3章 反国軍
「ところでキロウ。」
訓練のおかげで既に歩くことに苦はない。
今では走ることもできるし蹴りを入れることや腕を使ってパンチすることだって可能だ。
訓練はそれなりに苦痛だったが、今では自由に行動できることに感動している。
あの店に居た時はこんなこと願ってもなかったのに。
「なんだ、希。」
「私の様な女は試験管ベビーで産まれると言ったけど、あなたも試験管ベビーなの?」
試験管ベビーで産まれた女は奴らの性欲処理道具に、とは知っているが産まれた男がどうなるのかは知らなかった。
今のこの国には奴らと、純潔が存在する。
奴らと純潔のハーフは存在しない。
性欲処理と使われる以上、もちろん奴らと私たちの間に行われるのは性行為だ。
避妊をしないのは当たり前で、四肢が無くなったとしても妊娠はする。
だが妊娠したところでそれは中絶され、奴らと純粋の間にできた生命はすぐに処理される。
「俺は試験管ベビーじゃない。」
「じゃぁ…本当に純粋な…。」
「あぁ、この国でもまだな、密かに隠れながら純粋を保ち続けている奴らがいるんだ。」
驚いた。
この国には純潔の女の人がいると言うことではないか。
意外と徹底的じゃないのか。
「まぁ試験管ベビーっていうのも純粋っちゃぁ純粋だな。この国では純粋の女だけがこういう扱いを受けている。後はなんの変哲もない日常さ。俺の様な純潔の男だって店に行けば女は買える。」
「…あなたの母親は今どこにいるの?」
思い切って尋ねてみた。
女性はこの国では所詮男の性欲処理の道具でしかない。
四肢がある女性が見つかれば即刻に捕まり次の日にはばっさり、のはずだ。
「死んだよ。」
「奴らに?」
「いや、元々体が弱かったらしくてな。俺を産んだと同時に、な。」
「そうなの。」
どっちが幸せだったのだろうか。
「父親は?」
「父親は知らない。両親とも、俺と名前だけ残して消えて言ったんだ。俺を育てたのは知らない男だった。でも…。」
「でも?」
このキロウの表情は。
前にアルバムを見せた時のと同じだ。
「その男は奴らを憎んでいたよ。そいつに育てられたからかな、俺もそういう意識を持ち始めたんだな。」
「私の知らない世界ではそんな風に思われてたのね、今の世界。」
ふぅ、とキロウが溜息をつく。
薄暗い地下室の様な部屋で私とキロウはこの国に下剋上するために息をひそめている。
でも正直無理だと思う。
キロウは前に私の、今の四肢に武装できるとか言っていたけれどまさか武力行使で正面突破、なんてことには。
それは無茶にも程がある。
そもそも何をすれば良いんだ。
武力を使って何をする。
武力を使ってこの国の偉い人を殺せばそれで終わりなのだろうか?
そんなことしたところでこの世界は1mmも変わらない。
ニュースになって「バカなやつがいるもんだ」と笑われるだけだ。
それどころか状況が悪化し、純粋の男にですら、何か仕打ちが待ち受けているのかもしれない。
「で、どうするの。どうやって国を変えるつもり?まさか武力行使で、なんてことはないでしょうね?」
「…。わかった。そろそろお前にも見せる頃かな。」
「?」
なんの事だろうと私は慣れた歩きでキロウに近づく。
キロウは一度私を見た後部屋のさらに奥へと向かった。
そういえば、私はこの部屋以外の部屋を知らなかった。
「俺らの、仲間だ。」
そこにいたのは、私の様に四肢を黒光り、白光り、銀光りさした女の人たちだった。
いや、それに男の人だっている。
数は数えて、女が5名、男が4名。
女性陣は誰もが武装していた。
両腕にバルカン砲、またはショットガンやスナイパーライフル。
足にはよくわからない装置が備え付けられている。
男性陣はその武器開発、と言ったところだろうか、作業台で何か作っている。
「えぇっと…。」
驚いた、こんな人たちがこの奥にいたなんてなんで気がつかなかったんだろう。
「このドアはな、完全に音をシャットアウトしとても頑丈である故に大抵の衝撃じゃぁ壊されない。ここはな、俺たちの砦だ、希。」
「やぁ、初めまして。新入りさん。」
その内の女が話しかけてきた。私よりいくつか年上の彼女は義手を振りながら挨拶してきた。
義手に備え付けられている物はショットガン。
黒い筒が4つ2×2の形でくっついている。
弾倉は直接義手に刺さっていた。
「あ、大丈夫、今は制御されててトリガー弾いても撃てないから。」
「はぁ…。」
やっぱり武力行使で…。
「さて、改めてよろしく。歓迎するよ、我が反国軍に。」