戦いはまだ続く③
対峙した二人はまずは様子見とばかりに軽くジャブを打ち合う静かな立ち上がりであった。クボタはそれで何かを感じたのか間合いをはずし距離をとる。その瞬間アンブラスは
「エリアハンマー」
と詠唱する。
すさまじい衝撃と圧力がクボタを襲うがクボタは慌てることなくプロテクションを発動させて威力を相殺させる。
「無詠唱でプロテクションを発動させるとは。なかなかナイスなことしてくれますねぇ」
「この技食らうの二回目だからな。もう見切ったぞ」
「なるほど。では、これはどうですか」
そう言ったアンブラスの手にはいつも間にか長槍が握られており、それをクボタに向けて突き出す。突き出された長槍を難なくかわしたクボタだが目にも止まらぬ速さで何回も突き出されてくる。
「危ねぇな、こっちは素手だぞ。だいたいどこからそんなもの出してきたんだ」
「冥土の土産に教えてやる、みたいなネタバラシはしませんよ。フラグはたてたくありませんから」
「何でフラグなんて事知っているんだ?」
「聖女様に教えていただきました。自分を窮地に追い込むような言動をするなと」
「まあ、意味としてはそういうことなんだけど。戦いの前に夢や思い出を語る奴は必ず戦死する、とか。というか、そんな事教えるんじゃねえよ、まったく」
「いいえ、これは大事な事ですよ。いい事を教わりました」
そんな事を語りながらもアンブラスは攻撃の手を緩めることなくさらに速度をあげていく。だが、クボタはそのすべてをかわしていく。
「見事なものですね。これだけの攻撃をかわしているのは」
「最小限の動きで最大限の効果、基本だよ」
「偉そうに語ってますけれどもね」
かわしているように見えてはいたが何発かは当たっているようで右腕には無数の傷ができていた。しかし、その腕をかばうことなくさらに隙を狙って間合いを詰めてくる。その気配はアンブラスも気づいていた。
「目的達成のためには傷付くことを恐れない、ナイスな心掛けですね。だけどね、それではあなた自身が持たない」
「脳内麻薬出まくりなんでね。痛みも恐怖も感じないんだよ」
と会話を交わしている最中にクボタはアンブラスのわずかにな隙を見つけた。その隙を逃さず懐に飛び込みみぞおちに右拳をぶちこむ。
拳をぶちこまれたアンブラスはいままで感じたことのない衝撃を身体の内部から感じた。
「バカな、このくらいのパンチなどどうってことないはずなのに」
「本当にただのパンチならな」
「何をしたというのです」
「あんたが着ている、聖衣っていうのは魔法攻撃に耐性があるんだよな。だけど触れた部分に直接魔力をぶちこんで身体の中に送り込んだらどうなるのかなって思ったら。結構なダメージになったみたいだね」
「直接ぶちこむって、ではその傷は」
「魔力をずっと溜め込んでたおかげでこっちにもダメージがきているんだな。でもこの傷のおかげであんた勘違いしてくれていたからこっちの意図がバレずにすんだ」
「ということは?」
「そうだよ、あんたの攻撃は全然当たってないよ」
「なんということでしょう。まったくもってナイスですよ。あなたって人は」
「じゃあ今度はこっちが攻撃する番だな」
そう言った瞬間クボタは側転のような仕草を見せた。これは意表をついたのではなくアンブラスの足首を掴みにいったのである。思いもしない行動に意表をつかれたアンブラスはなすすべもなく足首を掴まれさらに足首を掴まれた勢いのまま地面に寝転がされることとなった。
「こんな攻撃はこっちの人たちは見たことも聞いたこともないだろう。じっくりと味わいな」
そう言いながらクボタはアンクルホールドの体制にもっていく。こうしてクボタの反撃が始まっていく。
「すごい、これが戦いというものなの」
這い上がってきたアルビーは彼ら二人が戦っているのを見て思わず呟いた。
あら、ごめんなさい。あなたのことすっかり忘れていたわ」
傷だらけの身体を投げ出すように力なくへたりこんだアルビーに気づいた聖女がヒールをかける。
「私はいままで戦いというのをなめていました。こんなものだとは思ってもいませんでした」
「何もあれを真似しろとは言わない。あなたにはあなたの戦いかたがあるはず。それを探していきなさい。でもね、今はあのふたりの戦いをじっくりと見ていきなさい。きっと得るものがあるはず」
自分の考えの甘さを痛感するアルビーを優しく諭す聖女。二人はただふたりの戦いをじっと見つめるのであった。




