鉄ちゃんの咆哮
アップデートの次の日、雫はいつも通り学校の教室で本を読んでいた。雫が辺りを見渡すといつもよりも人が少ないことに気がつく。不思議に思っていると後ろからいかにも疲れていますという様な声で雫を呼ぶ小枝の声がする。
「おはよー、しずちゃんはいつも通りだね。」
「おはようです。さえは眠そうです。なんかあったです?」
「昨日は殆ど徹夜でゲームしてたからね。というよりも興奮して眠れなかったんだけどね。今日、いつもより人が少ないのもそういったのが理由だと思う。」
「へーそうなんですか。確かにゲームは凄いですけど、そんな体調崩してまでやるもんなんです?」
「やるね。まあこれはファンタジーとか好んで読んでる人とかしかわからないかもね。それよかしずちゃんって1日どのくらいゲームやってるの?」
「私はですね、4時前に家に帰ってそれからゲームを始めて遅くても8時にはゲームを止めてるから、長くても4時間ですね。結構やってるです。ゲーマーです。」
「全然ゲーマーじゃないよ。よくそんなんで我慢できるね。私なんて一度始めたら朝までだってやっちゃうよ。」
そんな話をしていると教室に先生が入ってきたので話は終わりとなった。
放課後の帰り道、雫は小枝と一緒に歩いていた。
「そういえばさえはどんな職業にしたです。」
「私?私は「シーフ」にしたよ。」
「しーふ?何ですかそれ、羊ですか。」
「それはシープね、じゃなくてシーフってのは盗人とかって意味だよ。」
「さえは泥棒になったですか。大丈夫です?捕まったりしないですか。」
「大丈夫だよゲームだし。それよりしずちゃんはどんな職業に就いたのさ。どうせ薬師とかの生産職でしょ。」
「ふふふです。私は錬金術師。しかも国家ですよ、国家。」
「えっ錬金術師。さすがはしずちゃん。どうしてそんな地雷職を選べるんだか。それじゃあ全然進んでないでしょ。」
「錬金術師強いです。大丈夫です。」
「まあしずちゃんがいいならいいけど。」
小枝は雫が錬金術師になったことに驚き雫が2ndジョブに就いていることを聞き漏らしていたため。全くゲームを進めていないと勘違いしてしまったのだ。
雫は家に帰り、いつも通りゲームを始める。いつもならゴーレム狩りをするところなのだが、今日の雫は少し違った。
「アンフェのお陰でわざわざ倒しにいかなくてもよくなったです。なので今日からはどんどん先に進んでいくです。」
と言い、進んでいく。いつもは鉱山の中腹に行くのだが、目指すは鉱山の山頂であった。
鉱山での戦闘にわんこや鉄ちゃんはかなり慣れていた。そのため爆弾岩を避けながらでも余裕をもって戦うことができた。山頂までの道のりは、かなりの数の敵モンスターが出現したが、わんこたちの敵ではなかった。
敵を倒すということは、その分味方のレベルアップに繋がる。わんこはレベルアップするによって、影魔法のレパートリーが、アンフェは回復魔法が「ヒール」以外にも覚えることができていった。そんななかレベルアップによる恩恵を一番受けたのは鉄ちゃんであった。覚えたのは魔法。「竜魔法」であった。そして雫念願の雫以外の遠距離攻撃である魔法を覚えたのだ。その名は「鉄竜砲」。竜のブレスのようなものであった。「鉄竜砲」の威力は中々のもので、これがあればグリフォンも楽に倒せたであろう。
そんなこんなで雫たちは山頂にたどり着いた。するとそこには3体のゴーレムが立っていた。今まで出てきた属性ゴーレムの進化系であった。
「おお何だか強そうです。」
雫はそのゴーレムたちを警戒しているが、わんこや鉄ちゃんはそんなもの眼中にないと言わんばかりにゴーレムたちの後ろを睨み付けていた。
「わんこ、鉄ちゃんどうしたです。敵はそこにいるですよ。」
そんなことを雫がいったその時。
「ぎゃあぁおぉぉーー」
赤い竜が姿を現したのだ。雫とアンフェはその咆哮に心底恐れを抱いてしまったが、わんこと鉄ちゃんは違った。そしてたぶん初めてであろう。雫は初めて鉄ちゃんの声を聞いた。
「グガァァーー」
この叫び声が開戦の合図となった。




