第15話:古代の記憶(アーカイブ)と、獅子の禁忌たる抱擁
ジークヴァルト様の領地の最果て、霧に包まれた断崖の底。
そこには、歴史から抹消された「神の書庫」への入り口があった。
「……ここが、私の力の源なのですか?」
私が一歩踏み出すと、足元の古い石畳が銀色に発光した。
左右に並ぶのは、天井も見えないほど高く積み上げられた、無数の本、本、本。
それらはすべて、この世界の「過去」と「未来」が記された魔導書だった。
「エルセ様、見てください! この書物の魔力残滓……すべて貴女様の魔力波形と完全に一致しています!
やはり、貴女はこの世界の『物語』を司る、唯一の正当なる守護者……!」
ラピス様が鼻血を出しそうな勢いで、浮遊する本を追いかけている。
セラフィナ様は、この神聖な空気に圧倒されたのか、珍しく神妙な顔で周囲を警戒していた。
「……エルセ、あまり私から離れるな」
ジークヴァルト様が、私の腰をぐっと引き寄せた。
暗い書庫の中で、彼の黄金の瞳だけが、獣のように鋭く光っている。
彼はこの場所に来てから、ずっと不機嫌そうだった。
私の「正体」が明かされることで、私がどこか遠くへ行ってしまうのではないかと……そんな子供のような不安を抱えているのが、伝わってくる。
「大丈夫です、ジークヴァルト様。私はどこへも行きませんわ」
「……分かっている。だが、ここは君の気配が強すぎる。まるで、世界そのものが私から君を奪い返そうとしているようで……不愉快だ」
彼は私の肩に顎を乗せ、私の体温を確かめるように深く抱きしめた。
その時、一冊の古びた本が、私の手の中に吸い込まれるように飛び込んできた。
表紙には文字がない。
けれど、私が触れた瞬間、ページが勝手にめくれ、銀の光が溢れ出した。
『――世界が混沌に包まれた時、一人の少女がペンを執った。
彼女が「光あれ」と記せば光が生まれ、「愛あれ」と記せば、そこに一つの命が芽生えた』
……これは、私の声?
本から流れてきたのは、私の思考そのものだった。
『けれど、少女は孤独だった。
だから彼女は、自分の隣に、決して裏切らず、自分を永遠に愛し抜く「最強の守護者」を記した』
光の中に、幼い日のジークヴァルト様の姿が映し出された。
十年前、北の森で死にかけていた彼。
私が日記に「暖かい」と書いた、あの瞬間。
あれは偶然ではなかった。
私が、私の寂しさを埋めるために……彼を「私の運命」として、この世界に再定義したのだ。
「……ジークヴァルト様」
「ああ、聞こえたよ。……エルセ」
ジークヴァルト様は、愛おしさと、それ以上の執着を込めて私を見つめた。
「私が君を求めているのではない。君が、私を求めてくれたから、私はこうして君を愛している。
……最高の『設定』じゃないか。私の魂が君に惹かれるのは、この世界の理そのものなんだな」
彼は私の唇に、深く、刻印を押すような接吻を落とした。
その瞬間、書庫全体が共鳴するように輝き、エルセの中に眠っていた「管理者の権能」が完全に覚醒した。
――同時に。
王宮の玉座の間で、ある「音」が響いた。
それは、簒奪者である今の王家を支えていた、偽りの神との契約が「破棄」された音。
「な、なんだ!? 体が、体が崩れていく……!」
現国王の指先が、砂のように崩れ始めた。
エルセが真実の自分を思い出したことで、偽物の存在たちは、もはやこの世界に形を留めておけなくなったのだ。
「ジュリアン……メリーナ……助けてくれ……っ!」
王の悲鳴は、誰にも届かない。
扉の外では、エルセの力を恐れた帝国が、密かに「神を殺すための刺客」を離宮へと放っていた――。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
エルセの正体は、世界の創造に深く関わる「管理者の末裔」……。
そしてジーク様との出会いも、エルセが自ら「書いた」運命だったという、エモーショナルな真実!
「二人の絆が深すぎて尊い!」「王家の自滅が加速してて最高!」
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次回、第16話は「神を殺す刺客と、獅子の逆鱗」。
ついに帝国の精鋭暗殺者が離宮を襲撃!
しかし、真の力に目覚めたエルセと、愛に狂うジークヴァルト様の前で、彼らは「どんな死に方」を記録されることになるのでしょうか……ふふ、お楽しみに!




