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「無能な記録係」と捨てられましたが、私の綴る一字は世界の理。冷徹な第二王子に「君の全てを独占させろ」と溺愛され、私を捨てた国は歴史から抹消されました  作者: 星詠みミラ


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第25話:神話の続きは、愛の記録から

「……あ、あ……っ!」


 掌が焼ける。

 銀のペンが、まるで意志を持った毒蛇のようにのたうち回り、私の肌を焦がしていく。

 手帳の白紙には、私の意志を無視して、おぞましい速度で文字が刻まれていた。


『――権限の譲渡。エルセ・フォン・アルメットの存在理由を、白き巫女へと……』


「やめて……止まって……!」


 必死にペンを抑え込もうとするが、指先の感覚が麻痺し、力が入らない。

 目の前には、私と全く同じ顔をした「白き巫女」が、感情のない瞳で私を見つめている。

 彼女の存在そのものが、私の力を吸い取る巨大な空白となっていた。


「無駄よ、エルセ。貴女は『心』というノイズを持ちすぎた。

 管理者マスターに愛など不要。世界を正しく運営するためには、無機質な私こそが相応しい」


 巫女が私の声で、冷たく宣告する。

 私の記してきた「ジークヴァルト様との日々」が、ページからさらさらと剥がれ落ちていくのが見えた。

 愛の記憶が、ただの不必要なデータとして消去されていく――。


「――いい加減にしろ、人形風情が」


 その時。

 焼けるような熱さを孕んだ手が、私の震える手を、ペンごと力強く包み込んだ。


「ジークヴァルト……様……! ダメです、触れないで! 貴方の手まで焼けてしまいます!」


「黙れ。君を離すくらいなら、この腕ごと焼き尽くされた方がマシだ」


 ジークヴァルト様の掌から、凄まじい黄金の魔力が流れ込んでくる。

 銀のペンの拒絶反応に焼かれ、彼の美しい手から煙が上がっているというのに、彼は眉一つ動かさない。

 その黄金の瞳は、目の前の「偽物」を殺すことだけを考えていた。


「ラピスが言っていたな。このペンの『裏側』は、ルールを破棄する力だと」


 ジークヴァルト様が、私の耳元で低く、狂おしいほど甘く囁く。


「書け、エルセ。君自身のわがままを。

 世界のための聖女でも、システムのための管理者でもない。

 ……私の隣で、泣いて、笑って、私だけを愛する、ただの『一人の女』としての君を」


 彼の熱が、私の冷え切った魂を再起動させる。

 そうだ。私は、世界を完璧にするためにペンを取ったんじゃない。

 ただ、この人の隣で笑う「明日」が欲しかっただけだ。


 私は、ジークヴァルト様の手の熱を借りて、全力でペンをページに叩きつけた。


『――三月二十五日。私は、完璧な管理者であることを、永久に拒絶する』


 銀と黄金の光が混ざり合い、白金の雷鳴となって部屋中に炸裂した。


『私は不完全だ。醜い嫉妬も、独占欲も、消えない傷も持っている。

 そして何より――私はジークヴァルト・フォン・ローゼルという一人の男を、世界が滅びるよりも深く愛している!』


 最後の一文を刻んだ瞬間。

 銀のペンが、パキィィィィィン!! と甲高い音を立てて弾けた。

 

 譲渡されかけていた権限が、逆流する。

 

「な……!? バカな……! 自ら権能を壊したというの!?

 そんなことをすれば、貴女は二度と神には戻れない……ただの『人間』に成り下がるのよ!」


 白き巫女が、初めて狼狽に顔を歪めた。

 彼女の輪郭が、激しいノイズと共に崩れ始める。


「構わない。……私は、神様なんて興味ありませんもの」


 私は、ジークヴァルト様の腕の中で、晴れやかな顔で言い放った。


「一人の女性として、大好きな人に愛される。……それが、私が見つけた最高の『真実』ですから」


 ドォォォォォォンッ!!


 離宮全体を揺るがす光の柱が立ち昇り、門前に詰めかけていた数万の信徒たちを吹き飛ばした。

 「白き巫女」は、拠り所としていた管理権限をエルセ自ら放棄されたことで、存在の整合性を失い、真っ白な塵となって消滅していった。


 沈黙が戻る。


 離宮の窓から見える空の裂け目は、今の私の「拒絶」によって、強引に閉じられていた。

 

 私は、自分の手を見た。

 銀のペンは、元の静かな筆記具に戻り、私の手にはひどい火傷が残っていた。

 ……けれど、それは私が「人間」としてジークヴァルト様を愛した証。


「……はぁ、はぁ……。ジークヴァルト様、手……見せてください」


「気にするな。……それより、お前。今、なんて書いた?」


 ジークヴァルト様が、火傷だらけの手で私の腰を引き寄せ、逃がさないように閉じ込める。

 その瞳は、先ほどまでの冷徹さは消え、蕩けるような、そして逃げ場のない執着に染まっていた。


「『世界が滅びるよりも深く愛している』……だったか?」


「あ……それは、その、勢いで……」


「書き換えることは許さんぞ、エルセ。これは君が、世界の理さえも壊して刻み込んだ『確定した事実』だ」


 彼は私の唇を、噛み付くように深く、激しく奪った。

 

 神様でもない。聖女でもない。

 ただの、愛し合う二人。


 第2章――『帝国の影と管理者の目覚め』。

 私たちは、偽りの運命をすべて焼き尽くし、本当のハッピーエンドを自らの手で掴み取った。


 ……しかし。

 離宮の庭の隅。

 消滅した「白き巫女」の塵が、一箇所に集まり、小さな、小さな一通の「招待状」へと姿を変えていた。


『管理者候補エルセへ。

 不合格。……よって、次のステージ「神々の遊戯場パンテオン」への強制招待を決定する』


 本当の自由を手に入れたと思ったのも束の間。

 エルセとジークヴァルトの愛は、より高次元の存在たちの「娯楽」として狙われ始めていた。


(第2章・完)

第2章「帝国の影と管理者の目覚め」、最後までお読みいただきありがとうございました!


神としての権能を捨て、ジークヴァルト様の隣で「ただの女」として生きることを選んだエルセ様。

「世界が滅びるよりも深く愛している」という、執着の極致のような愛の告白に、書いていて筆が震えました。


ですが、最後に現れた不気味な招待状……。

「神々の遊戯場」という名のシステムは、まだ二人を諦めてはいないようです。


……と、本来ならここから新章へ突入するところですが、この物語は次話「エピローグ」をもちまして、一旦の完結とさせていただきます!

二人がどのような結末(あるいは新しい始まり)を記すのか。


最後の一滴まで、二人の愛をインクに変えてお届けします。

ぜひ、評価【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援いただければ、完結への大きな活力になります!

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