0.悠里
輸送機が東国の上空に差し掛かるあたりでロボットが機械音を発する。
「生体反応があります。生体反応があります」
自身が吹き飛ばした大地の中、こちらに手を振っている銀髪の青年を眼にしたツェンがロボットに命令する。
「降ろしてくれ」
「かしこまりました」
降下したヘリからバーズとツェンが降りた。
「良かった!生きてる人がいて。何が、何が起こったんですか!?」
「すぐには説明できない。私達は生存者の救助をしている公安の者だ。一緒に来てくれ」
銀髪の青年がその言葉に応じ、バーズ達の後をついてヘリに乗り込み着座した。
空気が重い。目の前に座っている栗色の髪の少女もそうだが、全員が醸し出す雰囲気に耐えられず銀髪の青年が自己紹介を始める。
「ソーマと申します。主に電気工学を専門にしている研修員です。よろしくお願いします!」
「私の名前はバーズ=クィンファルベイ。この空気を換えてくれたことに礼を言う」
青眼の男に言葉にツェンが続く。
「俺の名はツェン=フォーカス。呼び捨てはオーライだが呼び間違えたら怒るぜぇ?」
空気を読んだ栗色の髪の少女が淡々と述べる。
「シルファ=ヴィレーネといいます。博士号を持っており、専攻は脳科学です」
金髪の少女が自分の番が回ってきたと思うが、何も言うことが思い浮かばない。
「リリィと言う。北の出身だ」
バーズの言葉を受けてツェンが言う。
「リリィちゃん。あんま深く考えなくていいぜ」
ツェンの言葉に顔を上げて金髪の少女が発言する。
「リリィと言います。旧姓はリリィ=ホドルコフスキーです」
ユーリィ=ホドルコフスキー。それが通名だが悠里には苗字が存在しない。
だからリリィは彼と結婚した時からファミリーネームを失っている。
「もしやレーベルク=ヴァン=ホドルコフスキー様のご息女であられますか?」
まん丸と目を開いたソーマが不躾な作法で訊ねる。
「はい」
「レーベルク様はどこにおられるのです!?」
自身の叫び声に、はっとした銀髪の男が言い直す。
「お父様はどちらにおられるのでしょう」
「死にました。そこの青眼の悪魔が殺しました。天国にいるか、地獄にいるかは分かりません。信仰心などない人でしたが、いるとすれば地獄でしょう」
ツェンとシルファがリリィの言葉に面白くない表情を浮かべる中、ソーマがバーズに問う。
「何故で」
「黙れ。説明が面倒くさい」
青い眼を光らせたバーズを見て銀髪の男が膝から崩れ落ちる。
「袋を下さいませんか」
「吐くなら吐け。処理はしてやる」
嘔吐したソーマの吐瀉物を一瞬にして青い光が消し去った。
「もう人類は存在していないのですね」
「可能性は残っている」
バーズから記憶を受け取ったソーマがしばし考え込み聞き返す。
「僕が生き残っているから、でしょうか?」
「君と同様に熱波の直撃を受けていなければ生存しているはずだ」
シルファとリリィに視線を移した青髪の男が告げる。
「レーベルクの遺伝子を持ったこの子たちと同じように」
胸焼けを抑えた青年が告げる。
「いきなり兄妹が増えましたねぇ」
自身の出自を知っているシルファは何も思わなかった。精子バンクからレーベルクの遺伝子を購入した子供達がいるのだろうとしか。
「この後はどうされる予定で?」
「極東へ行く」
恐ろしく低い声で返事をしたバーズに、ソーマはそれ以上何も言わなかった。




