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パーティーの前菜(1)


 ハレノ様に声をかけたそうな貴族がチラチラと見える。

 そんな中、伯爵の身分の入場が開始した。

 ブリジット様も一応身分は伯爵家だが、今日はわたくしのエスコートをお願いしているので動かない。

 それにしても、侯爵家以上、そして権威の強い伯爵家を玄関ホールや廊下に放置するとは本当にどういうつもりなのかしら?


「パーティーにはあまり出ないが、こうして貴族が廊下に立って待たされるのはいささか異様だな」

「ええ。わたくしもそう思いますわ。恐らく、あれほど前々から来客を集めていても、国王陛下や王妃様には認められていないのではないでしょうか。だからパーティー運営の人員を割けなかったのでしょう」

「王や王妃に認められていないのに婚約を発表しようというのか? それはさすがに……」

「あとは単純に、パーティーの運営というものに不慣れ。人を集めようにも、人望が足りなかったのでしょうね。基本的に、王宮のダンスホールを使用してのパーティー運営は王妃様あるいは王子妃、王太子婚約者が主体となって運営を行うものなのです。ヒメナ様は淑女として、王子の婚約者として恥ずかしくないよう教育を受けているらしいですが……四ヶ月程度ではパーティーを運営するほどには至らなかったのでしょうか? それならわたくしにお声がけくださればお力になりましたのに」


 ふう、と頬に手を当てて溜息を吐く。

 もちろん、わたくしに声をかけてくだされば本当に力になりましたわよ。

 ビシバシ色々言わせていただくけれど。

 ヒメナ様には新たな王子の婚約者としてどのように振舞わなければならないか、徹底的に思い知らせなければなりませんもの。

 すべては今後ヒメナ様が恥をかかないために必要なことですわ。

 今現在、このように高位貴族たちに不満を向けられないために!

 もう遅いけれど。


「も、申し訳ありません! ど、どうぞ入場してください!」

「あら? もうわたくしたちも入場できるのかしら?」

「は、はい。ゆっくりとお家ごとにご入場ください。あの……身分の差などは……あまりご考慮くださらなくてもよろしいので……」

「まあ……」


 城の使用人が冷や汗を流しながら家ごとに声をかけている。

 入場に身分の差を考えずに、各自で入場したいタイミングで入場しろ、ということらしい。

 ――なるほどね。


「どういうことだ?」

「おそらくヒメナ様とハレノ様の世界を参考にしているのではないかしら。ハレノ様たちの世界には、この世界のような身分制度がないとお聞きしたことがあります」

「ああ。そういえばそんな話をしていたな」


 ブリジット様も三ヶ月以上ハレノ様と旅をしているのだもの。

 特に好奇心旺盛な方だから、ハレノ様の世界についても色々聞いている。

 ハレノ様の世界は頂点に天皇という王が君臨し、それ以外は“役職”や“職業”のみが存在するらしい。

 その役職や職業に応じて尊敬を集めるらしいけれど、それはつまり“成したこと”で判断されるということ。

 生まれながらに貴族であれば、ある程度尊重される我が国とは違った実力主義。

 そんな世界でユリッシュがやっていけるのか不安だけれど、ハレノ様いわく「でもユリッシュさんはモデルとか俳優とかでやっていけそう」らしい。

 モデルや俳優は見た目が九割だというので、見た目のよさは神がかっているユリッシュには天職そう。

 しかし、なるほどね。

 この手際の悪さは、ヒメナ様がヒメナ様の世界を参考に、その文化を取り入れて運営した結果なのね。

 けれど、使用人たちはそれが理解できない。

 というよりも、理解がしきれないのだろう。

 これまでのやり方を実行しようにもヒメナ様がヒメナ様の世界のやり方を押し込んでくるから、現場が混乱しているんだわ。

 本来であればそのすり合わせ、妥協点の探し方などを入念に行わなければならないのに、わたくしたちが遠征で留守の四ヶ月、それらをまともにしてきていないのかしら。


「どういうことなの? わたくしたちを伯爵家の人間たちと同じように入場させろということ?」

「案内してくれないか? 君一人か? 他にも誰か連れてきてくれ」

「もっとちゃんと説明していただかないとわかりませんわ」

「いえ……あの……ですから……そ、その……」


 伯爵家や侯爵家の人たちから詰められる使用人。

 可哀想に。

しどろもどろになって、完全に囲まれてしまった。

仕方がない。

ヒメナ様の意図がなんとなくわかるわたくしが行くのが一番早いでしょう。

彼は悪くないのに、使用人が一番可哀想だもの。


「皆様、そのように詰め寄っては可哀想ですわ」


ブリジット様とユシス、アリスとハレノ様に一言言ってから彼らに近づき声をかける。

元々わたくしに話しかけたがっていたご婦人たちは、それだけで一歩下がってくださった。

殿方たちもにこりと微笑むだけで「う」と小さく声を漏らしつつ使用人が見えるように体をずらしてくださる。

お礼の意味を込めて、もう一度微笑む。


「ありがとうございます。ねえ、あなた。もしかしてヒメナ様に『身分関わらず、早く来た方を入場させるように』等の、通例とは違う指示をされているのではなくて?」

「は――はい!はい!そ、そうです!」

「ああ、やはりそうなのね」

「どういうことだね?」


頰に手を当てる。

とても仕方がなさそうに目を伏せつつ、訝しげにこちらを見てくる貴族たちに向き直った。



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