42.旅の終わりに
いくつかの街を後にし、旅を続ける列車の中でエルが言う。
「あのさぁ、あのさぁ!」
「喰ってるモンを飛ばしてんじゃねぇよ。口閉じてから喋れ」
ツェンの言を聞き、口内に残った弁当を咀嚼し飲み込んだ少年が再び口を開ける。
「凄かったんだよ!お前もいっひょにょっひゃ・・・」
「食べながら言わないで」
幼いやり取りが行われている隣に、少し微笑みながらリネアが前の座席に座る黒混じりの青髪をした男に告げる。
「聞きたいことがあるのだけれど」
「何だ?」
巨躯の男が対面する座席に座るリネアに答えた。
「どうして帰りは列車での長旅なのかしらぁ?あのジェット機を使えばすぐ着くわよねぇ?私の存在が危険だってことは嫌というほど貴方から聞かされたけれどぉ?」
皮肉を交えて言葉を紡ぐ黒目の女に、青眼の男が答える。
「帰ったところで家がない」
「なん?」
息を吐くように言葉を出してしまったリネアが再び問う。
「貴方が住んでいた事務所って持ち家でしょぉ?なぁに?今回の旅に奮発し過ぎて売ったとでもぉ?」
「リフォーム中なんだ。エルとシルファにも一人部屋を持たせてやろうと思ってな」
にんまりと笑みを浮かべたリネアが言う。
「この旅行はあの子達のためのついでっていうことかしらぁ?」
「情操教育の一環と捉えてもらおう」
「それは私にも言っているのかしらぁ?」
甘い声をバーズに告げた女に青髪の男が言葉を返す。
「そうなるな」
「本当っに嫌な男ねぇ」
列車の旅を続けた栗色の髪の少女が眠りから覚めて朝焼けを窓に見る。
隣の座席で談笑しているバーズ達を見て、まだ眠っている少年を少女が揺り起こす。
「もう20分くらいは着かねぇから、寝かせておいていいぜ」
赤眼の男の言葉にシルファが熟睡している少年から手を放した。
「ごめんねぇ。うるさかったかしらぁ?」
そう告げるリネアに眠たげな瞼をうとうと揺らして少女が言う。
「コーヒー、ありますか?」
「隣の車両で配っている。貰ってくるから休んでいろ」
立ち上がったバーズのクリーム色のYシャツを掴んでシルファが立ち上がる。
「自分のものは自分で持ちます」
「6人分を持つのには手が足りなかったので助かるよ」
そう告げた巨漢の後ろを少女がついていった。
扉を開けた先にいる長い黒髪を後ろで束ねた男が、腕を組みながら壁に背を凭れたまま青眼の男に言う。
「お前等を狙うような人物は見かけてはいない」
「そう気張らなくていい。私も見ている」
組んだ腕を動かさず黒髪の男が返事をする。
「交わした以上、契約は果たす」
「君もコーヒーくらい飲んでいくといい」
紙コップに入った飲み物を配っている添乗員を見たログが仏頂面で言う。
「要らん」
返事を聞いたバーズが添乗員に注文をし、4つのカップをトレイに乗せて扉を開け席へ戻る。
それを見たシルファがコーヒーとオレンジジュースを頼む。
手渡されたそれを手に持って栗色の髪の少女がログに差し出す。
「ブラックです」
差し出されたそれを男が黙って手に取る。
「いつも護ってくれてありがとう」
「ただの契約だ。礼を言われる筋合いはない」
薄く笑みを浮かべたログがコーヒーを口にするのを見た少女が自席へと戻っていく。
飲み干したカップをダストボックスに捨てた男が再び周囲への警戒を始めた。




