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The ability  作者: 不破陸
The ability
12/112

12.黒百合(仮)

黒いスーツを着た赤眼の男が繁華街を歩きながら言う。


「腹減らねぇか?」


「小腹は空いてるわねぇ」


 白いシャツにデニムを履いた女が答えた。


「そんじゃあそのへんで何か食ってくか」


「美味しいクレープ屋さんがあるから案内するわぁ」


 リネアの返事にツェンが言う。


「そろそろ昼だぜ? そんなんで足りるのか?」


「その後も色々と回るのよぉ」


 そう会話を交わす麗人のカップルに道を行く誰もが一度は目を向けた。



 店頭のベンチに座りながら苺のクレープを口にしたツェンが言う。


「心地の良い甘さだねぇ」


「気になってたんだけれど」


 アイス入りのクレープを手にしたリネアが告げた。


「あなたって食事をする必要あるのかしら?」


「いや、腹が減ることもないから別に喰う必要はねぇな」


 クレープを一口食べるとリネアが言う。


「味を楽しむために食べてるってこと?」


「へっ、ちったぁデート気分を楽しませろよ」


 一口サイズになったクレープを咀嚼し飲み込むとツェンが続けた。


「それに俺が味を忘れちまったら飯を作ってやれなくなるだろ。王道のレシピや俺なりの味付けはあるけどよ、味見もできなくなっちゃぁお終いだ」


「それはバーズさんやあの子達のため?」


 もう一口クレープを齧るとリネアが問う。


「色々あるンだが元々はサラのためだ。するか? この惚気話」


「ご遠慮するわぁ」


 クレープを食べ終えたリネアが立ち上がると、ツェンもその後に続いていった。



「小籠包6つ入りと烏龍茶を2つお願いします」


「750ウェンになります」


 リネアが注文をすると店員に紙幣を差し出したツェンが言う。


「俺は喉も渇ねぇんだが?」


「口直しよぉ。味は分かるんでしょ?」


 釣銭を受け取ると艶やかな黒髪の男が笑みを浮かべながら答えた。


「ありがとよ」


 飲み物を受け取ると赤眼の男が小籠包を口にする。


「あっつ!!」


「あなたにも痛いとか熱いとかの感覚があるのねぇ」


 烏龍茶で口内を冷ましているツェンにリネアが告げた。


「上司とやらに大戦時の俺の話を聞かされたのかもしれねぇが、あんま人を化け物扱いすンな」


「血が繋がっている以上、自分が人外じゃないかって不安になることもあるのよぉ?」


 その言葉に深く思い悩んだ後にツェンが言う。


「お前は俺みたいに不老不死じゃねぇよ。生まれてここまで育ったことがその証だ」


「だったらどうして貴方は成人しているの? 私は成人してからあなたのようになるかもしれないじゃない。私の父親はちゃんと人から生まれてきたの?」


 気まずい顔でツェンが答える。


「説明してもいいんだけどよぉ」


 一拍間を置くと赤眼の男が告げた。


「長くなるから後にしてくれねぇか?」


 再び小籠包を口に含んだ艶やかな黒髪の男を見ながらリネアが言う。


「できればバーズさんも交えて聞いておきたいわねぇ」


「バーズがホテルをお前の分まで予約してるそうだ。そこで話すよ」


 その言葉を聞きながら小籠包を口にしたリネアが叫ぶ。


「あつ!」


「だろう?」


 ドリンクで舌を冷やした後にリネアが言った。


「そこまであつらわれてちゃねぇ。後でじっくり聞かせてもらうわよぉ?」


「大して面白くもねぇ話だぜ」


「面白いかどうかは私が判断するわぁ」


 端末を弄りながらリネアが告げた。




 服を選びながら赤眼の男が告げる。


「今の仕事は変えられないのか?」


「警察を辞めろってこと?」


 長い黒髪の女の返事にツェンが答えた。


「俺に付き纏うような任務からは離れろってことだよ」


「上官からの指令でもあるし、私はそれを受け入れて臨んでいるの。貴方にどうこう言われたくはないわねぇ」


 何着か服を手にした艶やかな黒髪の男が言う。


「20年以上ほったらかしておいて今更父親面するつもりはないけどよぉ。危ねぇんだよ、俺の傍にいるのは」


「危険があれば自分の望むことすらできない生き方なんて選ばない。たとえ父親に言われたとしても意見を変えるつもりはないからね」


 リネアの言葉に赤目の男が彼女の目を見ながら告げた。


「お前に何かあったらサラに合わせる顔がねぇからなぁ。傍から離れないってんなら全力で護るだけだ」


「あなたこそ少し離れてくれない?」


 肩に手を回そうとしているツェンの体を押し退けたリネアが言う。


「つれないねぇ」


「そういうのは止めて。娘にまで欲情してんの?」


 厳しい口調でそう告げるリネアにツェンが答える。


「俺もそんな無節操じゃねぇよ」


 そう告げたツェンがレジに近づくと店員に声をかけた。


「これ試着していいでスかぁ?」


「ご試着は一着ずつお願いします」


 ツェンが店員の女に持っている服を広げて見せる。


「西の暮らしが長かったもんで、こっちの流行とか分からないんですよ。この中に俺に似合いそうで流行りの服ってあります?」


「お持ちしますので、そのようなことはあちらの彼女さんからお選びいただけたらと……」


 白んだ目でツェンを見ているリネアを気にした店員が口ごもりながらそう告げた。


「だってよ、選んでくれないか?」


「冗談、貴方のコーディネート力の試され時じゃない」


 そう言われた赤眼の男が靴や小物を籠に入れて持ってくると店員に渡す。


「そんじゃあ悪ぃんですけど持っててくれます? パパっと選ぶんで」


「ご購入されない分もお会計の際にレジにお持ちください」


 長い黒髪の女に籠を渡すと店員は逃げるように去っていった。


「やっぱ女連れだと余所余所しいねぇ」


「アンタの赤眼が怖いのよ」


 そうぼやくツェンにリネアが言う。


「お前が恐ぇんだよ!」


 そう告げると艶やかな黒髪の男が試着室に入っていった。



「よお、どうだ?」


 しばらくすると試着室から赤眼の男が出てきた。


 ターバンともバンダナともつかない布に金のチェーンを垂れ下げ、丸眼鏡のサングラス、砂漠の民が着るような足元まで届く長い白い装束の腹部を金の刺繍が入った帯で巻き、その上に青い上着を羽織ったサンダル姿の男を見てリネアが言う。


「よくお似合いねぇ。ここより少し西寄りのセンスみたいだけれど」


「あんま決まってるからって俺に惚れんなよ」


 渇いた笑みを浮かべながらリネアが告げた。


「胡散臭い」


「酷ぇ評価だな」


 そう言ったツェンがリネアから籠を受け取るとレジへと向かっていく。


「試着中なんスけど、このまま買えますかねぇ?」


「タグをお取りしますので一度着替えてから持ってきていただけますか?」


「そんじゃあこれとこれも会計頼むよ」


 籠から商品を出すとレジに置いた男が試着室へと戻っていった。



 試着室から出てきた黒いスーツの男が再びレジへと向かう。


「そんじゃこちらもお願いしますよっと」


「かしこまりました」


 そう言って店員はレジを打ち始めた。


「何か欲しいもンなかったのか?」


「地元だからねぇ。あんまり服に興味もないし」


 ツェンが何着かハンガーにかかっている服を手に取るとリネアを鏡の前に連れて行く。


「こういう色合いが似合うと思うぜ」


「参考にしておくわぁ」


 まんざらでもない表情を浮かべリネアが言った。


「お客様、タグが取り終わりましたのでお会計をお願いします」


 ツェンが手にした服を元あった場所に戻すとレジ前に向かう。


「お会計四万八千ウェンになります」


 五万ウェンを差し出すとツェンが言った。


「釣りはチップなンで取っておいてくれ。その代わりと言っちゃ何でスけど、これ持って着替えるんで試着室使ってもいいスか?」


「何だか少し古い東国語を喋りますね」


「古い人間なもンで」


 若い男に微笑みを浮かべた店員が空の袋を差し出す。


「こちらをお持ちください」


「ありがとさん」


 そう告げレジから向き直ると赤い羽帽子をリネアの頭に乗せ、青い長めのカーデガンを羽織らせツェンが言った。


「お似合いだぜ?」


 そう言った黒いスーツの男が試着室へと姿を消す。


「とてもお似合いですよぉ」


 そう言う店員に鏡の前に促されたリネアが呟いた。


「コーディネート力ねぇ」


 鏡の前で背中を確かめると、両手をうなじに回し長い黒髪をカーデガンから引き抜く。


「私に青を選んだ男は初めてよ」


 端正な顔を崩して言うリネアに店員が見惚れていた。




「中央広場の噴水って分かるか?」


「ここから歩いて10分くらいのところねぇ。どうしたの?」


 店から出たツェンが言う。


「さっき連絡が来てね。バーズ達がそこで待ってるとよ」


「それじゃご案内致しますわぁ」


 上機嫌のリネアが先導しようとすると男と肩がぶつかった。


「あらぁ、ごめんなさい」


「いえ、こちらこそ」


 自分の傍を歩いている別の男の腕を掴むとツェンが言う。


「折るぞ?」


「はい?」


 その返事にツェンが男の腕を握りつぶした。


「白々しいんだよ!! 人からスっておいて惚けてんじゃねぇぞ!!」


 折れた男の手から財布を取り返すとリネアの横にいる男に向き直ってツェンが告げる。


「テメェもだよ」


「何でしょうか?」


 その返事を聞き、丸い縁のサングラスをかけた男が掴んでいる腕をそのままに男の頭上にスリ師の体を振り下ろした。


「俺相手にシラ切るなんざ千年早ぇんだよ」


 昏倒している二人の男にざわつく周囲を見て、リネアの手を掴んで歩き出したツェンが言う。


「ここらへんの治安は悪いらしいが、こんな大通りで堂々と盗みを働く輩がいるとは聞いてねぇな。今の二人組も警察に顔が割れてるヤツだろ?」


「このあたりは私の管轄じゃないからねぇ。私服の同業者はやけに目につくけど」


 辺りを見回して言うリネアに、ツェンが頭の布に財布を差し込んで告げた。


「そんな話も聞いちゃいねぇんだよなぁ」


「それってバーズさんの情報?」


 ツェンの手を振り払ってリネアが問う。


「いいや、俺が何のために毎夜毎夜色街に繰り出してると思ってんだ」


「趣味」


 その答えに肩を落としたターバンの男にリネアが言った。


「冗談よ。少し見直した。それより頭から財布が落ちそうになってるけど」


「ん? これか?」


 ツェンが頭に巻いた布からずり落ちてきている財布を押し込むと、口にかざした手からそれが出てきた。


 財布をセカンドバッグにしまうとツェンが言う。


「ただの手品だよ。今のだってバッグにゃ入れてないぜ?」


「上手すぎて気持ち悪い」


 そう言った後に少し思案してリネアが質問をする。


「そんな何処にしまってあるのかも分からない財布を、さっきの連中はよくスれたね?」


「その界隈じゃ割と有名らしいぜ? そんな連中がわざわざ俺の財布を欲しがった理由は分からねぇが」


 広場へと歩を進めながらサングラスの男が言った。


「どうにもキナ臭い感じがするわねぇ」


「スリにゃ縁がなかったが俺の回りは大体こんなもンだ」


 頭の布から携帯電話を取り出し、登録されている番号にかけるとツェンが言った。


「着いたぜ? どの辺だ?」


「こちらから向かう。どの通りから来た?」


 低い声が端末から流れる。


「南通りからだ」


「ああ、確認した。向か」


 ツェンとリネアを視認したバーズは、おぞましい感情を持つ男を視界の端に捉え言葉を切った。


 視線を感情の発生源へ向けると、憎悪の塊のような男の姿はもう視界には映らない。


 青い眼を光らせるとバーズが言った。


「何だ……今のは」


「俺のことか?」


 思わず口に漏らしていた言葉を端末越しにツェンに問われたバーズが答える。


「いや、こちらの話だ。そちらに向かうので合流しよう」


 歩いていく青髪の男の後ろを二人の子供と黒髪の男がついていった。

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