0.1.乱心
「ここもほとんど吹っ飛んじまってるなぁ」
極東の上空を行くヘリの中でツェンが言った。
瓦礫さえ存在しない荒地の先に、聳え立つ建物が見えた。
巨大な建物の前に着陸したヘリから5人と一体のロボットが降りる。
「何故このような事態になったのか」
クィンが青い眼を光らせると外界と何層にも隔てられた扉が次々と開く。
「君たちはそれを知っておかなければならない」
建物の内部に入った5人が青い光に包まれ、付着していた放射性物質が除去された。
地下へ降りるエレベーターの中で赤眼の男が問う。
「1200年前がどうとかって話か?」
「世界を滅ぼした憎悪の原因がここにある」
深く地下へ降りていくエレベーターの中、バーズが続ける。
「1200年前、北の帝国がこの島国を蹂躙した。今でこそ地上は技術と情報伝達の実験場だったが」
含みのある言い回しにシルファとソーマに緊張が走る。
「これがその成れの果てだ」
エレベーターが大きく揺れ、開かれた扉の先に彼等は見た。
家畜。としか言い表せない姿のヒト型の何かが飼育されているのを。
漂ってくる強烈な臭いを嗅いだシルファが手で鼻を抑えた。
「何だ?こいつら」
悪臭に顔を顰めてツェンが訊く。
「もはや食肉用の豚だ。1200年に渡る品種改良の末に出来上がった人肉。これが憎悪の根源だ」
「ヒデェな」
眼前に並ぶ何十万頭ものヒト型の何かを見てツェンが言った。
「すべて人類が選んだ末路だ」
話の途上で銃を持った職員が現れた。
「貴様等ここで何を」
「黙れ」
青い眼が光る。座り込んだ男達にバーズが告ぐ。
「お前達にも協力してもらう」
「何の権限があって」
「もう時間がない」
青い眼を強烈に光らせた男が言うと、男達が次々と嘔吐を始めた。
「分かっただろう。世界は滅んだ。その一旦を担っていた事実を認識したなら俺に協力しろ。断れば殺す」
「承知いたしました」
神が如き言葉を脳内に直接叩き込まれた職員達が畏敬の念をもって返事をした。
狂乱の魔神。バーズは自身がそうなる前に全てを終わらせたかった。
世界を人類の手で再興させる。それまでは正常な意識を保っていなければならない。
純粋な青が人の意識に触れすぎた。気が狂れそうだった。狂乱に陥る前にクィンは全ての約束を果たしたかった。
スラム街で出会った金髪の少年が頭に浮かぶ。
「世界は滅びた。ここから人類を再生する」
バーズが声高らかに宣言する。
「ここが第二の地上だ!家畜共を有効に使い土壌を創り上げろ!!日々を邁進せよ!!それが貴様等の生きる理由だ!!」
その宣言にシルファが困惑しながらも、悠里とバーズの能力を思い出した。
消えかかる炎のような赤を瞳の内に揺らめかせたツェンは何も言わなかった。
「建国せよ!!我が力を以て世界は再興される!!」
バーズが青い眼を強烈に輝かせるとヒト型が立ち上がった。
「自身を解放せよ!貴様等が望む全てを叶えてやる!!我を望め!!我を願え!!我が神だ!!!神を求めよ!!!!崇めよ!!!神を!!!」
悲し気な表情でツェンがクィンの後姿を見つめていた。




