一日の終わりに
「さあどんどん召し上がってください」
先程までのお怒りモードから一転歓迎モードに切り替わったシスターデルマは切り分けた牛肉をどんどん網に乗せていく。
フェンリルたちが狩ってきた牛を専門業者のように鮮やかに解体していく様はとてもシスターとは思えないほどだった。そういえばこの人す入口の修復もやっていたしシスターといえどもこの世界は大変なんだとクボタはつくづく思うのだった。
「う〜、久しぶりにまともな食事にありつけた」す
とサーヤとマヤは涙を流しながらがっついている。
一方でエリンや聖女、大賢者はゆったりと落ち着いて上品に食べている。エリンの楽しそうな笑顔を見て俺はここにいていいのかと思ってしまうクボタなのだがそれを見抜いたかのように聖女が声をかける。
「エリンちゃんにとってあなたは大切な人なんだからいなくていいなんて決して思わないこと。こんな何でもないことが当たり前だとエリンちゃんが思えるようにするのがあなたの役目、やる前から諦めないで」
「そうだな。俺はまだ何もしていない。ありがとう、大事なことを思い出させてくれて」
「これも私の役目、生きていく目標ができれば頑張れるでしょう」
「なんかね、あんたがはじめて聖女だと思える瞬間にであったが気がする」
「失礼ね。聖女の自覚はあるのよ。それに私にはアイネローゼ=アギレラというちゃんとした名前があるの。あんたではなくちゃんとアイネと名前で呼びなさい」
「へつ!!」
なんかとんでもない発言に驚いたクボタ。アギレラはさらに続ける。
「エレノアちゃんは『名前なんて個体識別のための単なる符号』なんて言ってたけど人にとって名前はとても大切なもの。大事にしないとね。だから今後はクボタとは名乗らずにヤストと名乗りなさい」
「本当はヤスノリなんだ。エリンちゃんと言えないからヤストになっているけどな」
「だったらヤストで通しましょう。その方がいい」
「ああ、そうするよ、でも何故だ」
「あのねヤスト、この世界でファミリーネームいわゆる姓を名乗れるのは特権階級だけなのよ。だからヤスト=クボタなんて名乗れば途端に怪しまれる」
そうだった。すっかり忘れていた。正体を知られる訳にはいかないのだ。
しかしクボタは気付いた。
「アイネさん、さっきこの世界といったな。まるで別世界から来たような言い方に聞こえたんだけど」
「そうよ、私もあなたと同じ。この世界に転生してきたのよ」
「ということは俺の正体を知っているということか」
「知ってるも何も待っていたと最初に言ったでしょ。何もかもお見通しよ。こうやって何人も世話してきたんだから」
「ということは?」
「この世界には私やあなた見たいな人が何人もいるということ。でもあな
たは特別ね、いろいろと能力をもらう代わりに重い使命を負わされている」
「だが、その能力が何かは教えてもらっていない」
「そうね、能力がすごすぎて力に溺れる可能性ががあったから。あなたは特に精神面で問題があるから、少しずつ理解していきなさい。まずは訓練していくことね」
「そうするよ、明日から訓練と実益を兼ねて冒険者として活動することにするよ」
こんな会話を交わしながら夜は更けていく




