初仕事②
少しして慌てるように走り込んでくる若い男、かなり大きな荷物を抱えて苦しそうではあるが元気はある。
「遅れて申し訳ありません。装備を揃えるのに時間がかかりまして」
「万全の体制で望むのは感心するがこれでは重すぎていざというときに動けない」
「アドバイスありがとうございます。しかし、軽装だと不安でして」
「考え方は人それぞれだからね、それでいいというならかまわないけど。でも本番前に体力を消耗するのは良くない」
そう言ってクボタは空間収納で装備をしまう。
「ええと、空間収納ですか?いい能力持ってますね、それだけで食っていける」
「じゃ、行こうか」
クボタがそう促し、二人が頷いて歩こうするが男は事情が飲み込めていないようで
「黙っていうこと聞いてましたけどあなたは誰なんですか、姉たちと知り合いのようですけど」
「さっきそこの二人と知り合ったんだけどね、うちの子の子守りをしてくれるらしい。ワイバーン退治の依頼を受けたんで同行することになった。君はあの二人の弟ということでいいんだろう」
クボタが振り向いた先にいた二人が男に声をかける。
「そういうことだから。行くよー」
「僕がいないうちに何勝手に話進めてるんですか。ワイバーンなんて倒せるわけないでしょう」
「大丈夫だよ、この人強いから。昨日ワイバーン持ち込んできた人、討伐経験あるから」
男の心配は二人によってかき消される。
「それなら大丈夫か」
現場に向かう道中、エリンは女二人に必要以上にまとわりつかれてうっとうしそうではあったが悪気があるわけではないのでおとなしくなすがままにされていた。
「姉たちはああやってやさしい女だということをアピールしているのですよ。僕の時も必要以上にかまっていましたからね」
ディーマと名乗った男は歩きながら自分の身の上話をしていた。
「アピールというよりはそういう性質なんじゃないか。女は可愛いものには目がないから。親からみてもあの子は可愛いから」
あくまでも仮の親子関係であるにも関わらずクボタは本当の父親のような気持ちになっていた。
「僕らは姉弟ではありますが血の繋がりはありません。あの二人も僕も孤児院出身です。身をたてるには冒険者にとってなるぐらいしかなかったんです。あなたにはわからない感覚でしょうね」
「いや、わかるよ。俺だってここに来る前はグラディエーターみたいなことをしていた。 強くなって勝ち続けることでしか世間に認めてもらえなかった」
「どうやらあなたとはうまくやっていけそうだ。よろしく」
「こちらこそ」
二人は握手を交わした。クボタにとってこの世界ではじめて同性の仲間ができた瞬間だった。
「ところで気になっていたんですけど、何か追っかけて来てません」
「ああ、心配しなくていい。頼りになる相方だ」
そう言ってクボタが空を見上げるとグリフォンが飛んでくる。
「怖いかもしれないがこれも修行だ。よろしく頼む」
不安そうな表情を浮かべるグーリーとフォーリーだがわかったとばかりに一鳴きして、任務につく。
「グリフォンを使役するなんて、あなたは一体…」
「余計な詮索はなしだ。今は依頼をこなすことだけ考えよう」
そう言うクボタのそばですっかり女性二人になついたエリンが
「私もあの子達使役したい」
と訴えるが
「それはまた今度訓練しよう。この仕事はあいつらにとっては恐怖でしかないからな」
とクボタに諭され自分の希望を引っ込める。
「エリンちゃん偉いわぁ、お父さんの言うことはちゃんと聞くのね」
二人のうち姉と思わしきほうが感心している。
「姉さん、それは普通では」
ディーマはそう言うが
「どの口がそんなこと言うのかしら。あんたがエリンちゃんぐらいの時はこんなに聞き分けよくなかったわ。さんざんわがまま言ってたもんね。まあそれも可愛い弟だと思えばなんてことなかったけどね」
「今それを言う」
ディーマは恥ずかしそうである。
「仲いいんだね」
クボタがそう言うと
「そうよ。この子と孤児院で出会ってからこの子の面倒ずっとみてきたのよ。今も可愛いけど昔はもっと可愛いかったのよ」
「いい母親になれそうだ」
「そう思うなら結婚しない。エリンちゃんといい関係気づけそうだし」
「ヤストを取らないで」
エリンは二人の会話に割って入る。
「あら、エリンちゃん嫉妬してるの。いいわねぇ娘に慕われる父親って。ますます気にいったわ」
「今はその話はなしだ。仕事に集中しよう」
「あの、姉が申し訳ありません」
もう一人の女性が謝罪してきた。
「姉は可愛いものを見ると『可愛いは正義』とばかりにまとわりついてしまうのです」
何故その言葉を知っているのかは謎だがそういう性質なのは理解できた。そのためには手段を選ばないことも。
「今さらですが私はレーン、こっちの姉のほうがリーシュと申します。名乗りが遅くなって申し訳ありません」
妹のほうは常識人のようだ。
そういえばまだ名乗ってなかったのと思い
「ヤスト=クボタだ。一応名持ちだが大したことはない。今さらだがよろしく」
そう言うと三人はやっぱり名持ちだからかと納得したような表情をした。
「グリフォンを使役するぐらいだからそれなりの出自だとは思ってましたけど。それがなぜグラディエーターなんて」
「クボタと言う名は聞いたことないだろう。とっくに消えた名なんだよ」
とっさについたでたらめだが三人はなるほどと信じたようだ。
そんな会話をしているとグーリーとフォーリーが血相を変えて戻ってきた。
ワイバーンの大群を引き連れて。
「さあ、先頭開始だ」




