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数字のない時計  作者: 夕星。
3/3

透明な未来像

「ただいま」

 家に入ると、台所からいいにおいが漂ってきていた。

「あら、翔お帰りなさい。ご飯もう出来るから」

「んー」

 俺は何時ものように階段を上がって、自分の部屋に荷物を置きに行く。扉を開けようとドアノブを持った時、違う部屋の扉が開く音がした。兄貴の孝浩だろう。

「あ、おかえり」

「···ただいま」

「いつになく無愛想だな」

 こんな顔で悪かったな。あと、この人は実の弟がかわいくないのか。

「早く下りてこいよ、お前の好きな唐揚げ無くなるぞ」

 とだけ言って先に下りていった。ごめん、今はポテトがまだ胃の中で戦ってるから無理があるわ。

 部屋に入り、ベッドの上に鞄置く。机の上に葉書が置いてあることに気がついた。手にとり、裏を見ると“初めての方歓迎!一緒に将棋をしませんか?”と書いてあった。俺は溜め息が出てしまう。

 一階へ下りると、おかずをテーブルに並べている所だった。俺は、先程の葉書を置いていったであろう人物を探す。本人は台所で白米をお椀についでいた。

「兄貴、机のとこにあったやつ、何」

「お、早くも呼んだ?サークルで暇してた時に作った葉書。どうだった?」

 兄貴も今大学へ行っている。

「どうって言われても・・・」

「翔、お茶持ってって」

 俺の微妙な反応の余韻は、母親にかき消された。


「父さん、指さない?」

「久々だなぁ。やるか」

 晩御飯の後片付けを手伝っていると、この会話が聞こえた。またするのか。残念ながら、俺は将棋のことはよくわからない。

 兄貴に何回も誘われるが、その話に乗ったことは一度もない。兄貴が将棋を初めたのは、父親の影響だった。正確には、半分父親で、半分テレビ番組の影響と言った方がよさそうだ。

 俺が小学生の時は、趣味で父親は友人と指していたらしいが、その人は引っ越して行ってしまった。それ依頼、テレビ番組の将棋を観るようになり、ある時たまたま観た兄貴は将棋をしてみたいと言い出したことがきっかけだ。

 兄貴はそれからずっと指し続けている。父親から見たら嬉しい事だろう。

 きっとこうやって自分のやりたいことが決まって行くのだろうが、俺にはやってみたいこととかなりたいものは特に無い。確かに、随分前は格好いいと思うものはあった。でも、それになりたいとは思わなかった。

 だから、中学とか高校で、なりたい職業を配られた紙に書いて出したり、話したりすることが億劫だった。兄貴とは違って、上手く適当に人生の波に乗ってきた感覚だ。


 片付けを終えた俺は、部屋に戻ってベッドに寝転んだ。

ー卒業したらどうするんだ?

 ふと、森田の言葉が過った。そうだよな、“普通”考えるよな。

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