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中身はなにも変わりない


「あ――ああ、金髪の方か? あれはユリッシュ・パシュラール。俺の幼馴染で、公爵家の嫡男だ」


 エルキュール殿下が見兼ねて説明すると、ヒメナ様が弾んだような声で「お話は聞いたことがございます。ぜひお話ししたいですわ」と微笑む。

 まあ、なんて綺麗に皮を被れるようになられたのかしら。

 話に聞いていた以上に素晴らしいわ。


「ユリッシュ」

「はい。――初めまして、ヒメナ嬢。この度はエルキュール殿下とのご婚約、誠におめでとうございます」


 公爵様に促され、ようやく顔を上げたユリッシュが嫌味をたっぷり込めて祝福する。

 祝福の言葉とは裏腹に、色気全開。

 とても幼馴染の友人の婚約者に対する顔ではないわ。

 殿下もそれをわかっていて、あからさまに眉を寄せる。

 でも仕方ない。

 ユリッシュの紹介の時に『親友』を使わなかったのは殿下だもの。


「めっちゃイケメン……やばぁ……」


 心の声がダダ漏れね。


「あ、申し訳ありません。えっと、公爵様って、王家の次に偉いお家ですよね」

「まあ……そう、だな……」


 わざとニコニコと聞いていたけれど、爵位についてもしっかりお勉強したのね。

 それなりに曖昧なのが心配だけれど。

 ――あら?

 ユリッシュが目を細めてわたくしの方を見た。

 あらまあ、本当に悪い(ひと)ね。


「ユリッシュはこの国で唯一の主魔児(アルグ)の魔法剣士なのですよ。ああ、先にお祝いを申し上げるべきでしたわね。エルキュール殿下、ヒメナ様、ご婚約おめでとうございます。心よりお喜び申し上げますわ」


 にこり、と微笑む。

 わたくしがユリッシュのことを少しだけつけ加えてあげただけで、ヒメナ様の目の色がわかりやすく変わった。

 あまりにも、薄汚い性根が丸出し。

 よろしくないわね、淑女教育を努力していたと聞いていたけれど。


「それに、お兄さまは此度、バミニオス討伐を成したのですわ! わたくしのお兄さまはすごいのですよ、ヒメナさま!」

「まあ、フィアナ。ご挨拶もしていないのにお話に入ってはいけないわ」

「ごめんなさい、お母さま。ヒメナさま、初めまして。わたくし、パシュラール公爵家のフィアナと申します。ご婚約おめでとうございます」


 ユリッシュの意図を理解してフィアナが無邪気を装って追加情報を与える。

 でもさすがだわ、フィアナ。

 わたくしを手本に、しっかりと最後に祝福の言葉をつけ加えておく。

 百点ね。


「……エルキュール殿下、ワタクシ、自信がなくなってまいりました」

「ヒメナ? どうしたんだ? 急に」

「ロゼリア様と出会った日、淑女としての差を思い知らされ、ロゼリア様のような淑女にならなきゃ、って殿下に協力してもらいながら勉強もマナーも頑張ってきました。でも、立ち居振る舞いからしてロゼリ様は完璧。ワタクシなんて、やっぱり足下にも及ばない……!」


 なにか小芝居が始まったわね。

 キョトンして見守っていると、獲物を定める獣の眼光がユリッシュに向けられる。


「やっぱり! エルキュール殿下にはロゼリア様が相応しいです! ワタクシなんて……ワタクシなんて!」

「ヒメナ!? いったいどうしたんだ!? そんなことはないよ!」

「でも! でもやっぱり……ワタクシは……! お願いです、殿下! ワタクシを公爵様の家で行儀見習いをさせてください!」


 ざわ、と会場が騒めいた。

 まあ、なかなかの策をこの瞬時に思いつくとは。

 頭の回転は本当に早いのね。


「ぎょ、行儀見習いで、公爵家に……」

「はい! ロゼリア様のような淑女になって、エルキュール殿下の妻に相応しくなるために! ダメでしょうか?」

「いや、それは……」


 ちらり、とエルキュール殿下が公爵たちを見る。

 ブリジット様が呆れたように目を細めながら――。


「殿下、次が詰まっております。そのような話は後ほど公爵に打診してはいかがでしょうか」

「そ、そうだな」


 そう、この場はご挨拶の場。

 歓談の場ではないわ。

 ヒメナ様、まだまだね。

 そしてわたくしたちのあとに挨拶と祝福の言葉を贈った貴族たちは、その半数がそそくさと会場をあとにして去っていく。

 特に娘を持つ貴族の足の速さは目を見張る。

 あっという間に会場はスカスカ。

 こんなに人の少ないパーティーは初めて見たわ。

 ちなみに公爵様もフィアナがいるのでさっさと帰ろうとしていたし、わたくしもアリスとハレノ様には見せたくはなかったので帰ろうとしたのだが、使用人に『後ほど殿下からお話があるとのことなので』と必死に引き止められた。

 フィアナはすでに女神様との融合がなされているせいか「そんなに心配しないで、お父様。こうして別室にいるのだから、大丈夫ですわ」とおとなの余裕。

 少しして、殿下の護衛騎士が扉をノックして入ってきた。


「エルキュール殿下とヒメナ様が公爵様とロゼリア様にお話があるとのことなのですが、よろしいでしょうか?」

「断ると言ってもこれだけ長い時間引き止められたのだ。文句の一つも言わせてもらわねばこちらの気が済まぬ」

「……はっ。申し訳ございません」


 公爵様に睨みつけられて、騎士の一人が慌てて廊下へ戻る。

 間もなく入室してきたのは、エルキュール殿下――のみ。

 あら? ヒメナ様も一緒に来ると思っていたのだけれど……。


「ロ、ロゼリア……! 頼む! ヒメナを説得してほしい!」


 ……………………あらあら?



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