25.背徳と贖罪
「あんな風になるならもう二度と貴方から過去の話なんか聞きたくない」
落ち着いたシルファがベッドに座りながら、寝そべっている赤眼の男にそう告げる。
「シルファちゃんにそこまで想われていたとはねぇ」
「馬鹿!!」
抱いていた枕でツェンの顔をはたくとシルファが叫んだ。
「冗談だよ。だが、まあ……悪かったな」
上体を起こすとエルとシルファの頭に手を置き、赤眼の男が言う。
「髪に触られるのは嫌いです」
「俺も殴ろうとしたのはゴメン」
そう告げる少年少女を見るとツェンが笑みを浮かべた。
「へっ、逆に気を使わせちまったか」
ベッドから腰を上げた赤眼の男がそう言うと青眼の男を見やる。
「少し休んでこい」
青い眼を光らせてそう告げるバーズにツェンが答える。
「へぇへぇ、行ってきますよ」
そう告げると黒髪の男が去っていった。
「ツェンは何処へ?」
「さすがに気まずいようだ。散歩にでも行ったのだろう」
バーズに質問をしたブラウンの瞳の少女が再度告げる。
「嘘を吐かないで」
「嘘ではないさ。ヤツなりの散歩だ」
青い眼の男の言葉に少女は何処か腑に落ちないような表情をしたが、気を取り直して言葉を発した。
「昔ツェンに何があったの?」
「気になるか?」
バーズの言葉に顔を背けてシルファが答える。
「あんなことがあった後なのに気にしない方がおかしいでしょう? 話の途中だったし……家族のことは知っておきたい」
「ではリネアが戻ってから話を再開しよう。儀式の話までは聞いたのだろう?」
そう言ったバーズにシルファが手にした枕に顔を埋めて、もどかしそうに言葉を発する。
「あんまり見ないで」
「見なくとも分かることはある」
あえて視線を外している青眼の男を見ると、少女は座ったまま腕に抱く枕を握り締めた。
扉のない部屋を出て、また扉のない部屋へと入ったツェンが娘の後ろ姿に声をかける。
「よう」
「これはアンタがやったの?」
大穴が空いているホテルの一室から、消し飛んだ街を見ているリネアが言った。
「ああ」
「これだけのことをしてアンタは何も感じないの?」
「今さら何も」
その言葉にリネアがツェンに向き直ると叫ぶ。
「言い訳くらいしなさいよ!!」
「悪かったな。こんなのがお前の父親で」
美麗な顔を歪ませたリネアがそう告げた男を睨みつけ、その横を通り過ぎた。
「リネアと一緒にバーズの話を聞いておいてくれ」
黒髪の女が部屋を出ていくのを確認したツェンが、ログが仕掛けた盗聴器に向かって声を出す。
「俺のことが気に喰わねェのは分かったが、こいつぁバーズの指示だ。何だったらあのデカい乳を揉ん」
言葉の途中で飛んできたライフルの弾をこめかみに受けたツェンが、それを返事と受けとると、部屋に空いた大穴から赤色灯が行き交う街並みの夜空にその身を翻した。




