初仕事①
翌朝、前日とは違ってシスターデルマは機嫌よく朝食を用意していた。もともとこの教会は聖職者の研修施設も兼ねていた。そのため人の出入りが激しく賑わっていたのだが政変の余波でみんないなくなってしまい、何もなかったのかのように静まりかえっていた。そこへやって来た聖女と大賢者、そしてクボタとエリン、特にクボタは結構な資金をもたらしてくれそうな存在、手持ちが尽きかけていた教会にとってスポンサーになってくれそうなクボタはありがたい存在だった。
「おはようございます」
起きてきたクボタに声をかけるシスター
「昨日といい、今日といいお世話になります」
用意された朝食を見てクボタは恐縮する。
「いいんですよ、昨日はついああいうことをいってしまいましたが。ちょっと前まではこれが普通だったんだなと思い出しました。グリフォンなんか来たもんだから慌てましたけど、で、これからどうなされるですか?」
「冒険者登録したんで一仕事してこようと思います。いつまでもお世話になるわけにはいきませんから」
「いても構いませんよ。どうせ誰も来ませんし。子連れだと大変だろうし」
「それじゃご厄介になるとしますか、しかし働かずもの喰うべからずという言葉がありましてね、これから一働きしてきます。いろいろ試したいこともあるんで」
シスターとクボタが話し込んでいるとエリンや大賢者、聖女といった面々が集まってくる。
「そういうことで今から冒険者として仕事をしてくる。そこの二人、ただ飯くらいに成りたくなければついてこい」
どういう訳だか上から目線でサーヤとマヤに命令口調で話すクボタ、当然二人は反発するが
「エリンの信頼を得たければおとなしく言うこと聞いといたほうがいいと思うよ」
と言うクボタの横で
「そういうこと」
と頷くエリンを見ておとなしく従うほかなかった。
朝食を食べ終わりいざ冒険者ギルドに向かおうとするクボタを慌てて追いかけるエリン
「私も行く」
「子連れだと仕事が受けにくいだけどな」
渋るクボタに
「私も冒険者登録しているし」
と反論するエリン
「連れていってやればいいだろう。嬢ちゃんだって何かの役に立つ」
大賢者の後押しもあってサーヤとマヤ、ロネとルリのフェンリル二頭、グーリー、フォーリーと名付けられたグリフォンと共にギルドに向かう。
ギルドに到着するなり受付嬢に呼ばれる。
「ヤストさん、来てくれたんですね。早速ですが受けてもらいたい依頼があります」
そう言った後、エリンに気付いた受付嬢
「エリンちゃんも一緒ですか」
「どうしても一緒にいたいと言われてね」
「それじゃ無理ですね」
受付嬢は依頼を引っ込めようとしたが
「そんなこといってもらえるのは今だけだぞ、この瞬間を大事にしなよ」
とそばにいた冒険者の一人が声をかける。
「うちにも娘がいるんだが。最近は口も聞いてくれないんだ。父親は年頃の娘には嫌われるもんなんだ。後悔しないように今のうちに愛情を注いでおけよ」
「ご忠告感謝する。肝に命じときます」
「エリンちゃんっていうんだ、お姉さんと遊ぼうか」
そうエリンに声をかける冒険者と思わしき女性、むさ苦しい男社会の冒険者業界だが最近は女性の冒険者も増えてきている。
「あたしがこの子の面倒見るんで安心して依頼を受けてください」
「お姉さん誰?私、ヤストと一緒がいい」
不意に現れた女性にエリンは言う。
「本来それは私達の仕事なのに」
サーヤとマヤが呟くが
「アドラさん、こいつらの登録をお願いする。こんなんだけど初心者なんで遠慮はいらない」
とクボタがアドラに告げたためカウンターに連れていかれる。
「で、せっかくの申し出だが本人がそう言ってるし…」
クボタが言い終わるまえに悲鳴とも歓声ともいえない声が聞こえてきた。
「なに、この子、かわいい。連れて帰りたい」
声がした方を見るとロネを抱いている一人の女性
「ちょっと姉さん何しているの」
と先ほど子守りを申し出た女性が問うも
「ねえ、この子うちで飼おう。無茶苦茶かわいい」
と相手にしない。
この女性フェンリルに不用意に抱きつくなど無謀にもほどがある。さすがは冒険者といったところか。しかし抱きつかれたロネはそのまま動かないし、それを見ているルリは羨ましそうな表情をしている。
「人間が大好物というのはそういう意味もあるのか」
クボタの呟きを聞いたロネとルリは正気にかえり、クボタにすり寄る。
「こいつら俺の従獣なんだけど。勝手に自分のものにしないでくれ」
「これは失礼した。かわいかったものでつい。あなたは確か昨日野盗を捕まえた人だね、パーティー組みましょう」
「ちょっと姉さん、なにいきなりそんなこと言い出して」
「悪い話じゃないでしょ。この人結構強そうだし、レーンにとってもそこのお嬢ちゃんと一緒になれるし、私もこの子達と仲良くなれるし」
どうやらこの二人姉妹のようである。
「俺は組むとは言ってないしまだ依頼を受けていない。勝手に話を進めないでくれ」
「依頼の内容ならわかるわ、ワイバーンの討伐よ。最近、大量に発生して通行人を襲撃するので困っていたのよ。あなたがいくら強くても一人じゃ無理よ、しかも子連れだし、飛べる相手だとこの子達も頼りないでしょ。だから私達が手伝ってあげる」
「確かに依頼はそれで合っています。是非とも受けていただきたいのです」
サーヤとマヤの登録手続きを終えた受付嬢アドラがそう告げる。
「その依頼受けるよ」
「ありがとうございます。よろしくお願いいたします」
「それでこの二人にはこれで」
クボタがアドラに渡した依頼はゴブリン退治
「初級冒険者には定番のゴブリン退治だ。これくらい二人ならできるだろう」
クボタはサーヤとマヤにそう告げる。
不満そうな表情をする二人に
「こいつらつけるからやってこい」
と言うとロネとルリは
「どうして別行動なの、それにゴブリンは不味くて食えたものじゃない」
と不満そうにするが
「食うことを第一に考えるじゃない。あいつらの面倒をみてやってくれ、二人だけじゃ不安だからな」
「仕方ないね、今回は言うとおりにするよ」
とフェンリル二頭は納得したようだ。
「我らとこの二頭だけで行けと」
サーヤとマヤはそう言うが
「できないと?そんなことでエリンの護衛が務まるとでも」
そう言われて二人と二頭は仕方なくゴブリン討伐に向かう。
「あの子達がいなくなったら私がパーティー組む意味がなくなる」
その呟きはクボタには聞こえない。
「お姉さんたちよろしくね」
エリンがそう言ってコミュニケーションをとろうとする。
「気に入られたようだな。さあ行こうか」
クボタはワイバーン討伐に向かおうとするが姉妹は
「ちょっと待って、まだ弟が来てないの。もう少し待っていて」




