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The ability  作者: 不破陸
The ability
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17.空と空っぽ

蝉の声が鳴り響く緑が生い茂る通りを黒いスーツ姿をした赤眼の男が歩いていた。


「一人かい?」


 道を行く一人の女性に老若を問わず声を掛けるが、その不躾な誘い文句と赤い瞳を見るとことごとく女達は逃げて行った。それでも飄々と歩を進める赤眼の男に長い黒髪の女が声を掛ける。


「一人かい?」


「見ての通りお一人様だよ」


 ツェンが歩く速度を落としてリネアに答えた。


「全っ然モテないのねぇ?」


「うるせぇな!西以外では赤眼は評判が悪ィんだよ!」


 文句を言いながらも何処か嬉しそうな赤眼の男にリネアが告げる。


「私みたいにカラコンつけたら?」


「俺様が美しすぎて溶けちまうんだ」


 その返事に薄笑みを浮かべてリネアが言った。


「何処までが冗談なのかしらねぇ」


「全部本当のことさ」


 そう答えた赤眼の男に腕を回されたリネアがそれを避ける。


「いちいち人の肩を抱こうとすんのは止めてくんない?」


「心が凍てついてんだよ。その肌で温めてくれてもいいだろぉ?」


 その言葉を鼻で笑ったリネアがツェンの格好が変わっていることに気付いた。


「またスーツに戻ってるねぇ? 赤眼が不評ならあのサングラスでもかけておけば?」


「調査に行くって言っただろ? この姿でやる意味があるんだよ」


 にやけた顔でリネアが言う。


「モテない言い訳としては寂しすぎない?」


「仕事なんでね」


 赤眼の男の返事に訝し気にリネアが訊ねた。


「本当なの?」


「何か質問があるなら夜にバーズから聞いてくれ」


 そう言って道を一人歩く女に声を掛けるツェンにリネアは白んだ目を向ける。


「信用できないんだけどぉ?」


「趣味と実益を兼ねているんでねぇ」


 次々と女性に声をかけては笑っている赤眼の男を見て長い黒髪の女が呟いた。


「心配なんてしなきゃよかったかしらねぇ」




 ジェットコースターに乗った子供達が降りてくる。


「もう一回乗ろうぜ!」


「ええ、望むところよ……」


 青い顔をしたシルファの腕を掴むとバーズが言った。


「あまり無理をするな」


「このシルファさんがジェットコースター如きにビビってエル君の申し出を断る訳にはいかない」


 平常ではない物言いになっている少女の声を聞いた金眼の少年が言う。


「具合悪いのか?」


「何てことないわ……行きましょう」


 蒼白となった少女の顔を見ると少年がベンチに座った。


「俺も食ったばかりで気持ち悪くなってきた。少し休んでこうぜ」


「仕方ないわね……そうしましょう……」


 ふらつく足取りでエルの隣にシルファが座るのを見るとバーズが問う。


「飲み物を買ってくる。何かリクエストはあるか?」


「俺はさっきも飲んだしもういい。先生は?」


 気を失ったかのようにエルの肩に頭を預ける少女の眼にバーズが青い眼を光らせる。


「任せたぞ」


「おう」


 金眼の少年の返事を聞くと青眼の男が売店へと歩いていった。



 バーズが子供達の下へ戻ってくると二人の近くにログがいた。


「よかったのか? 子供達から目を離して」


「君が傍にいたようなのでな」


 その返事に長い黒髪を後ろで結った男が仏頂面で言う。


「一度もターゲットに覚られたことがないことに自信を抱いていたんだがな。お前達の知覚範囲はどうなっている? 任務でお前等の事務所を視察に行った時など2km先でもスコープ越しにツェンに目を合わされた」


「あいつは単純に勘と目がいいだけだ」


 買ってきた飲み物をシルファとログに渡しながらバーズが答えた。


「お前の能力に関しては詮索するな、と?」


「私は眼がいいんだ」


 渡されたコーヒーを飲みながらログが苦々しい表情で告げる。


「答える気はないようだな」


「私の回答が気に入らなければそう思ってもらって構わない」


 話し合う二人の間に金髪の少年が割って入った。


「何の話してるんだ?」


「仕事の話だ」


 ぶっきらぼうにログが答えると次いでバーズに言う。


「お前の耳に入れておくべき情報がある」


 その言葉にバーズはログに向けて青い眼を光らせると答えた。


「詳細は分かった。君は引き続き調査を続けてくれ」


「お前と付き合って数日だが、話もせずに己が理解されているというのは気持ちが悪いものだな」


 そう吐き捨てるとその場を去ろうとする黒髪の男にバーズが言葉を投げる。


「詳しいことは夜に話そう」


「お前に振り回されている赤眼の死神も同席することを期待している」


 そう言葉を残すとログは人込みへと姿を消した。


「何か機嫌悪そうだったな」


「仕事が忙しいのだろう」


 金髪の少年の問いかけに青髪の男が答える。


「ふーん……それってはぐらかしてねぇ?」


「元々仕事で来てるんだから、バーズ達は忙しいの」


 体力を取り戻したブラウンの瞳の少女がエルを諭した。


「どうせ聞いたってよく分かんねぇしどうでもいいや」


「いずれお前にも俺の口から説明はする。お前に勉強を教える時間が取れなかったことは悪かったが、しばらくはシルファに教えてもらうといい」


 バーズの言葉を受けて金髪の少年が栗色の髪の少女に質問をする。


「どういう意味だ?」


「大人の話が分かるようになるために勉強しましょうってこと」


 曇らせた表情を明るくしてエルが満面の笑みで答えた。


「仕事の手伝いができるってことだな!?」


「いずれ俺を楽にさせてくれ」


 二人のやり取りを見て、痛む腹部を押さえるシルファは静かに笑った。

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