第14話:王家の血、隠された簒奪(さんだつ)の歴史
平穏な朝を切り裂くように、一通の書状が離宮に届けられた。
紋章上部に刻まれた、見覚えのある「ペンと天秤」の意匠。
私の実家であり、代々王家の記録官を務めてきたアルメット公爵家からの呼び出し状だった。
「……今更、何の用かしら」
私は、震える指でその羊皮紙を握りしめた。
婚約破棄された夜、私を見捨て、雨の中に放り出した家族。
父も、母も、義理の姉も……誰一人として私を助けようとはしなかった。
「エルセ、行かなくていい。私がその家ごと、歴史から消してやろうか?」
ジークヴァルト様が、背後から私の手帳を奪うようにして書状を覗き込む。
彼の瞳には、隠しきれない殺気が渦巻いていた。
「いいえ。……私、知りたいんです。なぜ私が『無能』だと言われ続け、地下の書庫に閉じ込められていたのか。その理由を、自分の言葉で正したいんです」
私は彼を振り返り、まっすぐに見つめた。
今の私には、彼の愛と、隣に立つセラフィナ様やラピス様の信頼がある。
もう、震えて俯くだけの私ではない。
「……分かった。だが、私も同行する。私の目の届かない場所で、君に一文字の傷もつけさせるつもりはない」
***
数時間後、私は数年ぶりにアルメット公爵家の門を潜った。
重厚な扉が開くと、そこには冷淡な表情を浮かべた父、公爵が立っていた。
「……よく来たな、家の恥さらしめ。第二王子殿下に縋って生き延びるとは、どこまで卑しい娘だ」
開口一番の罵倒。
以前の私なら、ここで涙を流して謝っていた。
けれど、今の私は静かに問い返す。
「お父様。単刀直入に伺います。なぜ私に『万象記す』の力を隠させ、偽りの封印を施したのですか?」
公爵の顔が、一瞬で引き攣った。
「な、何を……っ。無能なお前に、そんな力があるはずが……」
「白々しいですよ、公爵」
ジークヴァルト様が、私の肩を抱きながら一歩前に出る。
彼の圧倒的な覇気に、公爵は蛇に睨まれた蛙のように硬直した。
「ラピスが調べた。アルメット家は元々、この国の『真の王』を支えた導き手の家系。
今のジュリアンの家系が王座を簒奪した際、最も恐れたのが……君たちの持つ『真実を固定するペン』だった。
だから、彼らは君たちを『記録官』という卑賤な役職に封じ込め、強大な力が生まれないよう、代々呪いをかけてきた」
私は息を呑んだ。
――簒奪。
今の王家が、偽りの血筋だった……?
「エルセに宿った力は、その数百年続いた呪いすらも突き破るほど強すぎた。
だから貴様らは、彼女を『無能』だと洗脳し、力を自覚させないように地下へ閉じ込めた。……違うか?」
「そ、それは……王家との契約なのだ! 我が家が生き残るためには、そうするしかなかった!」
公爵が、見苦しく叫んだ。
「その娘の力が目覚めれば、今の王宮の欺瞞がすべて暴かれる!
世界が『今の王は偽物だ』と認識してしまう! そうなれば、国は滅びるのだ!
エルセ! お前は黙って死ぬべきだったのだ! 一族のために、王家のために!」
……悲しい。
家族だと思っていた人たちは、私を一人の人間としてではなく、「不都合な真実を封じる蓋」としてしか見ていなかった。
「……お父様。一族のため、王家のため……。そこに、私の幸せは一度でもありましたか?」
私は、静かにペンを走らせた。
手帳に刻まれるのは、絶縁の言葉。
『三月二十三日。アルメット家とエルセを繋ぐ血の契約は、ここに消滅した』
銀の光が公爵の体を包み、彼が隠し持っていた「王家からの秘密の恩賞」や「貴族としての権威」が、さらさらと灰になって崩れていく。
「な、なんだ!? 私の地位が……私の魔力が消えていく!?」
「私はもう、あなたの娘ではありません。……そして、この国も。偽りの王の時代は、私が終わらせます」
私は公爵に背を向けた。
一度も、振り返ることはなかった。
「……よく言ったな、エルセ」
屋敷を出たところで、ジークヴァルト様が私を強く抱きしめた。
彼の胸の中で、私は初めて、本当の意味で自由になれた気がした。
「ジークヴァルト様……。私、偽物の王家なんていりません。
ただ、あなたの隣で、本当の歴史を書いていきたい」
「ああ。君が書くすべてが、この国の新たな神話になる。
……そして、その神話の王妃は、君以外にあり得ない」
その頃。
王宮の玉座に座るジュリアンの父、国王の髪は一夜にして白髪に変わり、王冠は触れてもいないのに真っ二つに割れた。
真実の記録官が、ついに「偽りの歴史」を否定し始めたのだ。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
実家との完全絶縁、そして王家の重大な秘密の暴露!
「お父様の自業自得っぷりがたまらない!」「エルセ様、よく言った!」
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次回、第15話は「古代の記憶編・開幕」。
ラピスが発見した地下図書館へ。
そこには、ジークヴァルト様さえ知らなかった「エルセとの真の約束」が眠っていました。お楽しみに!




