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我が家のリビングソファには忍兄とセスさんが並んで腰掛け、オーディオから流れてくる音楽に耳を傾けていた。

ソファと揃いの1人掛けにはセッカを膝に乗せた私とアル君がそれぞれ座り、コウは大きなクッションを前に抱えて、ラグの上で胡坐を組んで座っている。


リビングのオーディオから流れるのは、モダンジャズを代表するピアニストが作曲したと云われているしっとりとしたピアノの旋律と、モダンジャズの帝王と呼ばれるトランペット奏者の語るような演奏。さすがに音楽家であるセスさんは興味心身に聴き入っているようだ。


「初めて聴く旋律だよ。凄く心地良い」

「お、分かるか♪」


祖父、叔父から受け継がれたジャズ好きの忍兄は嬉しそうだ。

リビングにあるのはCD音源だが、兄の部屋には2人から譲り受けたレコードとプレーヤーが大切に保管されている。


「私は眠くなる…」


いや、正直な感想です。はい。


「いや、アニソンしか聴かないお前に理解してもらおうとは思ってないから」

「雫さん、わ、私も好きですよ。あにそん♪」

「アル君…君はもう立派なおたくだよ」

「免許皆伝だな」

「あに…そん?」

「セス、そこに食らいつくな…」


ふふふ、こうなったらセスさんも洗脳しちゃうもんね。


「ああ、セスさんは聴いた事がないですね」

「こら、アル。アニソンを掛けようとするな!!」


その時、流れてきたのはアニソンではなくて、とあるアイドルグループ新曲。

最近何を熱心に聴いているのかと思ってたら、これを聴いていたのか…。


「ん…これって?」

「やっぱりセスさんもそう思いますか?」


どうやらセスさんとアル君の間だけに通じる何かがあるようだ。

いぶかしむ周りの反応にアル君が説明する。


「実は、15年程前に魔族国で爆発的に流行った流行歌がありまして」


その流行歌とやらに、日本アイドルの曲が似ているらしい。

しかし、魔族国にもアイドルいたのか…。


「これまでに無かった音楽性とそのパフォーマンスで瞬く間に広まった伝説の歌手。その名もMZK25!!」


ブホォっと忍兄と私が同時にお茶を噴出した。ゲホガホと咽返っている忍兄の背中をセスさんが心配そうに擦り、私はお茶で濡らしてしまったセッカに謝った。


「そ、それは何か?やっぱ魔族(MAZOKU)国の略なのか?」

「地名からきてるならそうだよね…人数は足りてないけど」


忍兄と私で顔を見合わせる。


「アル君、15年前のアイドルグループなのんだよね?」

「え?はい、私が11か12歳の時ですから」


アル君はそのアイドルグループの熱烈なファンだったらしい。しかも魔族国と交易のあった此処ノクスでも当時は高い人気を誇り、あのシャール様までもMZKファンクラブの会員だったとか。要らんわ!そんな情報っ!!


「たった1年の活動期間の後で急に引退してしまって…ファンとしては驚き嘆いたものでしたよ」


あれが私の青春でした。なんて懐かしみながら、オーディオから流れてくる日本が誇るアイドルグループの可愛い声に聴き入るアル君。


「ジャンルは違うけど僕も知っているよ。何でも当時絶大な人気を誇ったアイドルグループが急に表舞台から消えたのって、仕掛け人であるプロデューサーが失踪したかららしいね」

「セスも知ってるのか?」

「そりゃ、有名だったからね。僕はまだ幼かったけど、数々のヒット曲を生み出した伝説の音楽プロデューサーだよ」

「…あーアル君。ファンだったんだよね。その曲歌える?」

「勿論です。喜んで!!」


アル君の意外な美声で紡がれたワンフレーズは特に有名らしい。それを聴いた忍兄は、頭を抱えて込んでしまった。


「雫…どう思う?」

「どう思うって…めっちゃパクリぢゃん」

「だよな…15年前って幾つだあのアイドル?」

「いやいや年齢どうこうよりあの曲、去年だか一昨年だかの曲だし」


そう時期が合わないのだ。アル君が歌った15年前のその曲は、日本の最近のヒット曲…のパクリ。いやいや、どっちがパクリなの?


「あの……何か問題でも?あっ私の歌下手でした??」

「いやいやいやいや…意外な美声で驚きました。アル君とカラオケ行くのも良いねぇって、そうじゃなくって…」



「…渡り人だな」


忍兄の結論も私と一緒らしい。


「その歌を広めたプロデューサーとやらはおそらく渡り人だ」

「え、ええー!!」


「あれ?セスさんは驚かないんだね?」


きょとんとしているが、特に驚愕している訳ではないらしい。


「あ、そういう噂があったらしいから」

「…噂」

「うん、そのプロデューサーが魔人族じゃないってのは業界人には有名な話で、どこかの人族らしいのだけどその出自は一切不明。人族でありながら魔族国にいたのは、実は異界からの渡り人だったからといわれてたよ。突然失踪したのも、異界人だとバレてどこかの貴族や西国が拉致監禁したとか、無事に元の世界へ戻ったんだとか噂は色々。中には国王に見初められて離宮で暮らしているなんて話もあったくらいだし」

「…と、都市伝説みたいな人だね」

「でも何で?…何でシノブ達は渡り人だと思ったの?」


セスさんの何気ない質問に、アル君と私達兄妹が徐に視線を合わす。コウやセッカにはそのうち言おうと思っていたけど…チラリと兄の方へ視線を投げかける。ねえ忍兄ぃ、セスさんには言っていいの?


「…あー、セス。今朝話したよな?」

「今朝?」


忍兄がセスさんの手の上に自身の手を重ねた。

事情を知らないセッカとコウも、私達兄妹に注目している。


「俺と妹は…渡り人だ。おそらくその歌を広めたヤツと同郷の」



分かる方、いらっしゃったいましたか?

はい、作中で聴いていたのはマイルスのアルバムより「Blue In Green」です。いい曲ですよ~



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