33
忍ターンです
「風呂沸いたぞぉー」
妹に声をかけると、保護した魔人族の少女ときゃいきゃいと賑やかしく風呂場へ消えた。
小柄な雫と小学生くらいのセッカなら、一緒に浴槽入っても大丈夫だろう。潮で冷えた身体を温める為にも、帰宅後すぐに風呂へ放り込む。
身体が衰弱している銀狼族のコウに風呂は無理だが、アルが魔術で綺麗に出来るらしいので頼んだ。魔術に耐性がないのに大丈夫なのかと問えば、体表面を魔力で撫でるようなモノだからそれ程影響はないらしい。
とりあえず静の部屋のベッドを整えて意識のないコウを休ませた。妹のベッドに男を寝かせるのは妙な気分だが仕方ない。
ついでに客用の布団を雫の部屋へ運びこんでおく。部屋が狭くなるが、セッカはこの部屋を使ってもらおう。
1階に降りて夕飯の支度をしているとアルが部屋から出てきた。今日の夕飯はカレーだ。すっかりカレー好きなアルが匂いにつられて出てきたのだろう。
「いい匂いですぅ……」
「これでストックにあった最後のカレールウを使い切ったから、アルにとっては最後のカレーだな」
「ええぇー…こ、これで最後……」
面白いほど肩を落とし、煮込んでいる鍋を見つめている。
「カレールウは最後だが、スパイスならあるぞ」
「すぱいす……それじゃ、今後もカレーは食べられるのですか?」
「んー、無理だな」
途端に涙目になるアル。
「静がスパイスからカレーを作ってたんだが…俺も雫もルウでしか作り方は知らんぞ」
ノクスは貿易港だという事もあり、米や煙草の葉は手に入ったが、日本が誇るカレールウやレトルト食品などは当たり前だが無い。カレーに使うスパイスももしかしたら流通している可能性はあるが、市販のルウを使い慣れた自分達には使い勝手が分からないのだ。
研究熱心なアルならば、そのうちカレーで使うスパイスや配合を解き明かすかもしれないが…。
「ま、味わって食べろよ」
「………はい、そうします」
「あの子達の親は見つけられそうなのか?」
「難しいですね。花人族は魔族国の中でも特殊な種族ですし、下手な相手に引き渡せば今回の二の舞になりかねません」
アルから聞くところによれば、魔人族の中にも貴重な花人族を欲しがる輩が多いらしい。しかも性別が未分化で未だパートナーを決めていないセッカを引き渡すとなれば、どこから横槍が入るか分からないのだ。
「まあ、しばらくはセッカとコウも家の子だな…アルお前、手出すよなよ」
「だ、だ、出しませんよー。あの子13歳ですよ」
「だってお前ロリコンだろ」
「何でそうなるんですか!!」
「そりゃ、幼児体形の雫に懸想するなんてお前くらいだし…あいつもある意味、未分化な身体だな」
「し、雫さんは立派なレディです。心配するならシノブさんの方が危険でしょう!!ストライクゾーンが広すぎなんですから」
「ああーないな。未成年は守備範囲外。しかも花人族ってあれだろ……一夫一婦制?」
「日本国もそうだと思いましたが…」
「婚姻はそうだが、花人族ってのは生涯1パートナーてんだろ。駄目だわー、重すぎだわー。生涯でひとりしか経験しないってどうよ。俺、快楽主義だから耐えられん。俺なんかを選んだ花人族は心労で衰弱すると思うぞ?」
「ま…そうですね。浮気相手が男女ともありえるわけですから…というか浮気前提ですか?」
男2人で雑談している間に、白米が炊き上がった。アルが皿を用意していると、ほんのり湯気をまとった2人が風呂から上がってくる。
「いい匂い、今晩カレー?」
「かれぇ?……」
「はい、美味しいですよ。セッカさんも気に入ると思います」
アルが皿にご飯を盛り付けながらカレーを熱く語りだした。
「ちゃんと頭乾かさないと風邪引くぞ」
そういって花人族の少女の前に屈み、手にしているタオルで銀糸の髪から水分を拭き取る。髪が長いので乾きが遅いのだろう。少女をソファに座らせると、雫からドライヤーを受け取り髪を乾かす。雫のピンクのスウェットを着た銀髪の少女は恥ずかしそうに俯いたが大人しくしている。雫も幼い頃は、風呂に入れてこうして髪を乾かしたなぁと、懐かしく思いながら少女の頭を撫でた。
「ほら、出来たぞ」
「………はい」
「忍兄ぃ…セッカ誘惑しないの」
「してねぇーだろ」
「存在そのものがしてるんです。セッカ、こっちおいで」
風呂上りで茹だったタコの様になった少女は、ペコリと頭を下げてダイニングの方へ行った。幼い魔人族の少女を忍の魔手から守るように、雫はセッカを隣に座らせる。
カレーライスの見た目に驚いていたセッカだが、アルが美味しそうに食べる姿をみて一口スプーンを口に入れた。
「―――美味しいぃ♪」
我が家は中辛なので小鍋にカレーを取り分け、フルーツの缶詰を混ぜて甘口に仕上げたのだが、どうやら口にあったようだ。
皆が夕飯を食べている間に粥を作る。2階で寝ているコウの分だ。まともな食事をしていなかった少年に、カレーなんて刺激物は無理だろう。アルが用意してくれた鎮痛解熱薬を粥と共にトレイに載せた。我が家にも鎮痛剤くらいは常備しているが、この世界の人間にとって自分の世界の薬が良いとは限らない。免疫のない身体に異世界の薬を入れて効きすぎるのも恐ろしい。
2階に上がり、静の部屋のドアを開ける―――と、首筋に鋭利なモノを突きつけられた。




