1日目
私、七夕 楓18歳は特にコレと言った不幸、不満はない幸せな普通の家庭に生まれた。
強いて不幸と言えるのは、私が物心着く前に兄が不慮の事故で無くなったことくらいだろうか。
兄は私を可愛がってくれていたらしいが、生憎私にはそのような兄の記憶はない。
そんな私は毎日何時も通りの時間に起きて何時も通り学校に行く。
そして何時も通り友達と話して、授業を受ける。
そんな普通に嫌気がさした。
自分がソコに居るのが当たり前で普通。それすら嫌気がさしていた。
ただ、自分を認めて欲しかった。私がここに居ると認めて欲しかった。誰も私を見てくれない。
それが普通になってた。その、普通が、嫌になった。
かといって、刺激のある非日常を望んでるわけではない。
いっその事消えて無くなりたい。
でも自殺する勇気もなくただ毎日を過ごす。
何時もの授業を終わらせ、友達とまた明日ー!と別れ、私は一人屋上に向かう為の階段を上っていた。
登りきれば、所々が茶色く錆びついた扉が姿を現す。
ドアノブに手をかけて少し力を入れ扉を開けると古い扉特有の重い音を立て開いていく。
扉を開けきり屋上に足を踏み入れれば、夕日が一度に顔に当たり眩しく目を細める。
フェンスに手をかけ、校庭で楽しげに話してる友人を見つけ更に私は目を細めた。
「・・・楽しそうでうらやましいなぁ」
私とは違って普通の日常を楽しめている友人にぼそりと呟く。
私はもう、きっとありふれた日常を楽しめる事は無いだろう。
無意識に手に力が入りフェンスが音を立て、我に戻る。
すでに校庭に居た友人の姿は当になく、私も帰ろうとその場を後にしようと踵を返し歩きだした途端、目の前をその場に似合わない真っ白な羽が一枚ゆっくりと横切った。
咄嗟にその羽を捕まえ、周りを見渡すがこの羽の持ち主と思われる鳥は見当たらない。手の中にある羽に視線を落とす。よく見れば、その羽は僅かだが光って見える。
「綺麗・・・」
見れば見るほどその羽は、思わずため息が出る位に綺麗に見える。
「ソレはそんなに熱心に見つめるような価値は無いと思うぞ」
突如後ろから聞こえた予期せぬ声に振り返るが誰も居ない。同じように周りを見渡しても誰も居ない。
そんな楓を少し馬鹿にしたように、上だ、上。と先ほどの声が聞こえ、恐る恐る上を見上げればそこには夕日を受けているにも関わらず、色あせる事を知らないような立派な純白の翼を持つ一人の青年がいた。
その翼は、ゆうに成人男性を超えるほどの大きさがあるのではないかと思えるほど大きい。
青年は真っ白のローブに身を包み、その背にある翼とは対照的な黒の肩下ほどまで伸びている髪は後ろで一つに纏められており、後ろで一つに括られている髪は、翼が起こしているゆっくりとした風に遊ばれている。
青年の柔らかな茶色の瞳は確かに私を見ていて、私もその瞳から目がそらせなかった。
青年はゆっくり降りてきて、私の目の前で立ち止まる。
無言の時間が流れた。その時間が長いのか短かったのかは私にはわからない。
ただ先にその無言を破ったのは青年の方からだった。
「七夕 楓で間違いは無いな?」
私は首を縦に振る事くらいしか出来ない。
そんな青年は私をゆっくりと見渡し、小さく息をはき口を開いた。
「俺は天より使わされたものだ。これより七夕 楓に神からの言伝を告げる。
ただ意味もなく天に召される事は許されない。だがどうしてもと、言うのならば
寿命は使い切ってから天へと来るがいい。さすれば快く天は貴女を受け入れよう」
一瞬この青年が何を言ってるか、理解が出来なかった。
天?
神?
寿命を使い切る?
青年は理解出来てないであろう楓を気にも留めず言葉を繋げる。
「七夕 楓。貴女にはこの力を預けましょう」
青年はゆっくりとした動作で、楓の前に手を掲げ何か一言呟く。
すると、いきなり青年の手が眩しく光ったと思えばその光は私に吸い込まれる様に消えていった。
ここで漸く思考を放棄していた私の頭が状況を理解し始める。
今目の前にいるこの青年は天の使いと自分の事言っていた。コレが本当なら天の使い、天使だと言う事になる。
ただ青年が嘘をついているようには思えない。何より青年の背にある立派な羽は作り物に見えない上に、先ほど短い時間ではあるが、ソレを使って浮いていたのも見ている。
ならこの青年の言っている、天とは?
簡単だ。この青年が天使なら天国の事だろう。そして神はそのまま天国の神様だろう。
私の願いは聞き届けた。でも、寿命は使い切れ?
それは寿命分ちゃんと生きろという意味で、どこが私の願いを聞き届けてくれたと言うのだ。
そんな事を思えば沸々と怒りが込み上がって来るのがわかる。
楓は自分から少し離れた所で翼を広げ消えようとしている青年に声を張り上げた。
「待って!」
いきなり大声を上げた為、青年は驚きで肩を跳ね上がらせ振り向く。
「願いを聞き届けたのに結局は、寿命で死ねって事?!」
その言葉に青年は、一瞬目を見開き何度か目をしばたかせた。
青年はゆっくりと楓に近づき、自分より頭一つ分ほど背の低い楓に目線を会わせる様に少し屈み口を開いた。
「ばーか」
はぃ?
楓が今度は目をしばたかせる番だった。
「え・・・ちょ、ちょっとどういう・・!!」
「そのまんまの意味だ。寿命を待てないっていうお前の願いを聞き届けた神はその広い御心で俺を使わせたんだ。そして死にたがりなお前のために特例として力を貸してやるとまで言ってくれてんだよ。ありがたく思え」
先ほどまでのゆっくりと、でも力ある言葉が嘘だと思いたくなるほどの言葉に、思わず唖然としてしまう。
「ありがたく思えって言われても、何にも私は変わって無いじゃない!」
自分の手や足等を見るが特にこれと言った変化も無い。その場で飛び跳ねてみても超人的な脚力を手に入れた
わけでも無かった。はたまた、足元に転がっている石に浮け!っと念じても一向に浮かない所を見ると超能力でも
なさそうだった。一体どこが変わったと言うのだ。
「いや、変わった。今お前の中には、神から預かった力が備わっている」
青年は楓を見据え楓に備わった力の説明を始める。
「お前の中に入ってる力を簡単に言うと、お前自身の寿命一年と引き換えにどんな怪我でも病でも治すという
モノだ。ただ死んでしまった人間を生き返らすことは出来ない。極端な話、ちょっとした擦り傷を治すのも寿命
を一年使うし、不死の病を治すのも寿命一年を引き換えに治せる」
青年は一通り説明し終わると、わかったか?と首をかしげる。無言で肯定するように頷けばそんな私の頭を青年は優しげに撫で、翼を広げた。
あまり短期間に力を乱用しすぎるなよ。負荷がかかる。
青年はそう一言言い残すと、その立派な翼を一羽ばたきさせ一瞬で姿を消した。
何気なく自分の手と少年の居た所を交互に見つめる。
「寿命一年にどんな怪我でも治せる、ねぇ・・・」
天の使いだと言う青年。
神が力を貸してくれるとも言う。
おまけに、寿命一年でどんな怪我でも治せると言う力。
あまりにも現実離れした出来事に、私疲れてるのかもしれないなんていう事を思いつつ
屋上を後にした。
天使と名乗る青年に会ってから数日。
あの後、半信半疑だった何でも治せると言う力が本当なのだと、私は思い知らされる事になるのだった・・・
ストックなんてあってないようなものだと、私は最近よく思う(データ紛失)




