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船の先っぽがない…
甲板での一戦を覚悟していた一同だが、どうやら相手はそれどころではないらしい。
船首がない、そう船の前方は無くなっている。まるで爆弾でも投下されたかのような惨事になっていた。訳が分からないが好機だ。今のうちに船から逃げ出そう――と思ったが、結構岸から離れてるなぁ…。
「ふ、ふねが…わたしの積荷が…」
あ、おっさん壊れたかな?とりあえず、このまま放置すると船と一緒に溺れ死にそうなので、手にしたナイフで拘束を解いた。
「ちょっ…雫、何やってんだ!!」
「船沈む、縄とくしないと溺れる」
「こんな奴、死んで当然だ!!俺たちは売られかけたんだぞ」
まあ、やっぱ怒るよなぁ。コウ達は酷い目にあってるし。
「コウ、悪い人だから殺す良くない。それする、自分も悪い人」
「お前に俺たちの何が分かるっ!!」
ああ、それ言っちゃう?まあ怒りはごもっとも。
「怒鳴るしない。セッカ、怯えるしてる」
「………」
「後ろ見るして」
コウとセッカは私が指示した方を見る。まだ遠いが他の船、それも帆に辺境伯領を示す紋章を印した船がこちらへ向かってきている。救助船?日本で言うところの海上保安庁の船なんだろうか?
「船沈む、でも悪い人捕まる、私殺すしない」
結構な速さで船が傾いているので、早々に離れないと船に巻き込まれて沈んでしまう。沈没する船の側にいては渦に巻き込まれてしまうし、縄で拘束されたままでは泳いで船から離れることは難しいだろう。いくらキモ男が悪人でも、死ぬと分かってて見捨てるのは寝覚めが悪いというものだ。他の船員たちも海に飛び込み船から離れているが、近づいてくる船が海上保安庁のようなものならば、船員たちを捕縛してくれるはずだ。
そうノクスの海岸にはビーチがない。港も岩場を切り抜いた岸壁だ。なのでちょっと港を離れるととっても深度が深いらしい。そんな所で沈没船に巻き込まれて海底にのまれたらまず助かりません。
「コウ……」
「……分かった」
セッカに促されるように、コウが肯いた。
「キモ男…他に奴隷、捕まえた人、いるか?」
ぶんぶんと首を横に振って否定した。
この船でずっと拘束されていたセッカやコウの話では、他に捕らえられていた人はいなそうなので、キモ男の縄を解き海へ蹴落とした。そのくらいは許されるよねー。
私達も船から飛び降りると、近くに浮いていた大きな木片に捕まりビート板代わりに使う。怪我で動きの鈍いコウを木片の中央につかまらせて私とセッカで押し泳ぐ。流石に寒い、冷たい、服が重たい。ばしゃばしゃとバタ足で頑張っていると、ギャアギャアと騒がしく海へ飛び降りてくる赤い塊が5つ。忘れてた…あいつらも居たんだったね。上半身を赤いマダラ模様でペイントした5人が騒がしく泳いでいた。
必死に泳いだ。とにかく離れたい、早く岸に上がりたい。振り返ると、まだそれ程に離れていない距離で大きな船が傾いていた。
「………うそ」
「雫さん?」
「どうした?雫」
あのオッサン泳げないのぉー!!先に言ってよぉー!!
「コウ、セッカ、岸まで泳ぐ、いいね」
「雫…」
私がすることを理解したのだろう。セッカが泣きそうな顔で首を横に振った。
『大丈夫、私これでも小さいころは河童のしずちゃんって呼ばれてから』
そういって安心させるようにニッコリ微笑むと、木片を離れクロールで船の方へと戻る。水泳は久しぶりだし、服着て泳ぐのは初めてだけど、そんなことを考えてどーする。水をかき、泳ぎ急ぐ。息継ぎの途中、アル君が私の名前を呼ぶ声が聞こえたような気がした。
船の近くまで泳ぎつくと、身体に対し小さすぎる木片にしがみ付き、今にも沈みそうなキモ男がいた。辺りを見回す。あった!!少し大きな木片をキモ男の近くまで押して行き、それにつかまる様に言いつける。
オッサン…鼻水やら涙でぐちゃぐちゃブサ面…。とにかくオジサンがしがみついている木片を引っ張るように泳いだ。
船はどんどん沈んでいく。大きな気泡がぶくぶくと…
必死に必死に必死に泳ぐのに、身体は何かに引き摺られるように。
そして私は船と一緒に海へ引き込まれた。
―――人魚!?
途絶えそうになる意識の片隅で人魚が腕を伸ばしてきた。でも2本の足がある。
下半身は半透明の魚、その中は人間の足が透けて見える。そう人の足を透明の鱗で包んだような人魚だった。
2人の人魚が私とキモ男を抱き上げるように海上へと導いた。
「ごふぉっ…………げほっげほっ」
少し飲み込んだ海水を吐き出す。
人魚は綺麗なお姉さんだった。
背中から両脇の下に腕をまわして私を支え、水面をスイスイと泳いでいく。
―――おっぱいおっきい
「シズクちゃんね?大丈夫?」
えっ?何で私の名前知ってるの?
ぽかんっとアホ面でおねーさんを見つめていると「あらん、かわいー♪」と微笑むおねーさんに唇を奪われた。
ベロいれんなぁー!!




