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パーティーの前菜(2)


「実は、ヒメナ様と聖女ハレノ様の世界には身分制度がないのだそうです。おそらくヒメナ様はご自身の世界のパーティーを基準にされて、実践してみようと思われたのではないでしょうか? わたくしも一応ヒメナ様の後ろ盾ということになっているのですが、なにも相談していただけていないので憶測にはなるのですが……」

「なんと……」

「ロゼリア様は瘴兵討伐の遠征に行ってらしたのでしょう? 仕方がありませんわ」

「というか、身分制度が、ない……? いったいどのように政を行なっているのだ?」

「その制度のパーティーを参考にして開催したということか? なんという無礼な……!」

「噂以上に無謀なことをなさろうとしているのね」

「それならそうと事前に連絡をするべきでは? 招待状にはなにも書いていなかったぞ」


 どんどん広がる不平不満。

 まあ、こうなるわよね。

 わたくしの登場で『助かった!』と喜んでいた使用人が、旗色の悪さにまた困り顔になっていく。

 そして、わたくしに縋るように見つめてくるのが面白い。

 思わずにこりと微笑んでしまう。

 まあ、あなたは雇われて巻き込まれただけだものね。

 わたくしはヒメナ様の方に不平不満が向けられただけでも十分なのだけれど。


「皆様、そんなふうにおっしゃらないで差し上げてくださいませ。ヒメナ様にとって、初めてのパーティー開催ですもの。至らないところは周りの者が支えてあげればよかったのです。わたくしは王都を離れていたので、どなたがヒメナ様の教育に携わっていたのか存じ上げませんが……やはり異世界の文化を取り入れた、新たな形への挑戦は難しかったのでしょう。身分制度を取り払った入場は、パーティーを楽しむ時間が増えた、と思うことにして、本日のところは大目に見て差し上げませんか? せっかくの殿下とヒメナ様の婚約発表披露パーティーですもの」


 ね、と軽く手を合わせて微笑むと、婦人たちは「ロゼリア様はお優しいですわね」と仕方なさそうに肩を落として頷く。

 殿方たちももう一度微笑むと「まあ、初めてではな」「確かに、殿下の婚約発表披露パーティーですからな」「エルキュール殿下の元婚約者であるロゼリア様が、そこまでおっしゃるのなら」と意図を理解してくださった。

 そう、わたくしは殿下の婚約を祝っているのだ。

 わたくしの婚約破棄は王家側の責、と公表されているが、わたくしは殿下の新しい婚約を祝福していると通じればそれでいい。


「ところで、パーティー会場もヒメナ様の世界のようになにかいつもと違うところがありますの?」

「え? あ、は、はい。色々と……」

「そうですか。では、それを楽しみに入場させていただきますわね」


 一応、最後に使用人に『他にもなにかやらかしている可能性』を聞いてみる。

 すると、案の定色々――つまり一つではない――通常のパーティーとは違うところがあるらしい。

 その場に残っていた高位貴族たちは、それを聞いて眉をまた顰めている。

 わたくしがにこにこ笑って『それを楽しみに』と言ったので心の準備をしておいた方がいい、と受け取ってくれたようだけれど。

 はあ……いったいなにをやらかしているのかしらり

 怖いわね。

 使用人が一気に顔を青くしたあたり、わたくしに対してなにか仕掛けてくるつもりが満々らしい。

 せっかく助けて差し上げたのに、わたくしに『帰れ』と言わないあたり、わたくしが困っても助けるつもりはないみたい。

 まあ、そのこの程度のことで怒ることはない。

 パーティーのために雇われた使用人であれば主催者に従うのは当然のこと。

 見方によっては実に優秀。


「ブリジット様、ハレノ様、アリス、ユシス、入場してよいそうですわ。わたくしたちもまいりましょう」

「あ、えっと。公爵様たちを待っていてもいいですか?」

「ああ、そうですわね。ではわたくしたちは公爵様をお待ちしましょうか。でしたら、空き部屋がないか聞いてまいりますわ」

「俺が聞いてまいります! 何度も何度もドレスの姉様に動いていただくのは大変ですから!」

「そう? それじゃあユシスにお願いしようかしら」


 さすがに気遣いができるようになったわね、ユシス。

 ユシスに任せると、すぐに空き部屋を借りて来てくれた。

 そちらの部屋に移動すると、いつの間にか公爵家の使用人が入室してきて、それに混じってエミューナがハレノ様のお化粧やドレスを直し始める。

 あらあら、すっかりハレノ様の侍女ね。

 立ち居振る舞いも平民上がりとは思えないほど美しく無駄がないものになっているわ。


「ジヴェ様、ロゼリア様、なにかお飲み物をお持ちいたしますか?」

「そうね、温かいものがあったらお願いしてもよろしいかしら?」

「俺は必要ない」

「かしこまりました」


 控室はそれほど広くはないのだが、簡易キッチンもあるので魔力がある侍女があっという間に湯を沸かす。

 まったりと待っていると、間もなく侯爵ご夫妻とユリッシュ、フィアナが戻ってきた。

 わたくしたちに対して「待たせてすまない」と謝ってくださったが、そんなことは本当に気にしなくてもいいのに。


「いかがでしたの?」

「驚いてはおられたが、フィアナが女神であることは疑いようがない、とおっしゃってくださった。それを前提として話を進めてくださるそうだ」

「エルキュール殿下とヒメナ・ウミイエとの婚約についてはなにか言っていたのだろうか?」


 公爵様が、ブリジット様の問いにこめかみを揉み始めた。

 なんかもう、それだけで察してしまう。



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