平凡な~編
1月1日。世間にとってはめでたいだろうが、公太郎にとっては毎年やってきていい加減にマンネリしてきた平凡な日がやって来た。
だが、今年はいつもとは少し違っていた。
去年トラックにひかれて神様に出会ってから始まった異世界のチート転生人生。いろいろ危ないこともあったが、いろいろな出会いもあった。
その旅で出会ったチート能力を持ったフィオレ姫こと、同じ現実世界の住人愛美と公太郎はネトゲで会う約束をしていた。
「ログインっと」
「あけましておめでとう、公太郎ちゃん」
まだネトゲというものを始めたばかりで慣れていない公太郎がその世界に入ると、この世界に慣れているらしいフィオレはすぐにやってきた。公太郎はチャットを打つ。
「おめでとう、フィオレ。ネトゲで会うなんて俺達らしいよな」
「そうよね。でも、リアルでも仮想でも会えるということに変わりはないよ」
「そうだな・・・って、お前もうレベル80かよ。この前80までの上限が解放されたばっかりだろ。俺まだ21だぞ。追いつけんのかよ」
「頑張って。強いって気持ちいいよ」
「まあな。それは分かるけどよ。で、レベル80のチート姫様はレベル21の勇者様をどこへ誘ってくれるんだい?」
「今ちょうどお正月のイベントをやっているの。スライムを倒すような簡単なクエストだから公太郎ちゃんのレベルでも簡単に行けるよ」
「そうか、俺でも簡単か」
少しの悔しさは感じるが、姫の前ではかっこいい勇者であることが主人公というものだ。
今に見てろと思いながら、公太郎は姫の誘いを受けた。
「じゃあ、行こうか」
その時だった。
「ハッピーニューイヤー!」
公太郎の部屋にいきなりちっこい少女の姿をした神様が乱入してきた。天井からいきなり現れて公太郎の上に覆いかぶさってくる。公太郎は床の上に倒された。
「うわあ! 神様あ! なぜここにい!?」
「新年とは神に祈りを捧げるめでたい日でしょう? この神からじきじきに会いに来てあげましたよ!」
「いいからどいてくれ。重い」
「神に向かって重いとは何ですかー! あうわっ!」
公太郎は神がどく前に神をどけて立ち上がった。そこに少女の声が掛けられる。振り向くと異世界で見知った少女が異世界で見知ったいつもの魔法使い風のファッションではなく、日本風な新年にふさわしい振袖を着て立っていた。
「あの、公ちゃん。あけましておめでとう」
「エンデも来てたのか」
「うん、今日はめでたい日だからって神様に誘われてついてきたんだ」
いつも活発で元気のあるエンデとは少し違う、どことなくもじもじとした控えめな様子だった。自分の住む世界とは違う別の世界というものにまだ慣れていないのかもしれない。そんなことを思いながら公太郎は彼女の妹の姿を探した。
「そっか、ミシルは」
言いかけた時、背後から調子の弾んだ声とともに玩具の口をぱかぱか鳴らすような音が聞こえた。公太郎は振り返る。そこにいたのは獅子舞だった。新年の縁起が良さそうに小躍りしている。
「はっはー、新年から神に倒されるとは情けないぞ、少年よ! そんなことで世界を救えるのかー?」
「なんだ? カボチャ? いや、獅子舞か?」
「そうとも今日のボクはカボチャではない! ミスター獅子舞だー!」
恥ずかしがりやのミシルは前はミスターカボチャを名乗り正体を隠していた。今日はどういうわけかミスター獅子舞だった。
「神様が新年はこの恰好が人と自然に触れ合える姿だって助言してくれたんだよ」
エンデがこっそり耳打ちしてくれる。公太郎は納得した。
「そうか、神の言葉なら信じるのも仕方ないか。だが、人と触れ合えるのはいいが、少し調子に乗りすぎだぜ、ミスター獅子舞!」
「おっと」
公太郎が掴みかかると、ミスター獅子舞はひらりと身をかわした。横に回り込んで再び踊り出す。
「そんな鈍重な動きでこのミスター獅子舞を捉えようとは片腹痛いわー!」
「やろう、身軽な奴め。だが、ここが狭い部屋だったことがわざわいしたな。神様!」
「はいな!」
公太郎が指をパチリと鳴らすと神様はミスター獅子舞にしがみついて動きを封じた。公太郎に気を取られていたミスター獅子舞は完全に虚を突かれていた。
「うおー、何をするー! 離せー!」
「正体を現せ! ミスター獅子舞!」
公太郎は狭い部屋の狭い距離を一足で詰めて、ミスター獅子舞の仮面を取ってその正体をさらけ出した。おびえた小動物のような目が公太郎を見上げる。
獅子舞の正体はエンデの妹ミシルだった。
「まあ、知ってたけどな。あけましておめでとうな、ミシル」
「・・・うん、おめでとう」
ミスター獅子舞の仮面を失ったミシルは涙目になって緊張していたが、それでも頑張ってあいさつをしてくれた。神様が元気に声を張り上げる。
「では、初詣に行きましょう。人々がこの神に祈りを捧げる舞台に!」
「みんなが祈るのはお前じゃないとは思うが、まあ行こうか。っと、その前に」
公太郎はチャットを打ってフィオレに連絡した。フィオレは公太郎がトイレか郵便受け取りにでも行ったのかと思っていたらしい。そして、返ってきた答えは「わたしも行く!」だった。
「じゃあ、神社の前で待ち合わせな」
「分かった。今から用意するから少し時間かかると思うけど、待っててくれる?」
「ああ、いくらでも待つぜ。姫を待つのも主人公ってものだからな」
「ありがとう、公太郎ちゃん。出来るだけ急いで準備していくからね」
「慌てて飛び出してトラックにひかれるんじゃないぞ」
「うん、気を付ける」
フィオレがログアウトして公太郎もゲームを終える。
「ねえ、公太郎。早く行きましょうよお。人々が神を待つ希望あふれる舞台へ~」
「ああ、行こうか」
公太郎は背中にしがみつく神様を降ろして立ち上がった。
「人々がこの主人公一行を待つ舞台ってやつにな!」
平凡な日々は終わりを告げる。それはまた新しい日の始まりだった。




