88.RAIN
雨に打たれる青髪の男に、金髪の少女を連れた男が声をかけた。
「どうだったかね。私の自信作は」
「これがお前の望みか?レーベルク」
そう呼ばれた金髪の男がケタケタと笑う。
「違うよォ。私が望んだ訳じゃない」
「いい加減コンタクトを外せ。記憶が読みづらい」
少女と共に光の膜により雨を弾いている男が答える。
「君ぁが―――使える限りの能力を使えば・・・いいこ、いいことじゃァないかぁ?」
狂気に満ちた笑みを浮かべる男にバーズが青い眼を強烈に光らせた。
「一応聞いてやる、知ってたのか?」
バーズの能力を真似て自身のクローンに人格を移し続け、自分同士が喋る内に人格を失っていった男が答える。
「見りゃ分かるだるぅぉ。君の、の、能力が記憶を読むだけじゃ、ない、ないってことは!!」
「喋り方が鬱陶しい」
青い光が天から地に走り、レーベルクを貫く。
「やはり君の能力は事象を書き換えることか」
「今さらそんなことはどうでもいい。何をしに来た」
降り続く雨の中、バーズが問う。
「娘に分かるよう喋っていただけるのはありがたいが、私の望みは分かってるだろう?」
「お前を取り込めということか?先にその娘の声を聞いてあげることだな」
金髪の男が自身の娘―――リリィを見つめる。
「今さら父親として応えてやれることは何もない」
視線を金髪の少女から外し、再びバーズの眼を見た男が答えた。
青眼の男の体が震える。
「貴様が、貴様等が全てを破壊しておいて都合の良いことを言うな!!」
打ちつける雨音を掻き消して怒号が響く。このまま自身の能力で世界を元に戻せたら、どんなに楽だったろう。
『人類が人類の手で未来を創ることに意味がある。いつ消えるかも分からない神の力は要らない』
シルファの母親であるソフィアの言葉を頭に浮かべたクィンにレーベルクが告げる。
「私は望みを叶えてやっただけだ。君と同じように」
「俺は・・・」
言葉に詰まった青眼の男に金髪の男が言う。
「平和を求めた結果、世界が滅びたのなら、それが人類の望みだろう」
「こんな結果を誰も求めてはいなかった!!」
青い眼をレーベルクに輝かせた男が叫んだ。
「私の知ったことではない。いい加減に疲れてきた。そろそろ私の望みを叶えてくれないか。私とて人類なのだよ」
青い眼を光らせたバーズがレーベルクを見ることもなく言葉を吐露する。
「望むならくれてやる」
レーベルクが恍惚の笑みを浮かべながら青い光の中へ溶けた。
「君は」
深く項垂れていたバーズが顔を上げてリリィに告げる。
「君はどうしたい?」
「この子を育てたい」
自身の腹を撫でた金髪の少女に青髪の男が返す。
「もう約束はしない。だが協力はしてやる」
悪鬼が如き表情をしたバーズが、少女の手を引いて事務所へ向かった。
心拍数も少なく呼吸をしていない金髪の少年がバーズの眼に映った。
その隣で頽れている少女が呻く。
「バーズ。エルが・・・エルがぁ・・・」
離れゆく命を前にシルファが嗚咽する。
その声に呼応するかのようにエルの手がシルファの頬に触れた。
「もう泣くなよ」
意識などあるはずがない。だが確かにそう告げた少年が金色の眼を薄く開いたまま、逝った。
その魂を見送った赤眼の男が少年の瞼を静かに閉じる。
しばらくの沈黙の後、ツェンが声を上げる。
「で、どうすんのよ?いつまでもここにいても仕方ねぇだろ」
黒いレースの服を着ている少女へ眼をやったツェンにバーズが答える。
「極東の地下に巨大な空洞がある。そこを目指す」
「何かあンのか?」
「道すがら話す」
端的に答えた青眼の男が部屋を出ていった。
泣き崩れているシルファと、残された金髪の少女を交互に眼にした赤眼の男が言う。
「お嬢ちゃん、ちょっとリビングの方にいてくれないかな?」
お互いに複雑な表情を浮かべる中、リリィが部屋を出ていった。
もう物言わぬ金髪の少年を前にして、ただそれを二人が眺めている。
やがて立ち上がった少女が部屋を出ていく。赤眼の男がエルの亡骸を抱き上げた。
「雨、晴らすか?」
「ああ、ここだけでいい。頼む」
事務所の前で4人を包んだ光の膜が黒い雨を弾いている中、赤眼の男が天を見上げた。
雲間から顔を覗かせた太陽が地上を照らす。
クィンが地面に眼をやると葬儀用の穴が空いた。
赤眼の男が腕に抱いていた子供の体を横たえる。
その脇にログのリボルバー、ルーチェのデリンジャー、二丁の拳銃が二人の手で置かれた。
「シルファちゃん。何か声かけてやりな。後々少しは気持ちが楽になる」
沈んだ顔をしているシルファにツェンが声をかけた。
今は、ただ、悲しい。頭の中に様々な文字列が巡っているがどれ一つとして言葉として紡ぎだせない。
だから、感情のまま呟いた。
「大好きだよ」
ツェンが掌に生み出した白百合をシルファに手渡す。
胸の上にそれを置いた少女が最後の言葉を捧げる。
「もう泣かないから」
胸に言葉を詰まらせ、号泣しながら、エルの頬を撫でながら。
少女が最後の思いを述べた。
バーズの青い眼が強烈に光り、エルから何かを取り出した。
それぞれの宗儀の作法が終わり、赤眼の男が足元に手をかざす。
「じゃあな」
墓穴に土が盛り上がり、その上に若木が生まれた。
レーベルクが乗ってきた大型輸送機でバーズ、ツェン、シルファ、リリィが極東の島国を目指す。
幽かに焼け残った白樺の樹林が眼下に見える頃、ツェンが言った。
「窓開けてくんねぇか?」
「かしこまりました」
輸送機を操縦している赤眼のロボットが答える。
「ルーチェちゃんと仲良くな」
そう言った赤眼の男が懐から取り出したログの認識票を窓から放った。




