オヌシ、兵士である前に人間であろう。どうして無抵抗な人間を殺せるのじゃ」
恐ろしいほどの怒気を含んだ叫びに彼は思わずたじろぐ。
「そこのオヌシもじゃ、どうしてこんな蛮行を止めようとしないのじゃ」
怒りはこちらにも向かってきていた。しかし、彼はその言葉に反論する事ができなかった。
しばらくそこから動くことができなかった彼はその声の主の正体を知ることができた。
「もしかして、あなた様は大賢者ソアル様」
「いかにも。オヌシが悪魔じゃな」
「悪魔というのはいささか心外なんだが」
「ふん、まあいいわ。オヌシ、これからは人を生かす側にまわってみないか。殺し方を知っているのなら生かし方も心得ておるじゃろう。まだ良心が残っておるのなら」
「殺したくて殺しているわけではない。こうせざるを得ないからだ。殺さずにすむならそれにこしたことはない。しかし、わたしにできるのか、どうやって」
「オヌシの心根しだいじゃ。ワシの知り合いに優秀な医者がおってな。そいつが仲間を募集しておる。そいつが言うには戦いばかりで死傷者が続出する一方で直す側が常に不足している。戦場で生き残れる医療従事者が欲しいとな。オヌシ、どうじゃ。その力をそっちのほうにまわしてみては」
敵方兵士を殺すことにある種の嫌気を感じていたカルストンはその求めに応じた。
「この度は求めに応じていただきありがとうございます。なにぶんこのご時世医者になろうなんてよっぽどの変わり者と思われてますからね」
そう言って握手を求める男。
カルストンに対しこう言った。
「あなたが今まで何をしてきたなんて関係ありません。大事なのはこれからです。わたしがあなたとやろうとしていることはこれまでにないことなのですよ」
後に伝説の名医と称えられるリージェント=フィールの師としての最初の言葉であった。




