27.ある男の話
「こんなもんでいいか」
石槍を担いだ黒髪黒目の男が背負った籠に引っこ抜いた草を投げ込むとそう思った。
その身体能力を生かした男にしか採取がしづらい高山に生えている薬草を籠一杯にし、下山しようとして足を止めた。
高山の土に咲いていた花を見て、妹が喜んでくれると思った男はそれを摘む。
幾束かあった花の一輪を山の神に捧げようと、男は険しい山を登っていった。
以前は火口付近まで村を挙げての奉納が行われていたが、火山活動が活発化したために山の神を鎮めるために一部の者しか近寄らなくなった山の火口まで黒眼の男が歩を進める。
火口近くにある石碑に辿り着いた男は膝をつき祈りを捧げる。
手にした一輪の花を石碑の前に置くと男は山を下りていった。
下山した男が見たものは焼き尽くされた村の残骸だった。
武器を手にした同胞達の死骸を見て、男は生存者を探す。
「おい!誰かいねぇのか!?」
声を上げながら村中を駆け回っている男の目に、焼け崩れた住居に押しつぶされ呻いている男が映った。
「大丈夫か!何があった!?」
「ああ・・・お前か・・・」
駆け寄ってきた男に気付いた男が言葉を返した。
「見たこともない武器を持った奴等が襲ってき・・・てな・・・。俺達も戦ったんだ・・・が・・・やられちまった」
「皆死んじまったのか!!?」
黒眼の男が燻っている住居の一部を退かしながら訊ねる。
「族長と女共を避難さ・・・せた方向はあっちだ・・・。村に残・・・って、統率を取っていた頭領と・・・生き残りもいるか・・も・・・しれン」
「今どけてやるから一緒にそこまで行くぞ!!」
肩や手、背中に火傷を負いながら建材を持ち上げて叫ぶ男に、燻る柱や茅の下敷きにされている男が言った。
「俺の・・・ことは放っておけ・・・。もう助から・・・ねぇ・・よ・・・。お前はファンフェイを・・・」
「ふざけンじゃねぇ!!」
咆哮を上げた男が人間とは思えない力で家屋の残骸を持ち上げると、倒れている男の体を片手で引き抜いた。
「俺の前で勝手に諦めンな!!テメェが何と言おうが連れて行くからな!!」
背にした籠を降ろし、手で握り潰した薬草の搾り汁を男の体に塗り込みながら黒眼の男が吼えた。
籠を前にかけ、男を背負うと男が言う。
「森の方だったな?行くぞ」
煙を上げる村を二人の男が後にした。
森に入ると村の人間にしか分からない目印が小さく樹々に彫り込まれているのを見つけた。
それを頼りに進んでいく男達は、村の近くにある泉に辿り着く。
「少し体を冷やしてけ」
背にした男にそう告げると男が泉の中へと己ごと体を浸した。
「子供達は・・・生きてる・・・かな・・・」
初夏の泉の冷涼に火傷の痛みが引いていく男の言葉を聞き、その男を背負いながら泉に浸かる男が答える。
「ったりめぇだろ!頭領が逃がしたって言ってたよな?だったら大丈夫だよ」
「そうだ・・・よな・・・」
泉から上がると男を地面に横たわらせ、再び薬草の搾り汁を体に塗り込みながら艶やかな黒髪の男が言った。
「目印があるってことはどっかに避難してるってことだ。早いとこ子供達に顔見せてやろうぜ。だからテメェも死ぬんじゃねぇぞ」
火傷を負った男を背負うと艶やかな黒髪の男がそう言って歩き出した。
日が暮れた闇夜の中を火傷を負った男を背に負ぶい男が歩く。
「もう少しで着くからよ。頑張れよ」
無き返事に男が足を速めた。
近くにいるという目印を見た男が言う。
「着いたぜ!」
男の背中から重さがなくなった。
黒目の男は、背負った男の呼吸が消えたことに気付き先を急いだ。




