87.REVOLVER
【必ずご確認ください】
以下のワードが苦手な方は閲覧をご遠慮ください
・核
・メインキャラクターの死
後の話で何が起きたか分かるようになってます。
空港を出た赤眼の男がリネアと共に道を行く。
「ここまでだ」
足を止めた男がそう言った。
「地元に戻ると騒ぎになりそうだしねぇ」
娘の言葉に男が答える。
「他にも色々とやることがあンのよ。じゃあ、またな」
リネアを背後に右の手を上げたツェンが去っていった。
「リネアから連絡がありました。もう着くそうです」
「そうか」
そう答えた二人の間に静かな時間が流れた。
やがて玄関の鈴が鳴る。
「ただいま」
「おかえりなさい」
挨拶を交わすサラと視線だけを向けるログに、黒目の女が微笑んだ。
その背後に立つ二人の男を目にした男が懐からリボルバ―を引き抜く。
撃ち込んだ弾丸が光のような膜に弾き返され、ログの左肩を貫いた。
光の膜の中、マシンガンを装備している男を見てサラを抱えてログが隣室へ飛ぶ。
腰に装備していたサブマシンガンを撃ち込むが、全ての弾丸が弾かれる。
自身に照準を合わせているマシンガンを確認したログがサラを突き飛ばし、自身も横へ飛ぶ。
まっすぐにサラへ向かっていった二人の男をログが疑問に思う。自分を消しにきた帝国の使者ではないのかと。
銃弾の音に混乱しているサラの肩を男が掴んだ。
「誰ですか!!」
そう叫ぶ女の腹部を殴打した男が拷問器具を取り出す。
同じくぐったりしているリネアを見て黒髪の男が悟った。
こいつらは死神に捧げる供物を作り出そうとしている。
赤眼の男に世界を滅ぼさせたい。国家ぐるみの意図を越えた漆黒の殺意を感じ取った男が、右の袖から二連の銃口を持つ拳銃を滑り出し、リビングで行われようとしている惨劇を止めるため隣室から飛び掛かった。
八方塞がり。今、彼女達を守る行為とは何なのか。男が考えた。尊厳。その二文字が頭に浮かぶ。
『隊長、俺は死ぬ訳じゃない』
銃口を自身の頭に突きつけてログが吼えた。
「これが俺の生き様だ!!」
トリガーが引かれる。ルーチェが残した弾丸がログの頭蓋を貫く。
心臓が鼓動を止めた瞬間、体内にあった爆弾が白い家屋を消し飛ばした。
ツェン=フォーカスが議事堂へ進む途中、背後で爆炎が舞い上がった。
嫌な予感がした赤眼の男が自宅へ飛ぶ。
「総員!!突撃せよ!!」
東国の警察長官、カトーが司令室で指示を出す。
「あなたは聡明な人だった。何故このような凶行に走るのです。根源に何があるのです!」
各軍事施設に突撃し、果ては自爆していく警官隊の映像を見て副長官が問うた。
「浅学に話すには根が深すぎる」
部下に取り押さえられている副長官の息の根を、加藤が拳銃で止めた。
「各機、特攻せよ!!」
東国の副総理、キリュウが核を積んだ戦闘機、爆撃機、輸送機に指示を出した。
加藤に占拠させた軍事司令部から発された号令に次々と航空機が飛び立つ。
「たかが副総理がどんな根回しを」
息も絶え絶えに言う東国の主席に黒髪の男が言葉を返す。
「根など最初から絡みついている」
漆黒を瞳に宿す鬼龍が、抑えつけられている主席の頭を撃ち抜いた。
「根絶やしにしてやる」
『臨界せよ』
西国の司令官、アライが執務室でコンソールに文字列を打ち込んだ。
遠隔で繋がれている各地の原子炉が次々とアラートを鳴らす。
狂気の笑みを浮かべる新井の直下に根付いている原発と同様に。
金髪の男が独り言ちる。
「罪と罰であげましょうか。愛は根こそぎですから」
『死滅セヨ』
元帝国元帥―――レーベルク=ヴァン=ホドルコフスキーの義理の息子、ユーリィが東国の最高権力機関府で端末を操作する。
3人以上の認証がなければ飛ばないミサイルのボタンを漆黒が押した。
飛ぶ大量殺戮兵器。
他国への着弾を察知した各国が東国への口実と舌なめずりするが、事への認識が遅かった。
レーベルクにより改造された125万発の塩漬けの悪意、放射性物質を巻き散らすためだけに作られた漆黒の憎悪が大陸中を飛び交った。
『思い通りにならない神など要らない。人神。俺の願いを叶えろ』
世界中に降り注ぐミサイル。爆撃が自身にも落ちる。それが希望。悠里がツェンに想いを託した。
世界が点滅する。拍手喝采の夜が始まった。
跡形もない自邸が赤い瞳に映る。
燻っているその残骸で行われている行為をツェンが眼にした。
近付くと光の膜に弾かれるが、それを引き裂いて赤眼の男が凄惨な光景を繰り広げる二人の男を感情もなく焼き払った。
寸前まで生きていたであろう二人の女をツェンが抱く。
女とも、人間とも、呼べるかどうかも分からない死骸を。
近くに落ちていた二つの銃と認識票を手に取る男の周囲が白く光った。
降り注ぐ核ミサイルがツェンの抱いていたものを消し去る。
しばらく座り込んでいた男が静かに立ち上がると、沈んだ眼を悲哀とも憤怒とも分からぬ形に見開く。
マグマより、太陽より赤い、灼ける様な眼をした男の周囲から高熱が噴き上がり、爆裂した衝撃波が5000km四方を消し飛ばした。
「どうだ!格好良いだろ!」
チャック柄のイエローのパンツに白いシャツ、ツェンとお揃いの赤いループタイを巻いた少年が言った。
「ああ、マナーが身に付いた紳士に見える。とてもよく似合ってるよ」
「どう、かな?」
黒いスラックスに白のブラウスを着た少女がはにかみながら青眼の男に問いかけた。
「ああ、可愛らしさと聡明さが表れていて君らしいな」
試着室から出てきた二人にバーズがそう告げた瞬間、世界が光った。
デパートのガラスが吹き飛び、光の直撃を受けた店員や客が一瞬にして消滅する。
厚いコンクリートの奥にある試着室にいたため青眼の男の周囲は比較的無事ではあった。
何が起きたのかを理解したバーズがエルに眼をやると、早々に事務所に戻った。
地球が揺れる。星を何周したかも分からぬほどの衝撃波が未だ続いている。
事務所に戻ったバーズが二人を抱えてエルの部屋に入る。
建物はミサイルの直撃にも耐えられるよう作り替えた。だが、中に住む人間は違う。
どうしても残るのだ。線量は。ましてや排出も間に合わぬ量を全身に受けたエルは。
もう助からない。
呻く子供達をベッドに寝かせたバーズが思う。
『俺はこの子に何を与えられたのだろう』
扉が開く。東国から戻ってきた赤眼の男がエルを一瞥し、一丁のリボルバ―を差し出す。
「悪かったな」
変形した銃を手に取りバーズが言った。
「お前のせいじゃない」
深い青を瞳に宿し部屋を出ていく背中に赤眼の男が声をかける。
「忘れんなよ。俺達はいつだって共犯だ」
黙って部屋を後にする青眼の男を見送ったツェンが、横たわる子供に視線をやった。
臨終の時を迎えようとしているエルから視線を部屋に移すと棚に並べられた写真立てが目に入る。
自分とバーズと一緒に映っている写真。栗色の髪の少女が加わった写真。東国の遊園地でリネアとログも一緒に写っている写真。そこから事務所に戻るまでの6人での写真。ルーチェも写っている写真。白樺の教会から帰る途中で撮った写真。
写し絵の中、徐々にシルファの背を追い越していくエルを見て、不死の男が人間らしい時間の感覚を取り戻した。
黒い雨が降り注ぐ中、青髪の男が泥土に膝をつく。
左の手にしたリボルバ―を頭に当てるが、シリンダーが溶けていて回らない。それでも強引にトリガーを引いた。
ひとつ、ふたつ、みっつ。
「何が約束は守るだこのカス野郎!!!」
『お前の最期は円満に終わらせてやる。約束は果たす』
『ああ、分かった。約束しよう。あの娘に寂しい思いはさせない』
『君に生き方を教えてやる、こんな暴力ばかり以外の世界を見せてやる。約束は守る』
弾も切れ、銃として機能していないリボルバーのトリガーをバーズがそれでも引く。
よっつ、いつつ。
「俺は俺自身を」
『私が君を雇おう。君の死ぬ時を奴等に選ばせはしない』
『今後は私も君を守るということを約束しよう』
むっつ。
「死ぬまで許さん!!」
回らない弾倉の最後の一発を、慟哭と共に頭に撃った。




