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The ability  作者: 不破陸
The ability
36/112

36.鬼子母神

「私が無理をさせてしまったの?」

娘の前で鼻を利かせた盲目の女が告げる。

「ピストルを撃った後の臭いがする」

母親の言葉に苦い顔をしたリネアは何も答えなかった。

「それは俺からだ」

今まで黙っていたログが椅子から立ち上がり、サラに言う。

「貴方の臭いには初めから気付いています」

部屋から出ようとするログにサラが告げた。

「貴方と娘の匂いは違います」

黙って部屋を出て行く男を気配で察知した女がリネアに向き直る。

「どうして?」

黙りこくるリネアにサラが続けた。

「リネアは何がしたいの?」

返事をしない黒髪の女を見た青髪の男がカトーに告げる。

「親子の話があるようだ。先程の話は外で聞こう」

「かしこまりました」

表情を変えずに答えたカトーと、バーズが部屋から去るのを見届けたリネアが口を開く。

「さっきツェンがこの部屋にいることには気づいていたんだよね?」

「ええ」

厳かな表情で答える母に娘は言葉に詰まった。

「親子3人で暮らしたい?」

しばらくの沈黙の後、リネアが呟くように言う。

「母さんがあの人に会って笑っている顔が見たかった」

「それは私のため?」

母親の言葉に、娘は独白するかのように言葉を絞り出した。

「母さんが昔してた仕事のせいで、周りの人達から母さんを見下したみたいな目で見られるのが嫌だったからぁ・・・」

涙で言葉が詰まったリネアが、間を置いてその先を続ける。

「エリートコースに乗った私と、アイツが母さんの傍にいれば箔がつくと思った」

「リネアの考えは何も間違っていません。私のことを想ってやってくれたことだもの」

娘の頭を抱き締めながら母が言う。

「苦労をかけましたね」

「アイツが戻ってくれば母さんが笑ってくれると思った」

「もういいのよ」

「よくない!」

それを機に、堰を切ったようにリネアが言葉を吐き出した。

「私は母さんのためにやってきたの!!もういいって何だよ!!」

「ごめんね、あなたを追い詰めていたみたい」

リネアの言葉を受けてサラが続ける。

「もういいっていうのは、ツェンを私に会わせるのは諦めてってこと」

「アイツと考えることは同じなんだね・・・あんな色狂いの何処がいいの?」

母親の体を押し退けると赤い眼を光らせてリネアが言った。

窘めるようにサラが告げる。

「そこがいいところなの」

「そこがって・・・」

ふと微笑んだ盲目の女が言葉を返す。

「リネアが生まれてくれた。私はそれだけで笑顔でいられるわ」

「自分の出生が嫌になるんだけどぉ?」

サラが顔を綻ばせた。

「のろけ話、聞いてくれる?」

「手短にお願い」

そう言った娘に母親が長々と語り始めた。



「ツェン様がスレッグ警部補とご家族とは初耳でした、って言ってたけど明らかに嘘じゃない」

個室から出てきたバーズとカトーの会話を聞いていた栗色の髪の少女が言う。

「わざわざ俺達に聞こえるような場所で会話をしていただろう?腹の探り合いに過ぎない」

「私達をダシに使ってるってことでしょう?」

シルファの言葉に黒髪の男が一息ついて告げた。

「面白くないのは分かるが、ヤツにはヤツなりの考えがある」

「その考えに振り回される身にもなってほしいんですけどー?」

「それを俺に言われてもな」

ログの返答にシルファがむくれ顔をする。

その頬を突いてエルが聞いた。

「ダシってスープに使うヤツだよな?ダシに浸かるってどういう意味だ?」

栗色の髪の少女は笑って説明をした。



「よかったのか?サラのことは」

「テメェには分かってんだろ」

病院の屋上でフェンス越しに夕焼けに染まる街を眺めている赤眼の男が、振り返りもせず青眼の男に答えた。

「お互いに死んだことにしておいた方が都合がいいからな」

「だったら端から俺達を会わせんな」

ツェンの横に立つバーズが言葉を紡ぐ。

「会わせたのはリネアだ。お前と彼女の願望ならば、俺には否定ができない」

「俺は会いたくなかったねぇ」

「ならばさっさとあの場からは立ち去るべきだったな」

夕闇が迫る二つの影が長く、蝉の声が響く。

「会ってしまえば親子三人静かに暮らすんじゃなかったのか?」

「酒の席の世迷言を蒸し返すなよ。意地が悪いぜ?」

赤眼の男のぼやきに青眼の男が言葉を返す。

「酔いもしない男に言われてもな」

「酔い痴れてたんだよ、アイツとの思い出に」

落ちていく夕陽に溶けるような赤い眼の男が告げた。

「俺がここにいてもよぉ、お前さんは考えを変えるつもりはないんだよな?」

「ない。だが、お前との約束は果たそう」

夜を眼に映した赤眼の男が言葉を続けた。

「今まで通り、お前と一緒にいつもの場所に戻りたいねぇ」

「いつも通りの場所ではなくなるが」

青髪の男の言葉にツェンが言う。

「俺はお前が要ればいい」

「期待には応えるよ。ツェン君」

諦めたような表情をして青眼の男に向き合った赤眼の男が告げた。

「俺は女の子を泣かせるよーなこたぁしたくねぇのよ」

笑みを浮かべたバーズが立ち去る背中にツェンがついていった。

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