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The ability  作者: 不破陸
The ability
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11.夏の終わりの空

「それでは私はこれで失礼致します。良いご旅行を」


 トランクから荷物を降ろした運転手が一礼をすると車に乗り去っていった。


「今から何するんだ?」


「俺とログはホテルに荷物を預けにいく。君達はツェンと買い物でも楽しんでいてくれ」


 金髪の少年の質問に青眼の男が答える。


「バーズが行くなら私も一緒に行く。それに自分の荷物は自分で持つから」


「先生が行くなら俺もついてくぞ」


 各々の荷物を持った子供達がそう告げた。


「お姫様を守るナイトは大変ねぇ」


「リネアさんもそこの色魔に襲われないようにお気をつけて」


 リネアの言葉に無表情のままシルファが答える。


「冷たいねぇ」


「公共の場であんなものを見ている方が悪いんです」


 そう言われた赤眼の男が栗色の髪の少女にタブレットを手渡しながら告げる。


「俺の趣味じゃねぇよ」


「そういうことですか」


 操作もなく勝手に動き続ける端末を見てシルファが言った。


「ウィルスでも喰らったのかクラッキングでもされてんのか知らねぇが、その方面については詳しくないから俺には分からねぇ」


「後で解析してみます」


 タブレットを機内モードに切り替えた後、電源を落とすとブラウンの瞳の少女が鞄にそれをしまう。


「連絡に使う端末を渡しておく」


 バーズがツェンに携帯電話を差し出した。


「では行こうか」


 そう言うと青髪の男が歩き始める。


「そんじゃ俺達も行くとするか。地元だろ?案内頼むぜ」


「高いわよぉ」


「欲しいものがあったら買ってやるよ」


 そう言いながら二人の男女が街へ向かって歩き出した。



「予約していたバーズ・クィンファルベイだ。また後でチェックインに来るが荷物を預かっていてもらいたい」


「お待ちしておりました。係りの者がお受けいたしますので少々お待ちください」


 一礼の後、端末を操作しながら受付の女が言った。


「お待たせ致しました。お預かりいたします」


「四人分なので少々かさばるが」


 現れたボーイが台車に荷物を載せるとバックヤードへ運んでいった。


「ご予約は六名で承っておりますが」


「四人か五人になるかもしれないが、そのまま六人で予約を入れておいてもらえるとありがたい」


 人数差に疑問を抱いた女の質問にバーズが答える。


「当日キャンセルは宿泊料金の100%になりますことご了承下さい」


「問題ない。元々六人で泊まる予定だったんだ。予算に変更はない」


「かしこまりました。チェックインは15:00からとなっておりますので、それ以降の時間にお越しください」


「ああ、ありがとう。キャンセルが分かれば早めに連絡するよ」


 礼を言うとバーズがロビーのソファに座る子供達に近づいていった。


「少しログと仕事の話がある。ホテルのカフェで待っていてくれないか?」


 頷く子供達にバーズが携帯電話を差し出す。


「連絡用の端末と君達のパスポートだ。シルファ、これは君が持っていてくれ」


「はーい」


 金髪の少年に向き直るとバーズが紙幣を差し出した。


「お前は少し金を使う感覚に慣れた方がいい。会計は任せるぞ」


「これ一枚で足りるのか?」


 見たことのない紙幣を訝しげに見つめながらエルが言う。


「一万ウェンだ、どう飲み食いしてもまず大丈夫だろう。万が一足りなければシルファに連絡してもらえ」


「凄いんだな、この紙」


 エルが紙幣を折りたたみ丁寧にポケットへ入れた。


「百ウォルと言った方が分かりやすいか?」


「金で買い物したことないから正直よく分からねぇ」


 エルの言葉に青い眼を光らせるとバーズが告げる。


「そろそろ本格的にお前に勉強を教えようと思う。一般教養から社会生活に関してもな。これはその第一歩と考えてくれ。なぁに、レジにその紙を置けばいいだけだ。分からなければシルファに訊くといい」


「分かった、行ってくる」


 そう言った少年が少女を連れてカフェへと向かっていった。


 その背を見届けるとバーズがログに言う。


「少し聞きたいことがある」


「それは構わないが子供達を二人切りにして大丈夫なのか?」


 巨躯の男達が対面にソファに座るとそう言った。


「周囲を探ってみたが彼等を直接狙う意思を持った者はいないようだ」


「お前の能力に関しては不明瞭なことが多々ある。大戦時には一瞬にして百万に及ぶ兵士の命を奪ったと聞いたが探るというのはそれと関係があるのか?」


「俺の能力について多少は知っているようだな」


「人の記憶を操れるとは聞いている」


 ログの言葉に青い眼を光らせるとバーズが答える。


「今はその認識でいい。大戦時は私もツェンも今とは違う桁外れな力を使っていたが、大戦を終わらせた時点でそのような力の使い方は止めた」


「答えになっていないな」


 一息吐くとバーズが返事をした。


「その気になればこの空の下にある全ての生物の記憶を操れるが、今はそのような力の使い方をしないと決めている」


「お前達の話は常にスケールが大きすぎてよく分からん。お前が言うからには嘘はないのだろうが、それをそのまま信じろと言われても腑には落ちない」


 視線を落とすとバーズが言う。


「我々が一方的に異常な力を使って一時的に世界を安定させたところで意味がない。そのためこちらも最低限人間らしくやろうと決めた。今更我々の力に関して知る必要はないだろう」


「記憶を読む程度に留めておく、だったか? 初めて俺と会った時は妙な力を使ったようだが」


 ログがソファの背凭れに背を預けると言った。


「俺に聞きたいことがあると言ったが、それこそ俺の記憶を読めば済む話では?」


「部下に対話をしろと叱られてね。その練習だ」


「俺相手にそれは必要がないと思うが、第一歩というヤツか?」


 視線をログに戻すと青い髪の男がログに言う。


「お付き合い願おう」


「青眼の悪魔も随分と丸くなったものだな」


 表情を緩ませると青い瞳の男が言った。


「では質問を始めよう」



 二人の少年少女がホテル内のカフェに入ると店員が声を掛ける。


「二名様でしょうか?」


 東国語が分からない少年は店員が掲げる二本指に対しVサインを返した。


「二名様ですね。チケット等はお持ちでしょうか?」


「チケット……?」


 部分的に聞き取れた言葉に、エルはポケットから取り出した紙幣をレジに置く。


「お父さんとかお母さんとかいる?」


「さっきから何言ってんだ、こいつ」


 振り返ってそう問いかける少年に、見かねた少女が答える。


「二人です。チケット等は持っていません」


 流暢な東国語で答えるシルファに店員が態度を改めて答えた。


「当ホテルに宿泊される方以外のご利用はご遠慮させていただいておりますが、宿泊予定でしょうか?」


 一方は言葉の通じない子供二人の来店を不審に思った店員が質問を重ねる。


「本日宿泊を予約しているバーズ・クィンファルベイの連れです。父は仕事の関係でロビーにおり、私達はカフェにいるようにと言われました。生き別れだった兄は西の出身なもので東国語が分からないのです」


 その返答を不憫に思った店員は丁寧に言葉を返す。


「大変失礼致しました。ご案内致します」



「さっき何て言ってたんだ?」


「別にー」


 その質問に答えるだけで何日かかるのかと思った少女はメニューを開いて少年に差し出す。


「それより選んで。どうせ注文するのは私なんだから」


「じゃあ、この肉とこの肉」


 メニューにある分厚いステーキを指差したエルが言った。


「こんなに食べられるの?」


「たまにツェンが作る料理なんてもっと多いだろ」


 エルの食事量を振り返ったシルファが店員を呼ぶ。


「パンケーキとコーヒー、こちらのステーキ二種とこのサラダとオレンジジュースをお願いします」


「かしこまりました」


 メニューを指して注文をする少女にメモを取った店員が去っていった。


「先生さぁ、本当に頭が良いんだな」


「何で? 東国語が喋れるから?」


「それもあるけど、俺の好きなサラダと何か飲み物も頼んでくれただろ」


 微笑みながら少女が答える。


「そんなの頭の良い内に入らないわよ。お節介な妹からのプレゼント」


「そいつぁすまねぇなぁ」


 表情を曇らせた少女が言う。


「ツェンみたいな言い方はやめて」


「何だよ。俺、アイツのこと尊敬してるんだ」


 その言葉に目を丸くしたシルファが声を上げた。


「何処を!?」


「飯も美味いしいつだって何だってやってるところかな。俺、アイツ等のところに行ってから二週間くらいはアイツのことが嫌いでよく手が出てた」


 3人で暮らしていた頃の話を初めて聞く少女が黙って耳を傾ける。


「その度に体当たりでぶつかってくれたんだ」


「それはタックルされたってことじゃないわよね?」


「俺もそこまで馬鹿じゃねぇ。ちゃんと話をしてくれたんだ。いつも怒ってばっかだったけど、話してるうちにアイツは親父とは違うんだって思えた」


 握り締めた拳を見つめながら話す金髪の少年にブラウンの瞳の少女が訊ねる。


「バーズのことは?」


「バーズのことはよく分かんねぇけど最初から好きだった。だからアイツの隣にいるツェンみたいになれたらなって」


 話を聞いて納得しかけたシルファの脳裏に初めてツェンと出会った時の記憶がフラッシュバックされた。


「あんなのみたいにならなくていいから、君は自分なりにバーズの横に立ってあげて」


「先生、ツェンに厳しいよな?」


 エルから視線を反らすとシルファが言う。


「色々あるんですー」



「つまり君の認識も子供達に直接手をかけることはないということでいいんだな?」


「何処の国や組織も己が有利に立つようにツェンを動かしたいと考えている。わざわざヤツの怨みを買う真似はしないだろう」


 ログの言葉にバーズが告げる。


「君が言っていた『子供たちを巻き込む』というのは?」


「人質として利用価値があるという意味だ。そこまで聞かなくてもお前なら分かるだろう」


 青い眼を光らせるとバーズが言う。


「俺も常に人の記憶を読めている訳ではない」


「そういう意味で言ったつもりはないが、やはり少々話がすれ違うようだ」


 ソファから立ち上がるとバーズが言った。


「引き取った以上、子供達が不幸になる要素は排除したい。君は子供達まで巻き込む可能性のある爆発物を送り付けるつもりはなかっただろうが、君ほど考えのない輩もいる」


「ツェンが開けた小包のことか?」


 同じくソファから立ち上がるとログが言う。


「何か知っているか?」


「俺の知る限りでは極東が関わっている『かもしれない』程度の情報しかない」


 カフェに向かいながら二人の男が会話を続けた。


「君の探り通り極東が関わっていると思われるが、詳細については雲を掴むようかのように誰一人として情報を持っていない」


「あの地域に関しては不明点が多すぎる。建前上は帝国からの独立を果たしたとなっているが、未だ現共和国の実験場のような環境だ。少なからず快く思っていない人間はいるだろう」


 携帯電話とパスポートをログに渡すとクィンが言う。


「君は優秀なエージェントだな」


「雇用主を裏切ってお前と契約を交わした俺には不釣り合いな言葉だ」


 二人がカフェの入り口まで辿り着くとレジ前にいる二人の子供が見えた。


「お会計一万飛んで二十ウェンになります」


 金髪の少年がポケットから取り出した紙幣をカウンターに置く。


 その上に栗色の髪の少女が小銭を置いた。


「ありがとうございました」


 店外へと歩いていく少女に少年が問いかける。


「何だ今の?」


「10020ウェンって言われたでしょ。足りなかったから出したの」


 少女の言葉に金眼の少年が言った。


「俺この国の言葉分からねぇし。先生、金持ってたんだな」


「嗜み」


 シルファが返した言葉の意味は分からなかったが店外にいる二人の男を見つけるとエルが駆けていく。


 その後ろを少女がついていった。

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