43.変化
車から降りた6人がバーズとツェンの事務所を眺めている。
「久しぶりに戻ってきたら、随分とまあ変わっちまってンなぁ」
自分達が住んでいた事務所の外観を見てツェンがバーズに言った。
「リフォームって聞いたけれど、3階が出来てるわよねぇ」
次いでリネアが青い髪の男に訊ねる。
「俺なりのリフォームだ」
「喫茶店の隣に花屋が出来てるのは貴方の注文?」
一階に増設されたフラワーショップ、そこにいる女性店員を見た少女が問う。
「私に聞くまでもないと思うが?」
エルと話している赤眼の男を見やった栗色の髪の少女が溜め息を吐いた。
「こんな工事、一月くらいで出来るのかしらぁ?」
バーズとリネアのやり取りを聞いていたログが言葉を挟む。
「着工に掛かる手続きをすっ飛ばしたのだろう。この男がすることに驚いたふりを見せても答えは返ってこない」
「今のは素。ここまで女っ気のない男に色目使っても意味がないじゃない」
店の前にいる6人に気付いた赤毛の店員が目を見張った。
開店前の仕事から手を放して赤毛の女がその傍に寄っていく。
腰を落としてエルに家屋の説明をしている赤眼の男が、その姿を認識して言った。
「いい男ってのは自然に女の子が寄って来ちまうものなんだぜ」
金眼の少年にそう告げて立ち上がったツェンがこちらに向かう女に笑顔を見せる。
赤眼の男を一顧だにせず、青い目の女が黒髪を後ろで結った男へ声を掛けた。
「ログ?」
名を呼ばれた男が赤毛の女へ向き直り、言葉を吐く。
「ルーチェ・・・か?」
返事をした長身の男に女が飛びついた。
「久しぶり」
リボルバーを引き抜こうとする手を抑えた女にログが溜め息を吐く。
「無事だったんだな」
「ログに教えられたことだし」
会話を続ける二人を前に愕然としている赤眼の男にエルが声を上げた。
「いい男って、ログのことか?」
にやりと笑みを浮かべた二人の女が金眼の少年に答える。
「そーそー、ツェンとは何の関係もありません」
「自信たっぷりに言ったのにねぇ」
その反応に涙目になった赤眼の男が黒目の男に詰め寄る。
「どういうことだよ!?こんな美女とお前に関係があるなんて聞いてねぇぞ!!」
「お前に話す筋合いはない」
ルーチェと呼ばれた女に話しかけようとした赤眼の男が二人の女に連行されていく。
その様を見ているエルに青眼の男が告げた。
「古い知り合いのようだ。先に行くとしようか」
「うん。また後でな、ログ」
階段を上る青髪の男と金髪の少年を見た赤毛の女がログに言う。
「楽しそうな人達と暮らしてるのね」
「同居している訳じゃない。契約上の付き合いだ」
表情を変えない男が多少声を低くしたのを見逃さずに、青目の女が言葉を返す。
「嘘吐くパターンって増えた?」
「せっかく夢を叶えられたんだ。そんなことは忘れろ」
花屋を見てそう告げるログにルーチェが言う。
「ログだって隊長のこと覚えてる」
「忘れられるはずがない。俺も、お前も」
悼むように目を伏せた黒髪の男に女が告げる。
「それは油断?」
じゃれ合うように背後から腕を首に回すルーチェを組み伏せたログが、リボルバーをその頭に突き付けた。
「死にに来たのか?」
「騒がれたいならどうぞ」
ログが女の頭を撃ち抜く。
銃口にジョークアイテムの花が咲いている様を目にした女が言う。
「殺せない?」
「お前を殺す理由がない」
玩具の銃を投げ捨てた黒髪の男が女の懐をまさぐり、入れ替えられたリボルバーを手にする。
「ログはあの時のまま、かぁ」
「何の話だ?」
差し出された手を取って立ち上がる青目の女が言う。
「今も優しいんだなって」
まだ人気のない朝日の中を返事もなく立ち去るログを見て、赤毛の女が店へと戻っていった。
事務所の扉を開くと、ソファに座っている青眼の男から声がかかる。
「建物に関して説明しておくことがある。座ってくれ」
「エルとシルファは?」
新しくなった内装に鋭く目を配らせながらログが問う。
「土産や自分達の小物を整理している」
リネアが座っている二人掛けのソファに男が腰を下ろした。
「間取り図を渡しておこう」
窮屈そうに座る黒髪の女の隣にいる男に青眼の男が冊子を渡す。
ページをめくるログを見てバーズが対面する男女に告げる。
「リネアには先程の話の続きになるが三階が空いている。君達さえ良ければそこに住まないか?」
狭いことを告げてログの体を退かしたリネアが答えた。
「私はご遠慮させていただくわぁ。税金から出てる出張費だし、貴方の家に住むのは色々問題があるのよぉ」
間取り図を何度も確認した黒目の男が言う。
「俺も遠慮させてもらう。そこの赤眼の男ならともかく、護衛の対象と同居していたら身が保たん」
手にしていた冊子をバーズに返したログの言葉に、それまでバーズの横に黙ったまま座っていたツェンが立ち上がる。
「下の花屋の娘を放っておくって意味か?」
「俺がバーズと交わした契約はエルとシルファの護衛だ。ルーチェは関係がない」
そう答えた黒目の男にツェンが詰め寄る。
「知り合いだったみてぇだが?」
「お前は何が言いたい?」
険悪な表情をして立ち上がるログの両肩に赤眼の男が手を乗せる。
「お前もリネアもここに住まねぇんなら、ルーチェちゃんはもしかすると俺と隣部屋ってことだよなぁ!?」
椅子に座り直した男が言う。
「かもな」
「ひょー!!!」
ログの答えに奇声を上げて事務所から飛び出し、ツェンが階段を上っていった。
「アイツ本当に私を守る気があるの?」
刺々しい口調の女にバーズが答える。
「あると信じろ。どうせすぐ戻ってくる」
そう言いながら、ログから返された冊子をリネアに渡す。
受け取ったそれを眺めたリネアが吹き出した。
「さっきの質問は私が断る前提ってことになるわよねぇ?」
「君の事情は分かっているからな。下の花屋のこともある。ヤツには少し釘を刺しておいた方がいいだろう?」
「そうねぇ」
隣にいる女の表情を見て居心地が悪くなったログが事務所から出ようと立ち上がった瞬間、けたたましい音を立ててドアが開かれた。
「上ぁ全部機械室じゃねぇかよ!!!ルーチェちゃんどころか俺ぁ何処で寝りゃ・・・」
自身を見つめる長い黒髪の男女の形相を見た男が語尾を濁す。
「・・・リネアちゃん、その表情やめてくンない?」
「こういう顔をさせているのはどちら様かしらぁ?」
「少し外で話そうか」
ツェンを引きずり部屋から出て行く二人の男女を青眼の男が見送った。
「俺、バーズと同じ部屋が良かったなぁ」
新しい個室でシルファと共にインテリアを整え終えたエルが言う。
「一人で眠れないの?」
「そんな訳ねぇだろ!!」
過剰な反応を見せる金眼の少年にブラウンの瞳の少女が悪戯な笑みを浮かべて答えた。
「もしかしてお化けが怖いとか?私と一緒に寝る?」
「部屋を分けるって言われただろ。お前何聞いてたんだ」
エルの返事にぶすっとした表情を見せたブラウンの瞳の少女が、後ろを向いてドアノブに手をかける。
「待ってくれ!」
振り返る少女に金眼の少年が言葉を続ける。
「覚えてこいって渡された本を読んでくれ!!下さい!」
必死に頼み込むエルにシルファが背を向けたまま言う。
「用意しておいて」
扉を閉めた栗色の髪の少女が、それに凭れかかり思った。
「答え教えてよ、お母さん」




